「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年5月号
ほんの森
Hi! みのり
ニューヨークシティ・マラソンとその後
中王子みのり著
評者 斯波千秋
これから出版
〒441―8052
豊橋市柱3番町79
定価(本体1500円+税)
TEL 0532―47―0509
メール korekara09@tees.jp
全盲で歩行困難の女性が、「風を切って走りたいな~」と何気なく発信した言葉に、多くの仲間たちが集まり、また、アメリカから手こぎ車いす自転車―ハンドサイクルが送られてきた。伴走者や練習場所など多くの困難があったが、仲間たちの知恵の連携で解決。結果は2度のニューヨークシティ・マラソン完走の快挙となる。「全盲の人がハンドサイクルでの完走は世界初の快挙」と新聞は称える。
「障害者と言われる人」は、「そんなことできっこない!」「無理だ!」「何言ってるの!」の言葉で、やりたいことや夢を潰され続け、夢を持つこと自体を諦(あきら)めてしまう。
しかし、浜松市のアパートで一人暮らしをする中王子みのりさんは、常に夢を持ち続ける。夢の達成までの道のりや喜びを、また、日々の生活や街中で感じる困難や不条理の壁について、何気なく「なぜ? おかしいじゃん?」と自分のホームページに書き伝える。「関わりの中の自立」を語る彼女には、「できっこない!」「無理だ!」の言葉は、「やりがいがある」に置き換えられ、挑戦へと繋げてしまう。
全盲で車いすに乗り社会を歩くと、不完全なバリアフリーと人の心のバリアが見えてくる。そこで怯(ひる)まないのが彼女。そして社会が少しずつ理解し、ユニバーサルデザインの社会が見えてくるのだ。もちろんここに達するまでには、たとえば’70年代の青い芝の会の闘いをはじめ、諸先輩の活動が切り開いた福祉の地平があればこそのことである。
「障害者が街に出ると街が変わる!」は、彼女が盲導犬と通った作業所ウイズのスローガンである。
約5年間、ホームページに書いた文章を自身の生い立ち、マラソン挑戦、病気の進行、見えないバリアなどに分けて率直に描きまとめた本である。
「私の望みは、障害者、福祉、介助などをみんなで考えたいのです。それは障害者自身も、健常者も含めてのことです。そのためにはまず知ることが大事だと思いました。」(本文より)
この本を読まれた「障害者と言われる人たち」が夢を持つこと、発信すること、挑戦することに自信を持ち、「関わりの中の自立」を考えるきっかけにしていただきたい。
(しばちあき NPO法人六星ウイズ代表)
*墨字本(四六判、192ページ)のほかに、本書にはテキストデータ版引き換え券が付いています。