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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

自治体から見た障害者総合支援法案の問題点と課題

二見清一

障害者総合支援法案が上程され、議論の場は国会に移った。法案の内容もここまでのプロセスも、真義に反するものであることは明白である。政治の信頼を失墜する、重大な背信行為であることの詳細は他の執筆者に譲り、総合支援法案の内容について自治体職員の立場から考察し、問題点と課題を明らかにしたいと思う。

なぜ「障害者総合支援法」なのか

民主党WTも厚労省も、法の名称を変え、理念規程を改めることで、自立支援法は実質的に廃止になると強弁している。法の名称変更と言えば、1998年の知的障害者福祉法、2000年の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)の改正があった。前者は精神薄弱という言葉が差別や人格の否定を助長すると問題視されたこと、後者は1993年の障害者基本法の制定(これも心身障害者対策基本法からの名称変更)で三障害という概念が確立されたことに伴う変更であった。

法の名称が変わると、さまざまなことの根拠が変わることになる。そのため市町村では、法の名称が変わっても、廃止されて別の法律に変わったとしても、事務的には同じような作業、たとえば法施行細則や条例・要綱の改廃、支給決定システムの改修などが必要になる。自立支援法を廃止すると市町村や事業者が混乱するというのが免罪符のように使われているが、大変さはどちらも変わらない。

それにしても名称を変えるなら、なぜ「障害者総合福祉法」ではいけなかったのか、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」などという長い名前にしなければいけなかったのか、理解に苦しむ。もちろん問題はその内容であるが、「名は体を表す」とはよく言ったもので、推進会議や総合福祉部会での議論を踏まえて作られたものとは到底思えない内容である。

総合支援法案の問題点

1.応能では不安が残る利用者負担

利用者負担の構造は、厚労省が言うところの「22年改正」のままで変更はなく、応能負担を明確にしたと言いながら、相変わらず法上に明確な規定がない。自立支援法第29条を読んで、すんなり理解できる方はかなりの強者と思われる。詳細な説明は省くが、もともと自立支援法に利用者負担に関する規程はなく、支援を受けた際に要した費用の9割を負担するとしか書いてない。代理受領の仕組みになっているので分かりにくいが、本来は要した費用の全額を障害者がいったん負担して、そのうち国が定めた金額の9割を、後から公費で支出するというのが基本的な考え方である。

それが22年改正によって「国が定めた金額(報酬単価)」から「家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める額(応能負担分)」を差し引いた額を支払うように変わった。つまり、掛け算から引き算になったということだ。「政令で定める額」と「利用した費用の1割」を比べて、1割の方が安ければそれが利用者負担額になるという定率負担の考え方も残り、世帯の範囲(配偶者を含むこと)も変わらないため、22年改正は現状を追認し、それらしく言い替えただけと言える。

なぜ応能負担では不安なのかというと、その金額は「政令で定める」となっているからである。時の政府が「もっと負担してもらおう」と考えれば、法改正をしなくても負担増を強いることができる仕組みである。介護保険の自己負担を1割から2割にという声が上がっては消えているが、その実現には、介護保険法を改正しなければならない。消費税増税と同様に、それをやると選挙で勝てないと危惧する議員がいて、それで歯止めになっているという一面もある。基本合意も裁判所への誓約も国が破る状況では、政令で定めるという条文では不安が残るため、骨格提言が求めるとおり「原則無料」を法上に位置付けることが重要である。

2.支給決定プロセス3年先送りの果ては?

障害程度区分の認定を含めた支給決定の在り方は「段階的に講じる」と検討規程に盛り込まれ、サービス体系の再構築ともども先送りになった。先に送るなら送るで骨格提言の方向で進むのか、それは問題があるから違う仕組みを検討するのか、せめて方向性は示すべきだと思うが、おそらくは示すべきアイデアを持たないか、今のままでいいと思っているかのどちらかだろう。

22年改正の相談支援の充実もずいぶんとトーンダウンしてしまった。サービス利用計画作成対象者の拡大について、「平成26年度までに原則としてすべての対象者について実施」と、2月になって昨秋まではなかった「原則として」が追記され、市町村の判断で段階的に実施すればよいとなってしまった。骨格提言の協議・調整モデルと支援ガイドラインは、全国で実施するにはまだ議論が足りない感があった。それでも大きな方向性が示され、そこに向かうステップとして4月からの法改正と思われたが、障害程度区分をめぐるさまざまな課題も結局はそのまま。これからの3年間を無為に過ごさず、実効性のある検討をしなければ、自立支援法附帯決議にあった「5年のうちに所得改善」と同様、うやむやにされかねない。

市町村に求められること

多くの地方議会が「早期に総合福祉法の制定を」という決議を採択している。国が作る制度に縛られるのは致し方ないにしても、市民である障害者やその家族が何を求めているのか、その声に真摯に耳を傾け、実現のためにできる限りのことをすることが、市町村がしなければいけないことではないだろうか。

(ふたみせいいち 足立区中部福祉事務所)