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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年6月号

非常時における障害者の情報保障:災害時情報保障委員会の取り組み

矢澤健司

1 はじめに

1995年1月17日にM7.3の大震災が神戸・淡路地域を襲い、多くの人命を失い、建造物が破壊されました。地震直後に火災が発生して町全体が火の海になり、幹線道路が破壊されたために消防活動や救助活動が思うように行うことができず、日本中の国民がTVの前で愕然(がくぜん)と悲嘆にくれながら過ごした日の鮮明な思い出を残しました。

しかし、その後も災害は日本だけでなく世界中で発生し、多くの犠牲者をだしましたが、その被害の大きさは、経験の量や質に反比例しており、構造物の耐震性や支援組織の体制に大きく依存して被害の拡大を抑えています。災害を未然に防ぐことは難しいが、被害を最小に抑えるために経験や知恵の積み重ねで実現できること考え、この委員会では災害時に必要な情報をいかに保障するか、検討を重ねてきました。

2010年3月12日(金)戸山サンライズで「障害者と災害」のシンポジウム8)を開き、障害者の特徴・困難性の理解のために事例報告や国の防災計画について検討を行いましたが、1年後の2011年3月11日に東日本大震災が起きるとは想像できませんでした9)

2 災害時情報保障委員会の活動

災害時情報保障委員会は障害者放送協議会の委員会の一つとして2002年から活動を行ってきました。2002年10月に政府に対して「災害対策に関する要望」1)を提出しました。要望書では次のように述べています。

「多くの死傷者をだした阪神淡路大震災は、犠牲者の多くが高齢者等に見られるように、いわゆる災害弱者といわれる人達であったことは記憶に新しいところであります。また、この大震災では、障害者に対して、災害の発生や安否の確認、避難誘導、避難所生活などと、その情報の提供や獲得、設備や生活維持に必要な最小限度の医薬用品の確保が成されない等の多くの課題を残しました。」そして、平常時における対応、災害時における対応および被災後における対応についての要望を政府に届けました。

その後、2003年に障害をもつ人に関わる市町村の防災態勢実態調査を行い、2004年に防災マニュアルの検討に着手しました。また、「障害者と災害時の情報保障」に関するシンポジウム等を東京、新潟、山梨で開催しました2) 3) 4) 5) 6)。また、内閣府の「災害時における障害者への情報提供に関する情報交換会」にも参加し、これらの調査・検討を踏まえ提案しました。この提案後、2005年3月に国から災害時要援護者の避難支援ガイドラインが出され、翌年3月に改定版が出されました。2007年12月には「災害時要支援者の避難支援対策の推進について」の通知が出されました。

3 手引書「障害者と災害」

2006年から防災マニュアルの作成に着手しました。災害時の障害者の特徴や困難性を理解してもらえるように、各障害者団体に依頼して障害別のニーズと配慮事項を挙げてもらいました。代表的な障害として、(1)視覚障害、(2)聴覚障害、(3)肢体不自由、(4)内部障害/難病、(5)知的障害/発達障害、(6)精神障害を取り上げ、それぞれの障害の特徴を紹介し、災害時に困ることを述べてもらいました。

これは支援をする場合に、どのような困難があるかを理解するのに必要なことで、適切な支援と良好なコミュニケーションを得ることができます。障害ごとに、1.日頃の備え、2.災害が起きた時、3.避難している時(避難行動・避難生活)に対して述べてあり、それぞれ本人の対応、周囲の対応について記述してあります7)

また、共通する事項として、緊急情報の入手と情報発信についても述べました。緊急情報は“いのち”に直結する問題で、障害に応じたキメ細かな情報保障が大切です。人と人のつながりが大切で、地域の結びつきが災害時に助けになります。また、新しくできた「避難準備情報」についても、どのように全市民に分かりやすく伝えるか表現方法など日常的な学習が必要です。

障害者関係団体として情報の収集、発信の方法についても検討が必要です。避難所での情報保障もそれぞれの障害における課題も考慮しなければなりません。現在、障害者放送協議会は災害の被害を最小限にするための要望書を作成して関係機関に届け、国としての対策を要望しています。10)

(やざわけんじ 障害者放送協議会災害時情報保障委員会委員長)


【参考資料】

1)要望書:災害対策に関する要望について(02年10月15日)http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/disaster/sympo20100312/021015.html

2)シンポジウム:みんなで作ろう災害マニュアル(04年2月18日)戸山サンライズ

3)シンポジウム:新潟県中越地震の経験と今後の防災活動(05年2月28日)戸山サンライズ

4)シンポジウム:中越地震の経験と新たな取り組み(05年10月10日)ホテルニューオータニ長岡

5)シンポジウム:災害発生後の支援と避難所における課題(06年2月17日)ウェルシティ甲府

6)セミナー:障害者と災害~障害者が提言する、地域における協働防災のすすめ(07年2月24日)戸山サンライズ

7)防災マニュアル:障害者と災害―障害者が提言する、地域における協働防災のすすめ(07年3月)http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/disaster/2007seminar_houkoku/

8)シンポジウム:障害者と災害 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/resource/disaster/sympo20100312/index.html

9)シンポジウム:東日本大震災と障害者の情報保障(2011年7月2日)弘済会館http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/conf/20110702_symposium/201107_index.html

10)災害時における放送・通信のありかたに関する要望書(2012年5月9日)http://www.normanet.ne.jp/~housou/request/20120509.html