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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年5月号

グループホームにおける権利擁護

室津滋樹

1 権利擁護は大切な入居者への支援

グループホーム(ここではグループホーム・ケアホームを総称してグループホームと記載する)においては、日常の支援のあり方そのものが権利擁護につながるものである。入居者がひとりの市民として、社会から認められているさまざまなチャンスを使いながら地域生活を十分楽しむことができるように支援すること。つまり、入居者本人が希望する生活を実現できるように、日常生活支援を充実していくことが大切な権利擁護である。

また、入居者に関係するさまざまなところで、ひとりの人間として尊敬・尊重され、身体的にも精神的にも侵害されない権利が守られているか見守ることも大切な支援である。

2 グループホームにおいて続出する権利侵害事件

ところが、最近、入居者の権利を守るべきグループホームにおいて、その運営や援助に携わる者が入居者への重大な権利侵害を行う事件が相次いで起きている。なぜ、グループホーム運営者や援助者による権利侵害事件が後を絶たないのであろうか。

障害者グループホームは、小規模であることから1人勤務の場合が多い。また「生活の場」であることから、入居者のプライバシーを守る必要があり、どうしてもグループホームの中の様子は見えにくく、密室化しやすい。

小規模であることも、プライバシーを守ることも、入居者にとっては大切なことであることを考えると、小規模なグループホームが密室化しやすいことを考慮に入れた見守りの仕組みを取り入れることが必要である。入居者に対して適切な援助や運営が行われていることを見守る仕組みを整備することが問われている。

3 グループホームの風通しをよくすること

この仕事をしている人で、最初から権利侵害を行おうと思っている人はいないであろう。いつのまにか不適切な援助に陥り、それをリセットできないまま、結果として重大な権利侵害に至ってしまうということをどうやって防ぐかが重要である。

不適切な援助を許してしまう背景には、人の目が届きにくい環境、グループホームの風通しの悪さがある。風通しをよくするために、日常的に関わる人たちとのつながりを活用することが大切である。

まずは、日常生活の中で、障害のある人たちが地域の一員として地域の人たちと挨拶を交わし、言葉を交わすことによって、地域の人たちが入居者と顔見知りの存在になることも大切なことである。

また、入居者が関係する通所先、ヘルパー派遣事業所、相談支援事業所、福祉事務所のワーカー等、入居者に関わる地域の事業所が支援を通してつながり、ネットワークを形成し、それぞれの立場から相互に入居者を見守ることも大切である。グループホームのみではなく、お互いの事業所で入居者に対する不適切な援助がないかどうかを見守っているということを共有し、「適切な援助を行う」という意識を高めあうことが不適切な援助を防止する重要なアプローチとなる。特に、相談支援事業所がその中心的な役割を果たすことは非常に重要なことである。

また、地域の自立支援協議会を活用してグループホーム同士の集まりを設け、グループホームの関係者同士が話し合える場をつくることも風通しをよくするために役立つ。

4 援助者の社会的地位の向上

グループホームは、泊まり勤務が多いことから、職場としては敬遠される傾向があり、グループホームの援助者を募集しても集まらないという状態が起きている。このような状態では援助者を選ぶことは難しい。そもそも非常勤やパートのスタッフも多く、安定した援助体制を確保しにくい状態にある。援助者が不足し、ぎりぎりのところで365日の援助体制を組み立てざるを得ない状況に置かれると、未熟な人でも1人勤務に入ることも多くなる。

「障害者の生活を支援するという仕事」の重要性について一般の人たちにも理解を広げ、この仕事の社会的地位を上げることによって、「社会に役立つ魅力ある仕事」として選ばれるようになることが重要な課題である。

5 より積極的な仕組みづくり

1.入居者を見守る仕組みの拡

グループホームで権利侵害が起きる要因のひとつに「見ている人はいない」「本人も障害があるからしゃべれないだろう」という潜在的な意識があるのではないだろうか。これに対するより積極的な対応策として、横浜市では、市民の目線からグループホームへの見守りを行うことに取り組んでいる。

これは、一般の人や家族、障害者本人、弁護士等で編成された数人のチームでグループホームを訪問し、入居者、援助者、運営者それぞれの立場の人と話をし、夕食を共にし、ひとときを過ごすものである。その時間の中で入居者の様子や援助者の援助の仕方などを見て感じたこと、あるいはグループホームの雰囲気から感じたことを報告するという取り組みである。

グループホームで行われていることが社会からかけ離れたものとなっていないか、一般の人から見るとどのように見えるのか等、関係者が見えていなかったことに気づくこともある。市民の方が入居者に対する支援を改めて評価する場合もあり、それも重要なことである。また「こういったところは改善した方がいいのではないか」との指摘を受けた場合には、関係者がそのことについて話しあい、改善に向けて取り組むきっかけともなる。

このようなグループホームを見守る仕組みを整備することを急がなければならない。

2.援護の実施機関の問題

グループホーム入居においては、入居前に利用者が居住していた市町村が、援護の実施者となっている。

本来、グループホームが存在する住所地の市町村が援護の実施機関となるべきであるが、支援費制度がスタートした当初においては、グループホームは入所施設周辺に偏在している傾向が大きかったため、自治体の負担を平均化するために、当面の措置として入居前に居住していた市町村を援護の実施機関とすることになった経過がある。

しかし、この方法では援護の実施機関がグループホームのある地域と離れている場合、福祉事務所のワーカーの訪問は少なくなる。訪問の回数が少なくなると、おのずと入居者の様子を把握したり、話を聞く機会は持てなくなり、「適切な援助が行われているか」「入居者の様子に気になることはないか」等、見守りを続けるという役割は果たせない。

横浜市で入居者への金銭虐待を起こして指定取り消しとなったグループホームでは、援護の実施機関が市外となっている入居者が多く、グループホームのある地元の福祉事務所とのつながりがほとんどなかったと聞いている。「当面の措置」とされている今のやり方をいつまでも続けるのではなく、グループホームのある地元の福祉事務所が援護の実施機関となるようにすべきではないだろうか。

3.複数の目で見守る仕組み

平成24年度から新たにグループホーム入居者のサービス等利用計画を相談支援事業所が作成することとなった。この仕組みが整えば、入居者に関係する事業所が地域の相談事業所と一緒に入居者のアセスメントを行い、援助に関する計画を作成することになる。

複数の目で入居者一人ひとりの援助について検討することは、グループホームの密室化を防ぐために大変重要である。さらにもう一歩進めて、サービス等利用計画を作成する事業所とサービスを実施する事業所が同一法人で完結してしまうのではなく、複数の法人が関わることが権利擁護につながるものと考える。

6 さいごに

平成24年10月より障害者虐待防止法がスタートする。障害者虐待防止法のスタートとともに、グループホーム入居者への権利を守る取り組みが一層、加速されることを願っている。

また、入居者への不適切な援助を防止するためには、入居者自身が不適切な援助に対していやと言える力をつけることも重要なことである。障害者虐待防止法がはじまることにより、入居者、援助者、運営者それぞれの立場において「入居者の虐待を防止する」ことへの取り組みが強化されることを期待している。

(むろつしげき 障害のある人と援助者でつくる日本グループホーム学会事務局長)