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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

医療支援の現状と課題
―在宅看護の立場から~アコモケア在宅支援センターの試み―

松木満里子

はじめに

一口に難病と言っても、難病指定されている疾患は、国の難治性疾患克服研究事業(特定疾患調査研究分野)の対象である130疾患であるが、そのうち56疾患が特定疾患治療研究事業対象疾患として、医療費の助成対象になっている。訪問看護など多くの支援の対象になるのは、主にこの56疾患である。なかでも筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン関連疾患などは代表的な難病として皆さんも耳にしたことがあるのではないだろうか。

これからご紹介するアコモケアサービスの取り組みは「自分の家で暮らす」という当たり前のことを支援し、利用者もスタッフも、関わるすべての人たちの「いのちが輝くように」と活動していくうちに、多くの利用者さんが難病患者さんになっていたというものである。わが社の試みが、少しでも多くの難病患者さんの療養生活を支えていく上でのヒントになれたら幸いである。

アコモケア在宅支援センター事業

アコモケア在宅支援センターは2009年4月に神奈川県小田原市に設立し、訪問看護ステーションを中心に療養通所介護、訪問介護、保険外サービスとしての外出支援(同行・宿泊)事業、衛生材料販売、障害者支援センターからの委託事業として地域活動ホームや作業所への相談業務を行っている(居宅介護支援事業は現在休止中であるが、近く再開予定)。これらの事業はすべて、訪問看護を実践していく中ででてきた、いろいろな課題解決を模索していく中で多角化していったもので、アコモケア在宅支援センターは訪問だけにとどまらず、在宅で過ごしていくためのサービス全般を実施するための事業所となっており、現在も進化し続けている。ここに至った経緯と主な事業の内容、今後の計画についてご紹介したい。

設立までの背景

2000年に介護保険が施行され、多くの介護保険施設やサービスが開始された。しかし、経管栄養や吸引が必要であったり、移動に車いすが必要であるというだけで通所サービスやショートステイを断られた。まして、人工呼吸器を着けていたり、座っていることができない状態では、ほとんど使える施設サービスはなかった。ことに難病を抱えている方は頭脳には何の問題もないにもかかわらず、自分の体が思うようにならない、「痛み・痺(しび)れ・感覚異常・不随意運動」などの症状に加え、飲み込めない、話ができないなどの日常生活に多くの不自由を抱えながら理解されることが難しく、「困難ケース」などという言葉でくくられていることが多かった。行政の介護保険担当者に「寝たきりの人を外に出す必要があるのか?」と言われたことさえある。その答えは「寝たきりだからと言って、本人が望んでいるのに家に閉じこもっていなければいけないのか?」である。

在宅ケアで言えば、当時から、厚労大臣により指定された特定疾患患者への訪問看護は週4日以上の訪問が可能であったが、保険適用は1回の訪問が90分未満、1日3回までであった。それ以上は保険外訪問で自費となる。90分の訪問看護でできることは限られている。日常生活を維持する排泄・清潔・栄養などの最低限のケアと医療機器の管理、何とか家族に寄り添うことが精一杯で、長い間疾患の理解も不十分な中、在宅の難病患者の多くを支えてきたのは介護職であった。この上、QOLを向上させるケアの実現は難しく、看護職は常にジレンマを抱えていた。その思いが医療依存度の高い人のための通所介護を作るしかないという思いにつながっていったのである。

全国で同じような思いの訪問看護師たちが医療依存度の高い方たちへの通所介護を実践していることが分かり、これらをモデル事業とした結果、2006年療養通所介護は介護保険上のサービスとなった。当時は定員5人、利用者1.5人にスタッフ1人、1日を通して看護師が1人以上常駐しているという基準があり、利用者の疾患も難病と癌末期に限られていた。医療ケアの必要性と専門的な看護が必要なことから、訪問看護ステーションが積極的に関わることが求められたが、赤字必至と言われた療養通所介護事業を開設するところは少なかった。

それから6年、開設基準が定員9人となり、すでに利用者の傷病名も緩和された。療養通所介護利用による効果は認められながらも、制度開設当初の日本訪問看護振興財団が掲げた目標の、全国100か所にはいまだに達していない。

これらの事業を展開する上で看護師が担うべき役割は大きいが、2010年の厚労省統計によれば、わが国の看護師人口は147万人、そのうち訪問看護に従事する看護師は3万人である。この年の特定疾患医療受給者証交付件数が10万件を超えたことからも訪問看護師の数は圧倒的に足りない。在宅領域における看護師不足は深刻で、訪問にとどまらず、介護保険施設・デイサービスなど同様の状態である。このことが2011年制度改正により、保助看法で制定されてきた看護師の独占業務であったたん吸引や胃瘻(ろう)の処置を、介護士に一部移譲することになるのである。このような背景のもとで当事業所は、多職種によるチームケアを目指して設立した。

難病患者のQOLを向上させるために

2006年から2009年までの3年間、横浜市青葉区で療養通所介護を運営し、大きな利益は得られなくとも黒字経営が可能であることを立証し、一方で、利用者は外出することによって機能回復あるいは機能維持することが可能であることを経験した。また、利用者は常に次の段階への期待を持っていることに気づいた。

こんなエピソードがあった。あるプリオン病の姿勢保持困難、声を出すことさえ難しくなった方が、意識のあるうちに自分の郷里を訪ねたいという思いに応え、親戚や郷里の病院などとも連携し、羽田から飛行機に乗って郷里のあるA空港に降り立つことができた。その方は空港で妹さんを見つけると、別人のように車いすから立ち上がり歩き出したという。ご家族がその時の喜びと、その様子を写メールで送ってくれた。そこには、私が知っているすでに表情がなくなってしまっていた方ではなく、その方の初めて見る満面の笑顔があった。

この事例をはじめ、同様のエピソードをいくつか経験する中で、非日常的な刺激が加わることで、潜在能力を引き出せるのではないかと考えた。そこで、「観光地で同行サービスや看護の支援があったら、もっと医療ニーズのある方のQOLが上がるのではないか、それができたらどんなによいだろう」と考えるようになり、無謀にも私は横浜での職を辞し、この小田原の地で、海(真鶴・湯河原)・山(箱根)川・城(小田原)を一人でも多くの利用者に感じてもらいたいと起業した。

訪問看護と療養通所

2012年6月現在、事業所のスタッフは看護職9人(看護学修士3人・緩和ケア認定看護師1人・保健師1人・准看1人含む)、理学療法士2人、作業療法士1人、介護福祉士3人(社会福祉士)、ヘルパー2級5人、事務員2人、介護支援専門員認定者5人である。総勢22人のチームアコモが、訪問・通所・外出支援すべてのサービスに関わりながら、それぞれの専門性を活かしてアプローチしている。訪問看護常勤換算は4.5人、療養通所介護は定員5人、基準では1.5人の利用者に1人以上のスタッフとあるが、当事業所はその基準をはるかに上回る人数で関わっている。

たとえば90分未満の訪問看護では、褥瘡の処置や排便コントロール、家族の支援や環境を含めたアセスメントをし、療養通所につなげることで他職種に協力を得ることができる。

療養通所介護では訪問の合間にOTがかご作りやちぎり絵の手ほどき、パソコンのマウスの調整や、寝たまま水分が取れるようチューブストローの作成をしてくれる。上肢のほぐしも凄腕である。PTは座位訓練や姿勢の矯正、車いすへの乗り移りの方法など、実際の家に訪問しているからこそできる、きめ細かな方法を提案してくれる。介護職は、コミュニケーションをとるのが難しい(声が出せない、口が思うように動かないなどの理由)利用者に、じっくりと寄り添って話を聞き出している。個々の利用者の嗜好やこだわりを把握し、送迎の途中で小田原城址公園に寄ったり、フラワーガーデンに行ってみたり、また、利用者の指導の下で味噌作りをしてみたりと多彩なアクティビティを考え出してくれる。看護師は全身状態の把握・水分出納・医療的ケアなど全般のコーディネートをしていく。

開設当初、特に介護スタッフの多くは全く難病の方に接したことがなく、コミュニケーションをうまくとることができなかった。一方、家にいた方が楽と、利用が継続しなかった難病患者さんが何人かいた。それでも社会参加するということは、思い通りにならないことや緊張の連続であることを理解し、繰り返し利用してくださった方たちには、確実にその目に光が戻り、特段のリハビリをしていなくとも、車いすでの座位が安定してくるなど変化が見られてくる。それまで表情がなかった方たちに笑顔が見られた瞬間、まさに感無量である。大切にするあまり、家の中にこもらずに、うまくサービスを利用してほしい。

保険外サービスの看護師同行支援

当事業所独自の保険外サービスは、看護師の同行支援である。自立支援法ではガイドヘルパーのサービスはあっても、ガイドナースがない。介護保険のサービスも訪問看護であって、利用者の居宅サービスということになっている。看護師の同行支援で呼吸器を装着している人をはじめ、さまざまな医療依存度のある方の外出や旅行が可能になると考えた。

事業開始から3年でのべ100件以上、現在は月平均10件、多い時には1日に3件の利用がある。利用者の多くは療養通所介護の協力病院でもある、H病院療養病床入院中の患者さんで、行き先は他科受診が最も多いが、買い物や映画鑑賞、博物館やホテルのビュッフェでの食事、お子さんの結婚式の参列や、入所中の親族への面会で老人ホームを訪ねたこともある。また、箱根登山鉄道の風物詩アジサイ電車に乗ったり、新幹線で品川のクリスマスショップの同行などもあった。

利用者の多くは人工呼吸器装着中の方で、同行スタッフは看護師のほかその方の状態に応じて介護職、作業療法士などをコーディネートした。一般の利用者では、箱根近辺に宿泊の際、人工肛門の管理や在宅中心静脈栄養の管理が必要な方の医療的な処置、あるいは露天風呂などに入りたいというご要望にお応えしている。

旅行中終始ご一緒するのではなく、必要な時だけ宿泊先に訪問することで経済的な負担を抑え、家族水入らずで過ごしていただくように配慮している。これらの外出支援にあたっては、保険外サービスであっても、医師の許可証と看護サマリーなど日常のケアの状態把握、必要に応じて事前面談などをしている。

また、相模湾を一望する高台にある「ハイジの家」では、看護と介護付き貸別荘と称して宿泊サービスを行っている。家族で泊まるもよし、全く改修していない一戸建てであることを利用して、療養病床などから一般住宅に移行するイメージを作る場所になればと、アコモケア在宅支援センターの介護拠点となっている。現在までの利用は5例、クリスマスパーティ・バーベキュー・あんこう鍋など施設では味わえない趣向を凝らして利用していただいている。

これからも、アコモケア在宅支援センターでは、疾患や障害にかからなければ「当たり前にできること」にこだわって、支援していきたい。

(まつきまりこ Accommo.Care Service 株式会社代表取締役)