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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

列島縦断ネットワーキング【鹿児島】

サマースクールで離島の分校・分教室問題の進展を

西園健三

はじめに

鹿児島県は九州本土に属する二大半島(薩摩半島と大隅半島)と多くの離島からなり、その距離は約600キロと南北に長い県です。県全体の人口の9%ほどが離島居住となっています。

鹿児島の特別支援教育での条件整備において、現在大きな課題になっているのは、離島の分校・分教室問題です。種子島・奄美大島という二つの島以外には養護学校(本県は従来の盲・聾・養護学校)がありません。本土に比べ生活面でも多くの負担を抱えている上に、障がいの重い子どもを持つ家庭はさらに教育面でも「貧しい選択」を強いられています。通常の養護学校教育を受けようとすれば、住んでいる土地を離れ、家族とも別れて島外の学校に行くしかありません。島内に残っても訪問教育という従来の教育から比べると安上がりの薄められたものしか無く、また、実態に合わない地域の学校の特別支援学級に措置されるしかありません。

離島の中で最も支援の必要を迫られている徳之島は、奄美大島の南にある人口2万5千人ほどの3町からなる島です。そこで私たちは保護者や地域の声を拾い上げ、数年前から養護学校の設置運動を進めてきました。そして昨夏、実際に子どもたちとの取り組みを通して、一足先に「こんな学校があればいいなー」「学校って素晴らしい」という具体的なイメージをもってもらうために、“わくわくサマースクールIN徳之島”を実施しました。

国連の障害者権利条約で謳われているインクルーシブ教育を実現するためには、各地域でインクルーシブな地域作りが不可欠です。地域の中で障がいやさまざまなハンディがあっても「排除」(インクルージョンの反対語)されないこと。学校でもない家庭でもない“第3の場”で、地域の子どもたちと一緒に共に遊んだり活動したりする学童保育の場作りは鹿児島でも進みつつあります。

ガジュマルの木陰で

徳之島の伊仙小学校の校庭にある大きなガジュマルの木。木陰に子どもたち、親、関係者が次々に集まり、次第ににぎやかになっていきます。大きな木陰には爽やかな風。みんなで歌ったり、バルーンで遊んだりして楽しんだ後、参加者が自己紹介して仲良くなった開校式。伊仙町の町長さんや町議の方々、伊仙小学校の校長先生も参加していただき、熱い激励の言葉をいただきました。最後に、色とりどりの紙テープが見事に風に大きく舞い、みんなの思いを乗せてサマースクールが始まりました。

最初はカレー作りです。大人も子どもも一緒になってワイワイ作ります。家では怖くて使わせられない包丁やガスもみんなと一緒なら少し安心。子どもたちも包丁を一生懸命使ってジャンジャン野菜を切って、あっという間に楽しく準備ができました。

カレーを煮込んでいる間はボールプールや大型積み木でたっぷり遊びます。みんなよく遊ぶ!徳之島の子どもたちのエネルギーにびっくりしました。最初はバラバラに遊んでいた子どもたちも、だんだんとまとまって遊んでいくから不思議。親御さんたちのまとまりが子どもたちのまとまりに関係しているのかもしれません。できあがったカレーをみんなでおいしく食べます。さすがに自分たちで作ったカレーはとてもおいしく、おかわりの子が続出です。お母さんたちの持ち寄ったデザートも格別。少し休憩したら、隣の「ほーらい館」で大人たちも一緒にプール遊び。暑い日だったのでとっても気持ちいい。みんなと一緒だともっと楽しい。たっぷり水遊びを満喫しました。

伊仙小に帰り、お母さんたちが準備したかき氷をおいしく食べて閉校式です。たった1日だけのサマースクールでしたが、子どもたちも心地よい疲れと満足感に包まれているようでした。

仲間たちと集い、ゆったりとした時間の中、それぞれの子どもたちが「仲間と一緒」の安心感を得ながら、それぞれのペースで自分を実感できる楽しい1日だったように思います。「またみんなと遊びたいな」という余韻を残しながら「1日だけのサマースクール」は無事に修了しました。

総会と学習会

夜は大人向けの学習会です。その前に、今年度の徳之島療育研究会の総会が開かれました。療育や福祉の関係者や保護者など広範な地域の人が集うこの研究会は、養護学校分校設置運動の屋台骨を担っています。来賓には、開校式に引き続き、町長さんと町議会議長さんが参加され、何と学習会終了まで一緒に学んでいただきました。すごいことです。

学習会では、沖縄の養護学校や寄宿舎存続・設置を筆者が報告し、保護者と先生たちの力強い運動を伝えました。次に、サマースクールに参加した私の同僚で学童保育の経験のある先生が、学童保育の素晴らしさや重要性、子どもたちの成長の様子を体験を交えながら話し、最後に、県父母の会会長さんが、これまでの父母の会の歩んできた足跡を語り「離島を含めた県下全域の親と子が幸せに生活できるようこれからの運動を一緒に頑張っていきましょう」と地元にエールを送りました。

まとめと今後に向けて

大島養護学校の訪問教育の子どもから、現在は沖縄の養護学校に越境入学している高等部生、そして地域の小中学校で学んでいる子どもたち、兄弟など健常児も含めて19人の参加でした。南国の美しい自然の中で子どもたちのきらきら光る瞳がとても印象的で、この地への養護学校の必要性をさらに強く実感しました。分校あるいは分教室の設置を急いでほしいものです。地元の奄美新聞が翌日、この取り組みを大きく紹介してくれて、大きな反響も出てきました。

この後、サマースクールに参加した親子たちは奄美大島に渡り、大島養護学校を見学しました。夜の交流会では「地元にもこのような学校がほしい」と涙ながらに訴えられました。このような声は、世界自然遺産の屋久島や沖永良部島、喜界島、県最南端の与論島など多くの島から上がっています。また、私たちも参加している各地での学習会では、「分校・分教室だけでなく、保育や療育から特別支援教育へのシステム作り」や「学校卒業後の生活・労働の場作り」へ等の意見も活発に出されています。

都市部には無いものも多い離島ですが、小さいながらも“顔の見える”関係者のネットワークや地域に密着した学校作りや小規模分散化は、過密過大校が急増している現在の特別支援学校にとって、逆に私たちが学ばなければならないことでもあります。先にも述べた教育条件だけでなく、離島で豊かな生活を送るため福祉や医療なども含めた“インクルーシブな地域作り”もテーマにし、分校・分教室問題を考えていきたいと思います。

(にしぞのけんぞう 障害者・患者・高齢者の生活と権利を守る会(障全協かごしま)事務局長)