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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

就労支援の三つの宿題

志賀利一

障害者総合支援法案において、就労の支援は、検討規定として法の施行3年を目途として検討されることになった。

背景

措置制度の時代から、障害福祉サービスはノーマライゼーションの理念の台頭とニーズの多様化により、あらゆる福祉施設において「自立と社会経済活動への参画の支援」が求められていた。しかし、使命と現実には大きな乖離が存在した。平成9年の「今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)」において、「障害者の就労、活動については、授産施設、福祉工場の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用が可能な者については、労働行政との連携の下に適切な移行を図るとともに、生きがい活動的な日帰り介護・活動事業(デイサービス)や小規模作業所等との関係の中での位置付けについても考えることが必要である」と就労支援機能の明確化が課題とされていた。

障害者自立支援法において、サービス体系をシンプルに変えるとともに、「一般企業での雇用が可能な人」に焦点を当てた就労移行支援事業が、さらに就労継続支援事業については、社会経済活動への参画の多少によりA型とB型が創設された。

障害者総合支援法は、サービス体系をより一層シンプルに、就労支援は「社会就労センター」にすべてを集約すると考えられる(総合福祉部会の骨格提言より)。ただし、社会就労センターは、一般就労へ向けての支援は、期限を定めることなく行うとされており、就労移行に対する強いインセンティブを与えた現行の制度の是非についてほとんど議論されてこなかった(図参照)。


図拡大図・テキスト

新たな法律(平成24年2月21日厚生労働省案)において、民主党障がい者ワーキングチームの意見として、「障害者の就労の支援の在り方の検討:法に基づく障害者の就労支援の在り方の検討に併せ、労働法規の適用も含め、多様な就業の機会の確保のための方策についても、障害者の一般就労を更に促進する観点から検討すべきこと」と加えられており、一般就労に向けての支援は、施行事業とともにその成果が議論されるべきテーマになった。

サービスの成果

就労支援は、他のサービスと比較して、成果が数字に表れやすい分野である。就労移行の成果は、サービスを終了した後、一般企業等で雇用を継続している人数が大きな指標になる。社会経済活動への参画は、サービス受給者の平均賃金(工賃)がある。もちろん、単一の数字で、事業所のサービスの質をすべて表すことはできない。しかし、社会的な使命を理解し、質の高い事業運営が行われていれば前記の数字は必ず高い水準に達するはずだ。

就労移行に関して、平成15年段階で就労を理由に福祉施設を退所したのは1,288人であった。就労移行支援事業がスタートした後、この数字は大きく伸び、平成22年は4,403人に増えている。また、就労移行支援事業を終了し、就職した企業等で半年後も働き続けている人は、平成22年1年間で定員の16.4%である。さらに平成18年の段階で、定員の20%以上が就労定着者を出している事業所は全国に9か所しかなかったが、平成22年段階で310か所と増えており、就労移行支援のノウハウが着実に全国に広がり始めていることがわかる。しかし、就労移行実績ゼロの事業所も436か所あり、適切な事業運営が「できない」あるいは「やろうとしない」事例が問題視されている。

社会経済活動への参画の数字は、ほかにも公表されている。平成19年より実施された工賃倍増5か年計画対象施設では、平成18年の平均工賃月額12,431円から平成22年には14,304円に増加している。いくつかの成功事例はあるものの、全体として倍増には程遠く、最低賃金の上昇の状況を考えると、一定の成果と言えるレベルには達していないのが現状である。

就労支援は、国や地方の経済状況や雇用環境に左右される。同時に、障害者雇用促進制度も大きく関わってくる。現在、障害者雇用促進制度の改正等をにらみ、3つの研究会が厚労省で開催されており、この結論は、就労支援の方向性に大きな影響を与えると考えられる。

おわりに

平成28年度までの間、障害者の就労支援は、3つの視点から評価・議論していくことになる。それは、1.一般就労をさらに促進する仕組み、2.社会経済活動の参画としての工賃向上計画、3.社会的雇用等の多様な働き方に関する施行事業である。一人でも多くの障害者が、経済社会活動に積極的に参画できる社会の実現へ向け、3つの視点それぞれの事業の展開と実績を多角的に分析していく宿題が残された。

(しがとしかず 独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園 事業企画局研究部)