音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年4月号

列島縦断ネットワーキング【和歌山】

はまゆう作業所の“おいしい”製品づくり

深瀬幸子

はじめに

平成9年3月、『はまゆう作業所』が2人の利用者と1人の指導員で産声をあげました。それから15年、作業所の利用者も35人(定員40人)、支援員も12人になり、多くの方々に支えられながら今日に至っています。10年間小規模無認可作業所だったため、運営面では非常に厳しく、いろいろと困難な壁にもぶつかりながら何とか乗り越えてきました。

平成18年には障害者自立支援法が施行され作業所を取り巻く状況も一変しましたが、平成18年10月にはNPO法人格を取得し、平成19年1月1日より障害者自立支援法による指定障害福祉サービス事業の指定を受け、就労継続支援(A型)の作業所として出発しました。

スタート時は定員15人でしたが、平成23年10月より定員を40人に増員しました。

はまゆう作業所の理念は、

一、仲間一人一人の個性と能力を尊重し働く喜びを皆で共感する。
一、時間・資源・人を大切にし、社会貢献していく。
一、精神的・経済的自立を援助する。

工賃アップ『切り干し大根』の取り組み

障がい者を取り巻く環境は、ここ数年めまぐるしく変化しています。障害者自立支援法は障害者総合支援法に名を変えようとしています

当作業所では、全員に和歌山県最低賃金を保障して給与が支払われています。少ない方で月4万円、多い方で14万円となっています。バックに大きな母体もない、社会福祉法人でもない単体の小さな作業所である『はまゆう作業所』ですが、パワーだけはどこにも負けません。

ここでは、当作業所の事業おこし『切り干し大根』の製造販売についてお話したいと思います。

ちょうど4年前の冬、農家をされている保護者の方から、バザーのおでんに使うようにと30本位の大根をいただきました。当然おでんだけでは余ってしまい、残った大根を削り、切り干し大根を作ったのが始まりです。次の年から知り合いの農家の田んぼ(稲刈りが終わったところ)を借りて大根の栽培を始めました。売れ行きは好調で、あっという間に在庫がなくなってしまいました。

翌々年、10万本を作付けし、和歌山県の産品商談会へと繰り出しました。福祉施設は参加しておらず一般の事業者に混じっての挑戦でした。運よく商談がまとまりましたが、商売に不慣れなため、卸価格の交渉やパッケージの工夫等、さまざまな問題が起こり、そのたびに頭を打ち勉強していくという繰り返しでした。

平成22年の秋、厚生労働省が工賃倍増5か年計画支援事業として、好事例発表・展示即売会『至福のお届け』を開催しました。和歌山県では当作業所の切り干し大根を含め3事業所の製品が出品されました。全国からさまざまな製品の応募があり、その中で優秀製品(12品受賞)に選定されるという機会を得ました。それで関係者一同また弾みがつき、切り干し大根作りに夢を見出したのでした。

これを契機に和歌山県知事の定例会見でも話題にしていただいたり、地元紙などでも取り上げられるようになり、はまゆうといえば『切り干し大根』と言われるまでになりました。

切り干し大根は庶民的なおかずでだれでもがよくご存知ですし、作り方もいたって簡単です。大根を栽培する農家の方なら、冬の貴重な乾物食品としてよく作られています。大根を千切りにして天日で干すだけです。ただ、乾物製品なので酸化が進むと変色や臭いも強くなります。これを抑えるべく素人なりの研究を重ね、パッケージも何度も変更しました。金属探知機の導入や脱気機能付きシーラー機の導入、脱酸素剤の改良等も行いました。また、栽培方法についても農家の方に指導を受け、無農薬で栽培し、カキ殻を肥料に土壌を作りました。

一つのものを作っていく時、こんなにも一生懸命になれるのかと思うほどの情熱をみんなで注ぎ込みました。たかが大根ですが、これが私たち作業所の命の綱ですから。地元の産直市場や道の駅などで、乾物製品の中では売り上げNo.1になりました。そして生協でも大きな販売量をたたきだしました。切り干し大根は、従来の当作業所の自主製品と並んで大きな柱となったのです。

作業は大きく栽培と加工に分かれ、その中にいくつもの作業工程があります。畑に種をまいてから製品となって出ていくまで約半年、その間の作業のどれかに利用者は携わっています。利用者にとって、ここは「働く」場所であり、どんどん仕事の提案がある場です。自分が必要とされているという実感を得られる場でもあります。そうなってくると、「楽しい」し「責任感が湧いてくる」のです。しかも高賃金(労働に見合った賃金)となってくると、今度は仕事への愛着・意欲が出てきます。それがやりがい、生きがいとなって実感されます。支援員も利用者も一緒ではないでしょうか。みんながやりがいを持って働ける場をつくっていこうと願っています。

開所当時から障がい者の就労・工賃アップには「農業が無限の可能性」を秘めていると確信し事業を行ってきました。農業は誠実に仕事をして野菜を育て世話をし、工夫し、誠実に野菜を加工すれば、必ず一定の顧客をつかみ収益が上げられます。作業の援助をして日々感じるのは、彼らは本当に一つ一つをゆっくりではありながら丁寧に一生懸命にやっていくということです。

野菜を作り、きちんとした製品として仕上げ、消費者の元にお届けするまで手間も時間もかかりますが、モノを製品化するプロセスが見通せ、いろいろな人々と関わり合いながらやっていくこの仕事(農業・農産加工業)は大変適していると思います。また、アドバイザーとして地域の高齢者(農家のお年寄り)がいろいろと知恵を授けてくださったり、手伝ってくださったりと農業のノウハウが自然に学べるのもありがたいことです。

経済状況の悪化により「仕事がない」「仕事がない」と言われています。地方においては企業も何もありませんが、「農業」という宝箱があります。地域性を活かした特産物も栽培可能ですし、自ら特産品を作っていく楽しみもあります。

現在、当作業所の利用者はどんどん増えています。はまゆう作業所は「働きたい」という意思を持っている方を応援し「労働の楽しさ」を実感していただきたいと思っていますが、もう定員も残りわずかとなってきました。働きたい願いに応えていくにはもっと規模を拡大していかなければなりません。定員の拡大、働く場所のスペースの問題、設備投資の問題等、さまざまな課題を抱えています。しかし、勇気を持って進んでいかなければなりません。

今後の展望

〈社会貢献〉

はまゆう作業所の開所当時からの理念に「時間・資源・人を大切にし社会貢献していく」というのがあります。

○誠実な商売をする。誠実にモノを生産し誠実に販売するその手本となりたい。

○障がい者がいきいき働く姿勢を示すことによって一般の「障害者観」を変えると共に、今現在、目標を見失いかけている方に「労働の大切さ」や「元気」を発信したい。

〈これからやってみたいこと〉

当作業所の収益活動をより一層活発にし、利用者工賃を上げていく。別業種の方々とも交流して、私たちの持っているノウハウもお教えして情報の共有を図り一緒に発展していきたい。障がいをもつ方だけでなく、さまざまな困難により就労が難しい方の経済的自立や精神的自立を支援したい。

そう強く願いつつみんなと汗を流す日々です。

(ふかせさちこ 特定非営利活動法人はまゆう作業所施設長)