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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

フォーラム2012

国立障害者リハビリテーションセンター
国際セミナー「大規模災害と障害者支援」の開催報告

通畠尚子

はじめに

国立障害者リハビリテーションセンターは、『世界保健機関(WHO)の「障害の予防とリハビリテーション」に関する指定研究協力センター』として認定されています。指定を受けるに当たり、WHOに対していくつかの協力活動を約束しています。

その協力の一つに「国際セミナーの開催」があります。当センターでは、平成9年より、その時々にふさわしいテーマを設定して開催してきました。

本年度は、昨年の東日本大震災での経験を共有することと海外の経験を知ることを目的として、“災害と障害者支援”をテーマとすることにいたしました。

今回のセミナーは、2部構成で行われました。前半に、災害により障害をもつことになった方々への医療支援やリハビリテーションについて、1.中国の四川大地震災害を経験された四川大学華西医院リハビリテーション部長・何成奇教授、2.インドネシアのスマトラ沖大地震とそれに続く津波被害などを経験されたインドネシア大学医学部・トゥーラー教授に基調講演をお願いしました。

後半には、国内から、1.被災地の障害当事者の方々から被災の状況と課題・提言をいただき、2.支援団体等からは支援の実際と課題などについてお話をいただきました。以下、簡単にご報告します。

■基調講演1 四川大学教授・何成奇氏

中国四川大地震の医療支援の経験から、包括的なリハビリテーションの体制が喫緊の課題であったことから政府を動かして体制を作り、リハビリテーションの流れの中に義肢の製作と訓練を組み込むことができたこと、非常に多くの患者に対応するためにリハビリテーション専門家を教育し、全国土に配置する必要があることなどをお話いただきました。

■基調講演2 インドネシア大学医学部教授・アンジェラBMトゥーラー氏

インドネシアスマトラ沖の地震と津波の両方での医療支援の経験から、災害が起こったときには救急救命のために、いち早く医療スタッフを現地に送り込むこと、それから、早期リハビリテーションの実施・地域リハビリテーション(含む教育)の必要があること、障害をもつことになった方の家族へのアプローチを行うことなどが提言されました。

■発表1 全国脊髄損傷者連合会岩手県支部副支部長・日當万一氏

岩手県(会員)の被災状況の聞き取り調査から、避難所生活がいかに不都合であったか、車いす使用者に提供された仮設住宅がバリアフリーになっていなかったことが明らかになり、なかには、体調を崩し1か月ほど寝たきりの生活を余儀なくされた方がいたことなどの実情をご報告され、行政の災害対応マニュアルの整備と、仮設住宅は10%でもバリアフリー住宅を用意するよう求めていました。

■発表2 社団法人宮城県ろうあ協会事務局長・浅野順一氏

避難所生活で情報保障が得られなかったことによるトラブルや居心地の悪さから、避難所を出て自家用車内で過ごしていた会員等の実態と、宮城県内の多くの手話通訳者は自らも被災者となっていたため、全国からの手話通訳者派遣が必要だったこと等を報告されました。また、全日本ろうあ連盟を中心に「みみサポみやぎ(みやぎ被災聴覚障害者情報支援センター)」を立ち上げ、被災聴覚障害者に対する情報発信・情報提供を行っていることなどの活動をご紹介いただきました。

■発表3 日本盲人福祉委員会東日本大震災視覚障害者支援対策本部事務局長・加藤俊和氏

視覚障害者への支援活動を行う過程で、支援を必要としている被災障害者の方々を見つけにくかったこと、個人情報保護により使える名簿が限られたことなど、大変なご苦労をうかがい知ることができました。肢体不自由の方や聴覚障害の方と共通する問題もあったが、視覚障害者故の情報不足(入手の困難さ)があり、孤立してしまうケースが多かったことなどのご報告をいただきました。

■発表4 宮城県リハビリテーション支援センター所長・樫本修氏

更生相談所の機能を持つ支援センターでは、市町村機能もマヒした状況のなかで、「待っていても相談はない、こちらから行かなくては」と活動を始めたこと、活動例として1.応急的福祉用具の提供、2.被災地での補装具相談、3.リハスタッフを派遣してコーディネーターの役割をする、などをご報告いただきました。また、仮設住宅では必要なはずの手すりが、車いすの方にとっては、逆に邪魔となり撤去したことなど実例を示していただき、会場からはうなずきが見られました。

■発表5 当センター発達障害情報・支援センター言語聴覚士・東江浩美

発達障害情報・支援センターでは、震災直後に、Webサイトに「災害時の発達障害児・者支援について」のページを作成し、テーマ1.すぐにでもできること、2.知識のある人を活用しよう、3.困っていることに気づくには、として情報の発信を行ってきたことを報告し、今後は、発達障害児・者のニーズを踏まえた、障害福祉サービスの利用支援に関する調査を予定していること、将来的には、災害対応に関するマニュアルの作成を考えていることを発表しました。

■発表6 中国四川大学華西医院リハビリテーション部副部長・何紅晨氏

基調講演をされた何教授とともに中国から来日され、教授とともに、訓練制度を立ち上げ、専門家の育成のためにリハビリテーション教育を行っていること、その現状と成果について発表されました。今後、日本とも協力していきたいと締めくくられました。

■ディスカッション

最後のセッションは、パネルディスカッションの形式で行いました。会場からの質問に、中国、インドネシア共に、災害時にはさまざまな国・地域からの支援をいただいた。特に、人的支援が大変有効であったと発言されました。また、災害時において障害者がどうされていたかは、両国の講演者とも障害に関わる団体や部門との連携ができておらず承知できていないと説明されています。

さらに、国内発表の皆さんからは、今回の災害では、災害被害もさることながら、避難所や仮設住宅での生活環境の悪さ・長期化が、今後、新たな障害の発生に繋がるのではないかとの心配の声が聞かれました。過去の災害を通じて得た情報が共有されていない、障害ごとの相互理解が不十分であることから、平常時から情報提供や理解をすすめる必要があること、また、行政に対しては、災害時の障害のある人々への対応マニュアルの整備を要望されていました。

まとめ

本セミナーでは、外国からのお二人に基調講演を、頸髄損傷の方・聴覚障害の方、視覚障害者支援・肢体不自由者支援・発達障害児者への情報発信に当たられた方々に発表をしていただきました。それぞれの活動から早急に解決すべき課題の、その一部が判明したのではないでしょうか。マスコミ報道などからでは得られない、貴重な体験談やご報告をいただけたと思います。

当日は、障害当事者、障害者支援に関わる団体職員、研究者など多数の方々にご参加いただきました。今回のような自然災害が再び起こらないことを祈るばかりですが、“備える”ことも必要なのだと切に感じたのは私だけでしょうか。

発表された皆さま、ご参集の皆さまとともに、顕在化した課題について当センターとしても取り組みができればと思います。

本セミナーの開催にあたり、ご協力いただきました方々には、心より御礼申し上げます。

最後に、日本盲人福祉委員会の加藤俊和氏の言葉をお借りします。

“障害者は遠くへ逃げられるか? 障害者は高い場所まで逃げられたか? 障害者は2階で生活できるか?”

(とおりばたなおこ 国立障害者リハビリテーションセンター企画課長)