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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

社会貢献型 リボンヌ手芸部の取り組み

山口里佳

平日の夜、ちくちく、ぬいぬい、リボンヌ手芸部には会社帰りのメンバーが集まり、テーブルの上に広げられた手芸用品や色鮮やかな素材を眺めながら「今日は何を作ろうかな~」「うわ~この素材かわいい~」と言いながら、おもむろに好きな素材とアクセサリーパーツを用意し手芸をはじめます。

ここは、NPOでもなく会社でもなく、有志で集まった人たちによる部活動です。部長の呼びかけにより不定期で集まっては、おしゃべりをしながらモノ作りをしています。

リボンヌ手芸部って何?

リボンヌ手芸部は、障害のある人たちの作ったものを再生=ReBornさせ、社会へつなげる架け橋プロジェクトとして、2010年に立ち上げました。メンバーは20代から30代の女性たち約20人です。社会貢献であろうとなかろうと、とにかく「自分たちがほしいものを作ろう」をテーマに、障害のある人が作った素材や施設などで出る不要な廃材などを買い取り、それらをモチーフにアクセサリーなどにアレンジをし商品化をしています。

誕生のきっかけ

大きなきっかけになったのは、障害のある人たちのアートを仕事につなげるエイブルアート・カンパニーの取り組みを新聞記事で見た方からの問い合わせでした。その方の息子さんは精神障害を発病し、その後自宅で気の向くままにレース編みをして気分を落ち着かせたり、気分転換に制作に励まれているとのことでした。彼の作るレース編みが自宅にたくさんあるので、このレース編みを通して社会との接点を持てないかというお母様からの相談でした。実際に拝見させてもらうと、一点一点丁寧に編み込まれていて、クオリティの高いものでとても驚きました。

しかし、ご本人は福祉施設にも所属していないため販売経路が全くなく、ご近所の方に無料で差し上げたり、近所のバザーに出す程度ということでした。そのお話を伺い「何だかもったいないな」という気持ちになりました。

そのまま売るのではバザーっぽくなってしまうので、「このレースを使ってピアスやヘアゴムなどのアクセサリーにアレンジしたら、すごくかわいくなるんじゃないか」と友人に相談したところ、「だったら、みんなで作ったらいいんじゃない?」と盛り上がったのがリボンヌ手芸部の始まりでした。

ものづくりと社会貢献

全国の福祉施設ではたくさんのモノ作りが進められ、自主商品の開発が行われていますが、一方で販路の開拓が難しく、せっかくの面白いものや良いものでも一般的に目にする機会がありません。よく目にするのは、市役所や地域のバザーで片隅に陳列されている福祉ショップ。でも20代、30代の人たちにとってはとても近づきにくく、イメージもあまりよくありません。

しかしその一方で、社会が求めているものは、大量生産され消費されるばかりの商品ではなく、一つ一つにストーリーがあり、作った人の気持ちが伝わる心にとまる商品だと感じます。また「障害者が作ったもの」「頑張って作ったもの」と販売されるよりも、商品としての魅力からその商品の持つストーリーを自然に伝えることが、結果的に障害のある人たちのイメージを払拭させ、障害のある人がもっと身近な存在であることを示せるのではないかと思います。

リボンヌ手芸部に参加する部員たちも単なるアフターファイブの手芸部ではなく、自分たちが楽しんで参加することが障害のある人たちの自立につながり、普段接する機会のない障害のある人たちと接点が持てることに意義を感じています。「手芸部」という場を設けることで、「ボランティア」だと敷居が高く感じる人でも気軽に社会貢献に参加することができます。まさに社会貢献は特別なものではなく、ライフスタイルに取り入れながら楽しむことにつながっています。

取り扱う素材

現在、リボンヌ手芸部で取り扱っている素材は、レース編み、フェルトボール、タオルの耳、皮小物です。これらすべてが障害のある人たちが関わっている素材です。たとえば、タオルの耳は印刷所などが使うウェス(機械類の油を拭き取る布)を下請け作業として作っている福祉作業所から買い取りました。どれも捨てられる不要なものでしたが、素材を活かしてチャームやブレスレットができました。

特にこの部活動にやりがいを感じるのは、障害のある人たちや福祉作業所と相互の関係が築けたときです。ある作家さんは、素材と一緒にお手紙を入れてくれました。どんな様子で制作をしているのか、私たちの活動をどう思っているのかなど、心温まるエピソードが書いてあり、一方向ではない関係性を築けたときが、とてもうれしいです。

新しい価値を加える

リボンヌ手芸部の活動の主旨は、「素材を活かして新しい価値を作る」という点にあります。そのままの素材では埋もれてしまうものでも、女子の「かわいい」をエッセンスに加えることで、とても魅力的な商品に変化します。

たとえば、障害のある作家さんが作ったレース編みのコースターは、以前はパッケージをせずにそのままの状態でバザーで販売していたようですが、ほとんど売れなかったそうです。一つ一つの商品としてのクオリティは高いはずなのに販売につながらないのは、必ず何か原因があるはず…。どのようにすれば商品としての価値を加え、販売につなげられるかを部員たちで考えました。

まず初めに取り組んだことは、「リボンヌ手芸部」のブランディングです。手芸部の活動の主旨は何か、どんなことをお客様に伝えていきたいのかをコンセプト文にまとめました。次に大事にしたことはターゲットです。リボンヌ手芸部は「20~30代の可愛いもの好きの女性」をメインターゲットとして商品作りをしていくことにしました。お金をかけなくても、ターゲットや売り場を意識すればおのずと商品の見た目は変わってきます。たとえば、フリーマーケットと百貨店で売る商品や陳列が全く違うように、売場の雰囲気で売れる物が変わってくると思います。

この二つのことを踏まえ、ReBornのReをモチーフとした、女性らしさとクラシックなイメージを統一させたロゴマークができました。これをイメージにし、きちんとパッケージングをし販売していくことにしました。

吉祥寺のファッションビルで販売したときには、レース編み商品はアレンジを加えずそのままパーツ素材として販売しました。手芸を趣味にする方が多い吉祥寺ではとても人気がありました。レース自体も、クオリティが高いとお褒めいただきました。

売っているものは同じなのに、パッケージを意識するだけで価格を上げることが可能になります。また、お客様の意識も変わります。何より、作った部員たちや作家さんのモチベーションも上がりました。

この1、2年、全国の福祉施設の商品を見てきましたが、こういう意識の差が「売れるもの」へと歴然と表れているような気がします。「良いものを作る」ことが大前提ですが、一度、販売ターゲットを確認することでワンステップアップした商品として、生まれ変わるのではないかと思います。そして、何より「売れる」商品を作り出すことによって、販売による利益を作家さんに還元することもでき、部員からの口コミやお客様の関心によって、社会の価値観を変えるきっかけになることもできると思っています。それが、リボンヌ手芸部のやりがいでもあります。

可能性とこれから

今後は、複数の福祉施設の間に立ち、相互の関係を築きながら、連携したものづくりに挑戦していきたいと思います。また新しい社会貢献の形として、たくさんの人たちのコミュニケーションの場にしていきたいと思います。売れる商品を作ることも大切ですが、何より小さくても、関わる人たちが幸せな気持ちになり、語り合える場があることがとても重要だと感じています。決して生きやすい時代ではありませんが、これからの時代は人とのつながりを感じ、社会問題を皆で共有し、自分自身を表現できる場があることが社会のセーフティネットになると思います。ぜひ一緒にちくちく、ぬいぬい、楽しい時間を共有しませんか!?

(やまぐちりか エイブルアート・カンパニー東京事務局)