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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

知り隊おしえ隊

最新の義足と義手

丸田耕平

はじめに

南アフリカ出身で、両足が義足のオスカーピストリウスという陸上選手がいます。彼は生まれながらに膝から下の骨の一部が無く、生後11か月で両足とも膝から下の切断となりました。彼は義足使用者が出場するパラリンピックではなく、北京オリンピックへの出場を目指していましたが、競技用として使用しているカーボン製の義足が、健常者よりも有利に働くとみなされ、国際陸上競技連盟から出場資格はないと判断されました。その後スポーツ仲裁裁判所が、ピストリウス選手が健常者の大会に出場することを認めましたが、北京オリンピックに出場することは叶いませんでした。その後の北京パラリンピックには出場し、100メートル、200メートル、400メートルの金メダル三冠に輝きました。

高機能な義足の部品を使用しているため、好記録を出すことができるというような見方をされるのは仕方ないことかもしれませんが、このような競技用義足を装着することにより健常者に近い、あるいはそれ以上の能力を発揮できることもあるのです。

ここでは、そのような最新の義足や義手についてご紹介したいと思います。

義足について

まず簡単に義足の構造について説明します。一口に義足と言ってもさまざまです。膝下で切断した方が使用するものを下腿義足、膝上で切断した方が使用するものを大腿義足と呼びます。切断する部位によって使用する部品も異なります。図1は大腿義足の構造です。足の部分である足部、膝関節の役割を持つ膝継手、そして断端(※1)を差し込むソケットから構成されています。ソケット部分は切断者一人ひとりの断端に合わせて義肢装具士が作製するフルオーダーメイドです。ソケットによって義足を懸垂し足を振って歩くので、断端にフィットしていなければ歩きにくくなってしまうばかりか、一歩踏み出すたびに痛みを生じるような義足になってしまうのです。

足部や膝継手といったパーツ類は義足部品メーカーより販売されており、高機能なものからシンプルな構造のものまで、さまざまな種類があります。

このように義足は手工業で作製するソケットと、膝継手や足部といった工業製品を組み合わせて構成される非常に特殊なものです(図1)。

(※1) 断端:切断したあとの手足の部分

図1 大腿義足の構造
図 大腿義足の構造拡大図・テキスト

◆ソケット

断端の形に合うように、石膏の包帯で型取りをします。その後、プラスチックで断端に装着するソケットを作製します。前にも述べましたが、ソケットの形状が断端にフィットしていないと、体重をうまくかけることができません。いかに高機能な部品を使用しても痛くて使えないような義足になってしまいます。

ソケットには靴下のような断端袋を履いて装着する方法、皮膚に直に装着する方法、シリコーンなどの柔らかい材質のものを履いてから装着する方法などがあります。最近は、クッション性があり傷ができにくいシリコーンを用いる方法を、使用することが多くなっています。

北欧では切断した骨の先端にインプラントを取り付け、骨に直接義足を繋げる骨直結義足が使用されています。日本ではまだ衛生面の問題があり実現していませんが、この骨直結法の問題が解決し実際に切断者の方に使用されれば、義足の装着が簡単になり、汗や傷といった義足を装着するうえで、避けられない問題から解放されるかもしれません。

◆足部

ピストリウス選手が使用しているスプリンター専用のカーボン製足部は、大きな反発力によって走行を可能にしていますが、常用の足部でもカーボン繊維を用いたものがあります。

歩行時に踵が床面に着いた時の衝撃吸収や、つま先で蹴りだすといった足関節本来の機能を、カーボン製の板バネによって補っているのです。

義足の足部は、足関節が動くものもありますが固定されているものがほとんどで、踵の高い靴などは履きにくくなってしまいます。そのため踵の高さを調整できる足部があり、女性の義足使用者でヒールの高い靴を履きたい方に好まれています。

◆膝継手

大腿義足では、膝関節より上の大腿部で切断するため、膝関節の代わりに膝継手が必要になります。義足では自分の関節が残存しているか否かで大きく機能が左右されます。

人間の膝関節は、地面に足が着いている間は膝が折れないように、足を振り出すときは膝を曲げてつま先が床にひっかからないようにと、歩行に最適な機能を持っています。

しかし膝継手では、そこまでの機能は備わっていないため、切断者自身が膝継手をコントロールしないといけません。

現在開発・販売されている膝継手の中には、マイクロプロセッサーが内蔵されているものがあり、義足使用者の歩行スピードや膝折れをコントロールし、自動的に制御してくれる高機能なものもあります。

義手について

義手には、能動義手、装飾義手、筋電義手などの種類があります。

装飾義手は、物を掴(つか)むような機能はありませんが、手の外観を精巧に作製したもので、一見しただけでは本物の手と見分けがつかないものもあります。

能動義手は、ハーネスと呼ばれる背中にたすきがけしたベルトから、手の部分までケーブルをはしらせ、肩と肩甲骨の動きによりケーブルを引っ張り、フックと呼ばれる手先具を開閉し物を掴みます。

最近特に注目されているのが筋電義手、または電動義手と呼ばれるものです。筋電義手はソケット内に取り付けられた電極が、断端の筋肉に力を入れた時に生じる信号を感知し、手の部分のモーターにより手先が開閉します。現在日本で普及しているのは、3本の指のみ開閉するタイプですが、アメリカやドイツではかなり高額ですが5本の指が動くタイプも使用されています。

現在の義手で本来の手の複雑な動きを再現することは難しいため、装飾用義手だけを使用している上肢切断者の方がほとんどです。今後のロボット技術の進化により、さらに操作性、装飾性に優れた筋電義手が開発されることを期待しています。

体験用義足

健常者が実際の義足部品を装着できる模擬体験用義足です。先日イベントで、実際に一般の方に下腿義足と大腿義足の模擬義足体験をしてもらう機会がありました。

下腿義足では装着後すぐに歩けることが多いのですが、大腿義足では膝継手のコントロールが難しいため、急に膝が曲がってしまうことがあり、体験者からは非常に難しく、怖いという感想が聞かれました。

最新の義足では、足を切断してもすぐに歩ける、切断前の生活と同じことがすぐにできるようになるという誤解を持っている方も多いかもしれませんが、このように模擬義足を体験すると義足の難しさを実感することができます。

おわりに

ほとんどの切断者の方が、義足のシルエットを切断していない足に揃えるため、外装と呼ばれるスポンジ製のものを取り付けます。これによりズボンやスカートを履くと義足であることがあまり目立たなくなります。

しかし最近切断者の方で、外装を装着せずに、義足を人目に触れるようにしている方が増えてきました。なかには、義足のソケットに模様などを入れたりして、ファッションとして見せたいという方もいます。義足であることを隠す必要がない、その方が歩きやすいと感じているそうです。

義足であることを周りの方に分かってほしい時もあります。たとえば、人の往来が多いところでは義足と分かるとよけてもらいやすいことがあります。また、電車の優先席に座っていても気兼ねしなくてもいいと感じているそうです。健常者でも長時間電車で立っているのは大変ですが、義足の方はもっと大変なことなのです。義足や義手が進化したとはいえ、健常者に比べれば切断者の方は日常生活で大変なことがたくさんあります。

実際に義足で歩いているところなどを見てみなければ分かりにくく、紙面だけでの紹介では伝わりにくいとは思いますが、少しでも理解していただければ幸いです。

(まるたこうへい 神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション工学科)