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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年7月号

列島縦断ネットワーキング【鹿児島】

鹿児島県難病相談・支援センターオープン
―地域ケア体制の構築に向けて

原田ケイ子

はじめに

鹿児島県では、このたび、平成23年10月1日に「ハートピアかごしま」の3階に、難病患者・ご家族の方々のニーズの多様化に対応するため、新たに県の機関として「鹿児島県難病相談・支援センター」を開設しました。

開所の前日に、患者会の皆様をはじめ県知事、県議会議員、県医師会、各種団体など多くの皆様方とともに晴れやかに開所式を行いました。

センター設置の背景と経緯

本県は多くの離島や半島を抱え、さらには南北約600キロという地理的特性を有しています。そこで、平成18年度から難病等でお悩みの患者・ご家族の皆様が、より身近な場所できめ細やかな相談や支援が受けられるように、県内各保健所を地域難病相談・支援センター、県庁健康増進課を中核難病相談・支援センター、NPO法人鹿児島県難病・障害者連絡協議会を難病連相談・支援センターとして3機関を合わせて、県難病相談・支援センターとしていました。

しかし、難病患者さんへの医療費助成の対象である特定疾患治療研究事業の対象疾患の患者数は、平成18年度末の9,898人から、平成22年度末には11,634人と、4年間で17.6%と増加の一途で、症状、性別、年齢等の幅も広がり、相談内容も病気に関する知識や治療法の選択等の医療面から、結婚・出産、就学・就労問題など、身体的、社会的、精神的な領域に輻輳(ふくそう)しており、患者・ご家族などの自助努力だけでは療養環境の改善は困難な状況が伺えました。

さらに、中核・地域の難病相談・支援センターの相談員は専任でないことから高度化・多様化する相談に十分答えられなかったこと、土・日の対応を行っていなかったこと、相談スペースのプライバシーの確保が困難なこと等に対して、患者団体からも独立したセンターを設置してほしいとの要望が出されました。また、患者会の難病連相談・支援センターにおいても、主に難病連会長お一人で相談に対応されていましたが体調不良となられたこと、これまでサポートされていた各患者会からの協力体制も得られず、平成21年度からの相談業務は機能していませんでした。

このようなことから県として、難病相談・支援センターの果たすべき役割と新たな体制について模索していた時期に、平成22年度県行政評価監視委員会から「難病患者の方々等の相談への対応や助言を適切に実施できる相談窓口の機能をさらに強化すべきであり、総合的な窓口体制の整備に向けて取り組むべきである」との意見・提言が知事に提出されました。最終的に、各患者会のご意見や、各県の難病相談・支援センターの取り組みなどを参考に検討した結果、難病相談・支援センターの組織体制は、公平性・恒常性かつ総合的な相談・支援の窓口は、県の機関として運営した方がよいとの判断を知事がなされ、新たな体制で難病相談・支援センター開設の運びとなったところです。

センターの組織体制

センターの体制は、所長が非常勤(独立行政法人国立病院機構南九州病院院長)、副所長が保健師、管理課長(事務)、事務1人、保健師4人(1人は非常勤)、臨床心理士1人、社会福祉士1人(非常勤)の10人体制で、多職種の常勤職員構成は全国的にも珍しいと思われます。いつでも相談が受けられるよう相談課では、土・日も相談日を開設(火曜日・年末年始・祝日は休日)し、申請事務や関係機関との連携が多い管理課は、月曜日から金曜日の勤務体制となっています。療養生活に関する相談の方もワンストップで特定疾患医療受給者証の申請ができるよう職員間の連携を図っています。

またこれまでどおり、保健所は地域難病相談・支援センターとして身近な相談窓口の機能があることから、家庭訪問等の支援を必要とされる方々にはご了解をいただき、当センターから保健所へお繋(つな)ぎしています。

さらに、センター内には患者会の横断的連携組織の「かごしま難病支援ネットワーク」の事務局があります。患者の方々のお気持ちを受け止めていただいた方がよい場合はセンターからネットワークを紹介し、逆に専門的なご相談などについてはネットワークからセンターにお繋ぎがあり相互に連携をとりやすい環境となっています。

業務内容と相談等の状況

当センターの理念は「難病患者・家族の悩みや不安に誠実に耳を傾け、解決への糸口をともに考えるセンター!」で、業務内容は主に1.相談機能2.生活支援機能3.患者の自律・自立支援機能としていますが、開所から6か月間の相談状況について報告させていただきます。専任相談員による相談件数は1,007件で、疾患別では相談の約6割が特定疾患治療研究事業対象の56疾患で、このうちパーキンソン病関連疾患等の神経・筋系疾患が4割と多く、次いで後縦靭帯骨化症等の骨・関節系疾患でした【図】。

図 平成23年度難病相談・支援センター相談実績
円グラフ 平成23年度難病相談・支援センター相談実績拡大図・テキスト

また、相談者は患者さんが最も多く(約5割)、次いでご家族(約4割)で、相談者の居住地は、鹿児島市にセンターが設置されていることから約5割が市内の方々です。また、離島や遠隔地からも、鹿児島市内の医療機関を受診された時に直接、ご相談に来られたりしています。相談内容は医療面が多く、次いで申請方法や福祉制度、就労など多岐にわたっています。相談内容によっては、所長の個別相談や協力医(専門医)の医療相談をご利用いただいています。

患者会のない患者さんから、同じ病気の方と話をしたいとの声が寄せられることもありますが、地元紙、保健所等の協力を得て対象者の方々へご案内し、これまで線維筋痛症やシェーグレン症候群等の患者交流会を開催しました。参加された方々は、日常生活の工夫や新しい治療の情報等の情報交換をされ、療養生活での気づきと何より同じ病気のためお互いに共感できる場、新しい情報を得られる場になったと笑顔も出てきて、また参加したいと帰って行かれています。

開設後半年が経過して見えた課題

当センターは県の機関のため職員の定期異動があります。専任の相談員は柔軟な対応と普遍的な対応を常に行っていく必要がありますので、だれでも相談が受けられるよう初期・継続研修、相談マニュアルの活用・更新等が必要です。また、就労支援や災害時要支援者対策等、県の機関としてネットワークづくりに取り組み、相談から支援へと繋げる必要があります。

おわりに

だれに相談してよいかわからず悩んでいたが思い切って相談をしてみてよかった、もっと早く相談すればよかったというお言葉をいただいていますので、今後も広報媒体を活用し、センターの周知に取り組む必要があります。

最後に、医療機関、患者団体等との連携を緊密にしながら、難病患者・ご家族が孤立せず、安心して地域の中で生活できる地域ケア体制の構築に取り組んでまいりたいと思います。

(はらだけいこ 鹿児島県難病相談・支援センター副所長)