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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

列島縦断ネットワーキング【沖縄】

共に働き・共に育つ企業づくり

比嘉ゑみ子

昭和59年5月15日、民宿経営から転業し、ダスキンフランチャイズチェーン加盟店として起業して今年28年目を迎えます。

起業20年目の2004年、わが社が地域に受け入れられ、役に立っている会社なのか、経営者としての責務も果たし得ているのか自問自答していた時、地元の社会福祉法人主催のフォーラムに誘われ数人の経営者で出かけました。プログラムの把握もせず、仲間の経営者の発表もあるから応援に、という軽い気持ちでした。これがわが社の方向性を大きく転換することになろうとは、この時は予想だにしませんでした。

フォーラムは障害者雇用をしている企業の発表や支援者、行政の立場からの発表のシンポジウムと、働いている障害当事者の報告、卒業を控え働くことを希望している生徒の発表等、盛りだくさんの内容でした。恥ずかしいことに私はそれまで障害者を支えるのは福祉の分野が行うべきで、客観的なお手伝い程度ならという貧しい考えの人間でした。
実践している経営者の人間性にも心打たれたのですが、何より心打たれ感動したのは、高等部3年の生徒の発表でした。「企業の皆さん!僕を企業で働かせください!僕は企業で働いてお母さんに楽をさせたいです!」。これを聞き、涙が止まりませんでした。

私は今まで人の何を見てきたのだろう、私も子どもを持つ母親、こんなにひたむきな言葉を聞いたのは何年ぶりでしょうか。熱い思いが後から後から溢れ、経営者仲間の発表が終われば中座しようと思って参加したのですが、最後まで動けませんでした。

わが社はそれまでサービス業だから接客業だからと、障害者の実習依頼もお断りしていました。それだけに、こんなしっかりとした立派な自己主張を聞いて、自分の貧しさに恥ずかしい思いを禁じえませんでした。

社員教育でロールプレイやスピーチの訓練等いろいろ実旋していますが、「心からの叫び」というのはこんなにも相手を動かし、人に伝わるものなのだと気づかされ、翌日の朝礼で社員に話しました。そして、改めて会社の仕事を入り口から出口まで分析・分解してみました。すると、どんな仕事でも分解すればシンプルになるし、障害者にもできそうな仕事がけっこうあることにも気づきました。可能性に気づいたらまずは一歩踏みだそう、20歳の大人の会社として踏み出すチャンスにしようと思いました。そう思うと不思議なもので、当時の養護学校の進路の先生が実習依頼のためにわが社を訪れました。過去にお断りをしていたのがうそのように前向きに受け止めることができ、どんな生徒が来るのかわくわくし期待もしました。

初めての実習生は片目が弱視、片手マヒ、知的障害のある人でした。不安がないといえばうそになりますが、1番の心配は社員の対応でした。事前に話はしてあるもののだれを責任者にしようかと悩みました。仮にA君と呼ばせてもらいますが、A君の不自由ながらも前向きな仕事への姿勢をみて、だれかれなく社員たちの倉庫の整理が始まりました。これまで大まかで雑然としていた倉庫の整理が指示されたわけではなく社員の内発的な行動で始まったことに大変驚き、うれしくてたまりませんでした。

いろいろな機会や環境をつくることも大切な社員教育なのだと気づかされ、障害があるなしではなく、新人社員でもだれでも分かりやすい、出し入れしやすい倉庫にしておく、当たり前のことを明確化し実践する。これが5Sの真の実践なのだとみんなで改めて感じ、社内の見直しも同時にできたと感謝しています。

人は、「効率」という側面だけで戦力になるのではないということにも気づかされました。たった2週間の実習期間で私たちは多くの気づきを得、当初の不安感が期待感に変化したことで、A君が卒業したら雇用することを全員一致で決めました。

わが社の初めての試みに対して、就労支援の関係機関、行政、多くの力添えでトライアル雇用がスタートしました。仕事を得たことでA君は体もひきしまり、自らの目標も掲げ日々成長が楽しみでした。後輩が入社すればA君も新たな役割を担うことで成長できるだろうと複数雇用に向け、新事業の導入(清掃事業部)に踏み切りました。何年も前から導入計画をしては取りやめ、なかなか具現化できなかった新事業が複数雇用を目指すことですんなりと前進しました。そして、障害者雇用が2人、3人になり、その間実習生も10人を超えるようになり、私たちもさまざまな出来事を体験し、対応も多様化してきました。これらが社員や私たち経営者を成長させたのはいうまでもありません。

しかし、中小企業の雇用拡大にも限界があります。何かほかの形で障害者の就労の機会を作れないかと考え、作業所の当事者の皆さんでお掃除隊を結成し、社員がお掃除指導に伺うことにしました。最初はなかなかうまくいかず、キレイになる喜びつまり「感性」を養わなければいけません。そのためにはやはり顧客の立場で、他人と関わりながらのOJTによる体験が、役立ち感が芽生え感性も形成され、かつ、やりがいにつながるのではと考えました。そこで、新規物件の入札にチャレンジしました。仕様書にもお掃除隊4人と明記し、外周清掃を引き受けました。

その時に考えたのが「横請け」という仕組みでした。部位別に見積もった金額をそっくりお掃除隊に回し、ユニフォームはわが社のものを着用し、週3日の協同の仕事が始まりました。するとどうでしょう、お掃除隊は嬉々とした表情に変わりどんどんスキルアップをし、目を見張る変化でした。ビルの関係者の皆さんに「キレイにしてくれてありがとう!」と声をかけていただくこともやりがいにつながったようです。3年間この形を続け、携わった社員も素晴らしい指導と連携ができるようになりました。

「共に働き・共に育つ企業づくり」。わが社の経営方針がしっかりできあがったのもこのお陰と思っています。

平成22年4月よりお掃除隊の2人を短時間雇用(週20時間)で社員として迎え入れ、大きな戦力として頑張ってもらっています。工賃から賃金(給料)に換わったことで、2人は盛んに将来の夢を語るようになり、私たちに聞かせてくれます。アパートに住み一人で生活し、オシャレもして彼氏もみつけたい等々、その夢を叶えるお手伝いをしたいと真に思いました。

現在の雇用は6人になりましたが、わが社では日常の仕事で実習生が来ても新入社員が来ても自然に受け入れ、共に仕事を教えあい高めあう社風になったように感じます。

これまでの経験から、わが社の経営方針を説明する時に、いつも「働きたいに応えるために」を話しています。

*人は障害の有無に関係なく、「働く」ことを通して生活に必要な技能を高め、知識を習得し、人や地域との関わりを広げてゆきます。

*「働くこと」は、自らの生活(生きること)の質を高めると同時に、納税者、消費者として、社会に貢献することになります。

*同時に、働く環境(雇用の場)を提供する企業としての責務の一つでもあります。

*職場実習の積極的な受け入れや、体験学習としてサポートし、育成に努力します。

と記したものを渡し、理解を求めるとともに社内でも確認しあうようになりました。

人は皆、不完全で、その不完全さと多様性を認め合うことから、「人を生かす経営」「人間尊重の経営」の入り口に差し掛かる。最近、やっと分かりかけてきたように思います。

これからも企業努力を続けながら、多くの障害者雇用ができること、福祉の延長線上ではなく企業の戦力づくりとして取り組んでいきたい、社員と一緒に会社磨きをしていきたいと考えています。

(ひがえみこ 有限会社やんばるライフ専務取締役)