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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年5月号

列島縦断ネットワーキング【千葉】

企業との連携で成長し続ける「新聞エコバッグ」

筒井啓介

人に合わせて仕事を創り出す

特定非営利活動法人コミュニティワークスが運営する「地域作業所hana」は、三井アウトレットパーク木更津のオープンやちばアクアラインマラソンの開催で、街全体がちょっとした話題を集めている、千葉県木更津市にある福祉作業所(就労継続支援B型事業所)です。

精神・知的・身体のいずれかに障がいのある方が、地域作業所hanaに通い、さまざまな仕事を通じて、将来の就労や自立生活に向けた職業訓練、さらには賃金向上に向けて、日々努力を積み重ねています。作業所名の「hana」はハワイ語で「仕事」という意味を持っており、それぞれが「仕事」を通じて、精神的・経済的自立や生活安定、将来の就労を目指す場にしてもらいたい、そんな想いを込めてつけました。

私たちは、「仕事に人を当てはめるのではなく、人に合わせて仕事を創り出す」ことを理念の一つにしているため、さまざまな利用者さん(障がいのある方)との出会いが増えるにつれ、仕事の種類も多岐に渡るようになりました。現在は、不要になった英字新聞を使った新聞エコバッグの制作、スイーツ作り、雑貨品のタグ付け・検品作業、商品セットアップ作業、縫製作業、農作業、ナチュラル石けんづくり、メール便配達などを主に行っていますが、その中でも新聞エコバッグ作りは当法人の大きな柱に成長しつつあります。

新聞エコバッグ誕生秘話

地域作業所hanaを開設した当初は、パソコンでのデータ入力作業が主な仕事で、最盛期には10台以上のパソコンがフル稼働していました。ところが、近年は景気の影響もあってか、発注元の企業が経費削減を行う中で、データ入力作業自体の打ち切りが相次いでしまいました。

一気に仕事を失った私たちは、地域にある内職センターなどから内職作業を回してもらいましたが、単価が1円以下であることも多く、利用者さんの工賃は下がる一方。このままではモチベーションを保つことすらできないと、新しい仕事を生み出す必要性に迫られていました。

一方で、当時私たちは、小物や小銭をやり取りするために、小さなぽち袋のような平袋を多用しており、その平袋をわざわざ購入するのはもったいないため、印刷物の裏紙などを材料にして、利用者さんに作ってもらっていました。それを見た職員の一人がこれを英字新聞で作ればおしゃれになり、雑貨屋さんなどで扱ってもらえるのではないかと提案があり、早速、英字新聞を取り寄せ、利用者さんに作ってもらいました。出来上がった商品を近隣の雑貨屋さんの方々に見せると、これがなかなか好評で、いくつかの店舗からは定期的な発注もいただくことができました。

ところが、平袋ではどんなに値段を高くつけても10円前後が限度です。生産ラインを機械化するわけではないため、これではどれだけ量産できたとしても、単価が低すぎて工賃向上が見込めません。もっと付加価値を付けて、単価を上げることはできないかを考えた結果、職員から出てきたアイデアが英字新聞を使ってバッグを作るというものでした。

その後は、すでに制作されている新聞バッグを取り寄せたり、関連の本を読みあさったり、ネットで情報を調べたりと、ありとあらゆる情報をリサーチし、利用者さんが作ることができ、かつおしゃれで売れる商品になることを念頭に、商品開発を繰り返しました。

ある企業との出合い

商品開発を繰り返し、ようやく新聞エコバッグとしての形が見え始め、商品のテスト販売がスタートした頃、企業から出る廃材を売れる商品にすることでの有効活用や、これらの製品製造を日本の町工場や福祉作業所で製造委託することにより雇用開発を図ることをミッションとした「ニューズドプロジェクト」を展開する株式会社ケンエレファントの方々と出合いました(現在は、より事業強化を図るため「特定非営利活動法人ニューズドプロジェクト」としてNPO法人化しています)。

ニューズドプロジェクトではすでに廃材を使ったデザイン雑貨を展開しており、地域作業所hanaで作った新聞エコバッグを見ていただくと、「ぜひこの商品を販売してみませんか」とオファーをいただきました。そして、その直後にいただいた販売の機会が、毎年、東京の代々木公園で大々的に開催される「アースデイ東京」でのブース出店でした。私たちとしては願ってもない大きなチャンスでしたが、その際にご提案いただいた販売価格が、開発当初に自分たちで想定していた価格の2倍の値段であったため、本当に売れるのだろうかという不安も拭えませんでした。

そして、いざ「アースデイ東京」の2日間を終えてみると、2日間でなんと1000枚の新聞エコバッグを完売させることができました。1000枚が完売したという事実もそうなのですが、実際に店頭で販売をさせていただくと、お客様からのリアルなご意見や評価を聞くことができ、「これはいけるかもしれない」と私たちにとって大きな自信となりました。

広がり続ける新聞エコバッグ

アースデイ東京での販売が私たちとしては大きな実績となり、その後はさまざまな企業や店舗から新聞エコバッグの購入依頼や、デザイン系イベントでの出店依頼が舞い込むようになりました。そして、その営業やプロモーションのほぼすべてをニューズドプロジェクトの方々が担ってくださいました。

私たち福祉作業所の職員は、利用者さんの日々の作業指導や生活支援、さらには品質管理や納期管理といったマネジメント業務に追われ、営業やプロモーション活動にまでなかなか手が回らないのが現状です。そこで、新聞エコバッグについては、営業活動をニューズドプロジェクトの方々にお任せし、私たちは生産側に徹することで、より品質の高い商品をより多く生産することを目指しています。

その結果、デザイン系イベントのノベルティ用としての1万枚発注や、企業ごとのオリジナル新聞エコバッグ生産(OEM)についても対応できるようになりました。実は、1万枚の発注をいただいた時は、当時の私たちの生産能力を大きく上回る発注数であったのですが、多くの方々に私たちの新聞エコバッグを知っていただくには絶好の機会でしたのでぜひとも受注したいと考え、近隣の約15か所の福祉作業所にも協力をお願いし、何とか納期までに間に合わせることができました。

さらなる販売先を探しています!

現在、新聞エコバッグのラインナップは9種類となり、それ以外にも封筒や平袋などの袋類も6種類ほどになり、東京都内のセレクトショップやミュージアムショップなどで販売していただいているほか、百貨店販売の際のショッパーズバッグとしても使用していただくなど、さらなる広がりを見せています。

また、今年に入ってからは、さらなる販路拡大を目指して、新聞エコバッグのオリジナルカタログを制作しました。現在、こちらのカタログは無料で配布させていただいていますので、ご興味のある方や、私たちの新聞エコバッグをご紹介いただける方がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただければうれしく思います。

障がいがあろうとなかろうと、働くことを選択したときに、同じように働く喜びを得ることができる場づくりと正当な賃金支払いを目指そうというコンセプトのもと、意識の高い企業と福祉作業所との連携が今後は増えていくはずです。その成功モデルを作るためにも、私たちは地道に実践を続け、成果を積み重ねていきます。

(つついけいすけ 特定非営利活動法人コミュニティワークス(地域作業所hana)理事長)


【地域作業所hana】

千葉県木更津市文京6―4―4
電話:0438―20―3326
FAX:0438―20―3327
メール:info@npo-cw.net
HP:http://www.npo-cw.net/
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