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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

1000字提言

忘れてはいけない3.11

北谷好美

日本中を震撼させた東日本大震災から1年が経つ。現世代を生きる誰(だれ)もが経験したことのない大地震は大津波を引き起こし、一瞬のうちにたくさんの尊い命を奪い去った。

あの日のことは忘れられない。私はベッドに座って経管栄養を滴下していた。地震は呼吸器を付けた動けない体を揺らした。ベッドの傍らで介護者はしゃがんで片手で呼吸器、片手で私の体を押さえた。激しい揺れがあまりにも長く続き、窓が大きく歪んだ瞬間、もう駄目かと思った。膝がガクガクした。娘と夫の安否が気になった。停電にならなかったのが幸いだった。

原発事故による電力不足で3月14日から計画停電の知らせ。十分な備えと対処法がなかったので怖気(おじけ)づいた。

私たち人工呼吸器を付けた在宅難病患者にとって停電は命の危機に直結する。停電時に、呼吸器は内部バッテリーに切り替わるが、それは数時間しか持たないため、外部バッテリーに切り替えなければならない。また、自力で痰を出せないため、吸引器を使っているが、こちらも携帯吸引器または足踏み式に替えなければならない。自家発電機も手段の一つではあるが、管理が大変な上に住宅密集地では使えないと思う。

東京都内の人工呼吸器装着者数は785人(東京都福祉保健局2011)で、そのうち、発電機を所有している者は、たったの87人(11.1%)。外部バッテリーを所有していない者は290人(36.9%)、アンビューバッグ(手動による呼吸の確保)を所有していない者は31%にもなる。

命綱であるバッテリーを所有していない人の不安と恐怖を想像してほしい。この震災の停電で、山形県では人工呼吸器療養者が死亡する事故が起きている。

東京都は昨年7月に、停電時等における安全確保のため「在宅療養患者緊急時対応支援事業」を創設し、外部バッテリー・自家発電機などを患者に無償貸与することを始めた。しかし、この事業は期限付きの上に東京都のみの処置である。

呼吸器からは空気が送られてくる。皆さんが意識することなく吸っている空気と同じものだ。どんな状況においても、私たち人工呼吸器使用者にも自然に空気が送られてくるようにしてほしい。

早急に、この事業が全国の人工呼吸器使用者に適用されることを願っている。国は、継続的に長期的に、この事業の支援をしてほしいと思う。

人の命と生活を守ることができる国こそが、3.11を経験した日本が目指すべき姿ではないだろうか。

(きたたによしみ 日本ALS協会運営委員、主婦)