「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号
新計画の在り方の検討と障害者政策委員会
新垣和紀
1 はじめに
現行の障害者基本計画(以下、「現行計画」という)の対象期間が本年度までであることから、現在、内閣府に設置された障害者政策委員会において、平成25年度以降の新たな障害者基本計画(以下、「新計画」という)の在り方について検討が進められている。本稿では、新計画の策定に関する今後の予定等について、特に障害者政策委員会との関係を中心に記していく。なお、本稿における分析は、あくまで個人的な見解に基づくものである。
2 障害者基本計画の歴史的経緯
障害者基本計画とは、障害者基本法(昭和45年法律第84号。以下「法」という)第11条に基づき、「障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るため」に政府が策定する障害者のための施策に関する基本的な計画である。
わが国における障害者施策についての長期的計画の歴史は、「国連障害者の十年」(昭和58年~平成4年)を踏まえて策定された「障害者対策に関する長期計画」にさかのぼる。その後、平成5年には「障害者対策に関する新長期計画」(計画期間:平成5年度からおよそ10年間)が策定されるとともに、同年12月の法の改正により、法的な位置づけが与えられた。
現行計画は、この新長期計画における「リハビリテーション」および「ノーマライゼーション」の理念を継承するとともに、障害者の社会への参加、参画に向けた施策の一層の推進を図るため、平成15年度から24年度までの10年間に講ずべき障害者施策の基本的方向について定めたものとして、平成14年12月に閣議決定されたものである。また、現行計画においては、10年の計画期間を前期と後期に分け、それぞれ数値目標を掲げた重点施策実施5か年計画を策定することにより、諸施策の着実な推進を図る仕組みとなっている。
3 障害者政策委員会
障害者基本計画は、前述のとおり、政府が行う障害者施策についての総合計画であり、その策定主体は政府となっている(具体的には、内閣総理大臣が案を作成し、閣議決定を行う)。しかしながら、わが国における障害者施策のいわば全体像を示す計画である以上、その計画には、障害の有無にかかわらず、幅広い国民の理解を得ながら障害者施策を進めていく観点から、広く国民各層の声を反映する必要がある。そのためには、障害者およびその家族、障害者の自立および社会参加に関する事業に従事する者、学識経験者など、さまざまな立場からの意見を聴きながら計画を策定することが不可欠である。
今般の新計画の在り方の検討に当たって、この「障害当事者を含めた国民各層の声の反映」について大きな役割を担っているのが、障害者政策委員会(委員の構成は表1を参照)である。すなわち、法においては、内閣総理大臣が障害者基本計画の案を作成するに当たっては、各施策を直接に所掌している「関係行政機関の長に協議する」とともに「障害者政策委員会の意見を聴く」こととされている(法第11条第4項)。なお、障害者政策委員会の設置の経緯および役割の概要については、本誌8月号44頁以降の拙稿「障害者政策委員会について」を参照されたい。
表1 障害者政策委員会委員
早稲田大学大学院法務研究科教授 | 浅倉むつ子(あさくらこ) |
社会福祉法人日本身体障害者団体連合会理事 | 阿部一彦(あべかずひこ) |
◎静岡県立大学国際関係学部教授 | 石川准(いしかわじゅん) |
財団法人全日本ろうあ連盟理事長 | 石野富志三郎(いしのふじさぶろう) |
一般社団法人日本難病・疾病団体協議会代表理事 | 伊藤たてお(いとう) |
社会福祉法人ロザリオの聖母会海上寮療養所 | 上野秀樹(うえのひでき) |
○一般社団法人日本発達障害ネットワーク専門委員 | 氏田照子(うじたてるこ) |
日本経済団体連合会労働政策本部主幹 | 遠藤和夫(えんどうかずお) |
弁護士 | 大谷恭子(おおたにきょうこ) |
社団法人全国脊髄損傷者連合会副理事長 | 大濱眞(おおはままこと) |
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長 | 尾上浩二(おのうえこうじ) |
全国知事会(滋賀県知事) | 嘉田由紀子(かだゆきこ) |
国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長 | 勝又幸子(かつまたゆきこ) |
社会福祉法人全国盲ろう者協会評議員 | 門川紳一郎(かどかわしんいちろう) |
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会理事長 | 川﨑洋子(かわさきようこ) |
特定非営利活動法人おおさか地域生活支援ネットワーク理事長 | 北野誠一(きたのせいいち) |
全国市長会(三鷹市長) | 清原慶子(きよはらけいこ) |
日本福祉大学客員教授 | 後藤芳一(ごとうよしかず) |
日本社会事業大学教授 | 佐藤久夫(さとうひさお) |
社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会副理事長 | 新谷友良(しんたにともよし) |
全国「精神病」者集団運営委員 | 関口明彦(せきぐちあきひこ) |
社会福祉法人日本盲人会連合会長 | 竹下義樹(たけしたよしき) |
社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会常務理事 | 田中正博(たなかまさひろ) |
ピープルファースト北海道会長 | 土本秋夫(つちもとあきお) |
アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表 | 中西由起子(なかにしゆきこ) |
財団法人日本知的障害者福祉協会顧問 | 中原強(なかはらつよし) |
日本労働組合総連合会総合政策局長 | 花井圭子(はないけいこ) |
○日本障害フォーラム幹事会議長 | 藤井克徳(ふじいかつのり) |
○社会福祉法人全国社会福祉協議会全国身体障害者施設協議会制度・予算対策委員長 | 三浦貴子(みうらたかこ) |
大阪大学大学院高等司法研究科教授 | 棟居快行(むねすえとしゆき) |
◎は委員長、○は委員長代理(平成24年7月25日現在、五十音順)
4 障害者政策委員会における議論
本年7月23日に首相官邸において開催された第1回障害者政策委員会においては、新計画の在り方の検討の進め方について大きな方向性が確認された。すなわち、新計画の全体像や、総論(たとえば、計画全体に関わる基本的な考え方や、計画の推進体制の在り方など)については委員全員で議論を行うこととし、各分野別の施策の基本的方向については委員を複数のグループに分けて並行的に議論する小委員会形式で検討することが確認された。また、小委員会での検討に当たっては、各分野に専門的知見を持つ者が専門委員として参加することとされた。
8月20日に開催された第2回では、新計画の全体像や基本的考え方について意見交換が行われた。主な意見として、障害者権利条約(仮称)や障害者基本法に盛り込まれた理念をきちんと反映させる必要があることなどの指摘がなされた(詳細は、内閣府ウェブサイトの障害者政策委員会についてのページ(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/index.html)に近日掲載予定の議事録を参照)。
また、小委員会における検討の進め方については、幅広い政策分野にわたる障害者施策を漏れなく検討する必要があることから、法に掲げられた基本的施策(第二章、第十四条~第三十条)の柱立てに沿って検討を進めること、各分野の親和性などを踏まえて6つのグループに分けることで概(おおむ)ね了解が得られた。なお、各小委員会において議論すべきテーマについては、表2のとおりである。
表2 小委員会のグループ分け
※障害者基本法の第2章に挙げられている条文を挙げている。
【前半】 | 第1小委員会 ・教育(16条) ・文化的諸条件の整備等(25条) |
第2小委員会 ・年金等(15条) ・職業相談等(18条) ・雇用の促進等(19条) ・経済的負担の軽減(24条) |
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第3小委員会 ・消費者としての障害者の保護(27条) ・選挙等における配慮(28条) ・司法手続における配慮等(29条) |
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【後半】 | 第4小委員会 ・医療、介護等(14条) ・療育(17条) ・相談等(23条) |
第5小委員会 ・住宅の確保(20条) ・公共的施設のバリアフリー化(21条) ・情報の利用におけるバリアフリー化等(22条) |
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第6小委員会 ・防災及び防犯(26条) ・国際協力(30条) |
9月10日に開催された第1回小委員会では、各小委員会のテーマごとに、関係省庁からこれまでの取組についての説明を聴取した上で、今後議論すべき論点の絞り込みを行うとともに、「初等中等教育におけるインクルーシブ教育システムの構築について」(第1小委員会)、「障害者の就労施策全体の実施状況について」(第2小委員会)、「障害者の消費者被害の事前防止及び被害からの保護」(第3小委員会)について議論が行われた。
5 今後の検討スケジュール
各小委員会の議論は前半グループを9月から10月にかけて、後半グループを10月から11月にかけて、それぞれ3回の開催を予定しており、その議論の結果は政策委員会本体に報告されることになる。
また、小委員会における議論と並行して、政策委員会本体においても、11月に計画の推進体制を含めた総論部分についての議論が行われる予定である。
これらの検討を経て、12月以降、政策委員会は、各小委員会の報告を踏まえて新計画の在り方についての「意見」の取りまとめに向けた議論を行い、取りまとめ次第内閣総理大臣に対して意見を述べることになる。そして、この意見を受けて、内閣総理大臣は新計画の案を策定し、今年度末までに閣議決定を行うことになるのである。
このように、政策委員会においては、今年度末までの閣議決定という最終的なタイムリミットも視野に入れつつ、今後意見の取りまとめに向けた検討を行うこととなる。
6 終わりに
新計画は、これまでの障害者制度改革を踏まえ、わが国において「共生社会」を実現するための全体像を示すものとなると考えられている。その中で、障害者政策委員会は、新計画に障害当事者をはじめとする幅広い「国民の声」を反映させるという重要な役割を担っていると言える。
(あらかきかずあき 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付参事官(障害者施策担当)付主査)