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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

あきらめない! これからも続く道

秋保喜美子

名前が変わっても…

2012年2月8日、第19回総合福祉部会が開催され、障害者自立支援法に代わる新しい法律案が発表されたこの日、私は広島から5時間かけて会場に向かった。新法案発表は楽しみでもあり不安でもあり、とても複雑な気持ちだった。

厚労省からの新法案の説明は、これまでの経過措置を含めた説明で長々と読み上げられたが、新法に向けての事項はわずかで、それは誰(だれ)が見ても「自立支援法の一部改正」としかいえない内容だった。自立支援法違憲訴訟で国と交わした「基本合意」の内容や総合福祉部会でまとめられた「骨格提言」内容がどこに入っているのかさっぱりつかめず、悪夢をみているようだった。委員の方から次々と抗議の質問が飛び交った。のどの奥がぎゅーっとしまり涙が出そうだった。東京大学教授の福島智さんの抗議発言は、やりきれない思いに陥っている多くの人たちの胸の内と共通し、会場いっぱいに拍手が沸き起こった。

翌2月9日、訴訟団PTメンバー(私もメンバーの一員)は、厚労省と面談することができ、新法案について質問攻めをした。「基本合意はなぜ入れられないのか! 掲げられた課題の解決策はどこに示されているのか!」「自立支援法を廃止する約束ではなかったのか!」「骨格提言を踏まえた新法案にしてほしい!」と問いただした。厚労省の説明は「新法に「理念」が入ったことや経過措置での利用負担軽減をしてきたことで「応益負担」は無くなり85%は「応能負担」になった」「自立支援法廃止は現場が混乱するので廃止はできない」など道理の合わない回答ばかりだった。

その後、記者会見や緊急フォーラム、民主党WTのヒアリング、地方での大集会、地方議員訪問など、さまざまな取り組みが行われた。

そして、2012年3月13日、「障害者総合支援法」という法案が閣議決定され、今国会で審議される運びとなった。それは2月8日に発表された新法案に言葉の付け足しや年数の数字の変更があったぐらいで「自立支援法の一部改正法案」でしかなかった。名前は変わっても自立支援法の骨格はしっかり残っている。「基本合意」は完全に無視され、約束は破られた。

司法の場で裁判終結させた約束事である「基本合意」が、こんなに簡単に破られるとは…こんなことがあるなんて信じられない現状だ。

みんなを苦しめる自立支援法

2006年4月から「障害者自立支援法」が導入され、障害年金で生計を立てている私たちの生活を苦しめた。施設利用も生活支援も障害の重い私たちにとって必要最小限の支援を受け、やっと地域の中で生きがいの持てる生活ができているのに、多額の利用負担を強いられ生活が成り立って行かなくなった。ごく普通の生活をするための支援なのになぜ「応益負担」なのか? これまで長い年月をかけてコツコツ積み上げつくられてきた福祉が「自立支援法」の「利用負担」や「障害区分」や「日払い制度」などによって利用しにくくなったり、施設運営が行き詰まったり、福祉現場で働く人たちの所得保障も下がったり、地域格差も起こり、大変な状況になった。

全国各地で「応益負担をなくしてほしい!」と運動がはじまり、毎年10月には東京日比谷野外音楽堂で大フォーラムやデモ行進、国会要請などさまざまな形で訴え続け、利用負担額が少しずつ下げられた。しかし「応益負担」は無くならない。

2008年10月31日の第一次全国一斉提訴以降、全国14地裁、原告71人は、応益負担制度の廃止を求め、違憲訴訟に踏み切った。

基本合意に至るまで

2009年8月政権が交代し、障害者自立支援法の廃止が宣言され、10月には国から原告らに訴訟終結に向けた協議の申し入れがあった。裁判が始まったばかりの地裁もあり、原告みんなあまりにも急な展開にすぐ受け入れられず、原告、弁護団、勝利をめざす会三者で検討し、政府との協議を持ちながら訴訟も続けていくことになった。

政府との協議で、応益負担を無くす第一歩として、低所得者の利用負担を無くすための予算の確保はままならず、結局、要望の半分の予算で一部の人たち(低所得1、2の人たち)の利用負担が無くなったが、自立支援医療による利用負担や配偶者の所得合算による利用負担は残り、基本合意の中に課題項目で記されている。

2010年1月7日、厚生労働省講堂で、障害者自立支援法違憲訴訟に挑んだ全国14地裁の原告や弁護団、勝利をめざす会メンバー、民主党障がい者PTの議員のみなさん、厚生労働省の幹部のみなさんが見守るなか、自立支援法違憲訴訟の基本合意を交わす調印式が行われ、訴訟原告代表として私が署名をした。これでやっと自立支援法は廃止され、新法制定に向けての道が切り開かれた!と胸ときめかせたが、今は大きな岩盤で道をふさがれた仕打ちに耐えられない思いだ。

でも、絶対あきらめない!

2010年4月から始まった「総合福祉部会」は、新法作りに向けてさまざまな思いをもつ55人が意見を議論し合い、1年数か月かけて意見をとりまとめ「骨格提言」が出された。それは思想信条の違いを乗り越え一致点をつかみ作られたのに、新法案にはわずかしかくみ取られていない。こんな新法では問題解決になるはずがない。

「基本合意」や「骨格提言」に沿った福祉法ができるまで絶対あきらめない! これからも、私たちはつながりを深め、社会に訴え続けていきたい。

(あきやすきみこ 障害者自立支援法違憲訴訟元原告)