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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

情報・コミュニケーション
情報アクセス・コミュニケーション保障の実現に期待

薗部英夫

アクセシビリティは障害者権利条約を貫く座標軸

この10年の最大のインパクトは障害者権利条約だ。権利条約は情報分野だけでなく幅広い分野でアクセシビリティの保障が貫かれている。前文、第2条:定義、第3条:一般原則、第4条:一般的義務、第9条:アクセシビリティ、第13条:司法へのアクセス、第20条:移動、第21条:表現・意見表明・情報へのアクセス、そして第24条:教育、第27条:労働・雇用、第29条:政治参加、さらには第30条:文化・余暇・スポーツへの参加など、あらゆる活動への参加を実現するためのアクセシビリティ保障が権利条約の座標軸となっているのである。

ところで、アクセス(access)の語源はラテン語で「接近」の意味。英語では、場所や物へ近づく、接近する状態をいい、(入手の)方法、利用(参加)する意味だ。情報通信の分野では、ファイルの読み書きやディレクトリーの作成、削除などの許可や禁止する権利を意味した。そして、21世紀の「情報アクセス」は、「新聞の情報を知りたい」「手話や要約筆記、字幕が必要」など切実な要求に基づく運動と、パソコンやインターネットなど情報通信技術(ICT)の発展、普及のなかで発展している。

障害があることを理由としたあらゆる障壁・困難をなくして、同年齢の市民と同じように、地域で普通に暮らすためのスタートラインに立てることを目指す権利条約だ。特別な権利を求めているのではない。アクセシビリティは、さまざま活動への参加、一人ひとりのかけがえのない人生のため日常生活を可能とする考え方だ。そのため、締約国は必要な手だてをとる重い責任がある。

バリアフリー、ユニバーサルデザインと合理的配慮、積極的差別是正措置

アクセシビリティを実現するための実践的思想がバリアフリーとユニバーサルデザインだ(本誌2011年12月号、特集「ユニバーサルデザインを考える」、2012年6月号、特集「情報アクセスとコミュニケーション保障」参考)。

バリアフリーは、建築や交通、情報などへのアクセスを妨げている「バリア(障壁)」をなくすこと。一方、ユニバーサルデザインは、障害者だけでなく高齢者を含めより多くの人たちが「安全、安心、快適に」使える製品、生活環境、システムをつくりだすことだ。しかし、重い障害のある人やそれぞれの個別のニーズには十分応えることはできない。障害の種別、程度や生活環境の違いなどさまざまな違いをリアルにとらえ「バリア」をなくすことは必要なことなのである。

ともすれば「あれか、これか」の議論になりがちだが、問題の解決には、必要なことは「あれも、これも」必要だ。ユニバーサルデザインのもとにバリアフリーが必要なのである。権利条約はそのため重要な概念として「合理的配慮(リーズナブル・アコモデーション)」を定義し、合理的配慮をしないことは差別とした。また、積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)を位置づけている(第27条)。

改正障害者基本法と障害者基本計画の課題(情報・コミュニケーション分野から)

改正障害者基本法は、手話等の言語としての確認(第2条)、コミュニケーションや情報取得に必要な代替手段確保(第3条)、支援者養成や情報アクセシビリティ確保(第22条)などを社会的責務とした。「可能な限りは、エキスキューズに使われてはならない。最大限努力すること」と強調した担当大臣の国会答弁も忘れられない。

しかし、この間わが国のICT環境は激変し、利活用の格差も広がっている。日本障害者協議会の調査(2007年)では、「困ったことがある」の問いに、パソコンで72.1%、インターネットで68.6%、携帯電話で55.5%がYESと回答していた。

アメリカは「リハビリテーション法508条」により、連邦政府はアクセシブルなICTの調達を義務づけている。ヨーロッパも「Mandate 376」により同様の動きだ。わが国は、世界をリードする技術基準をいち早く整備し、支援機器なども多数開発している。しかし、強制力のある法制度や施策がないため、「技術」はあっても普及せず「利用」が進んでいない。

新障害者基本計画では、アクセシブルな情報通信技術の調達の義務づけとともに、数値目標を定めることが肝要である。また、今後新しいメディアやスマホなど「新技術」への開発段階からのアクセス対策、情報源や情報メディアを適切に利活用できる(メディアリテラシー)環境整備も課題となる。そして、省庁の枠を超えて、1.ICTの普及とともに不可欠な「ひと」の支援・専門家育成、2.研究開発への当事者参画、3.災害時の情報保障、4.病院、図書館でいつでも利用できる環境整備なども期待される。

人生の可能性を拓く

スウェーデンのビジネス街にあるカフェでは知的障害のある若者がレジを担当していた。画面のメニュー写真を押すと、釣り銭が一対一対応で表示される。聞けば、このシステムは日本とスウェーデンの共同研究とのこと。ICTの利活用によって人生はすばらしいと実感できるような社会参加の可能性が広がっている。新基本計画への期待は大きい。

(そのべひでお 全国障害者問題研究会事務局長、日本障害者協議会情報通信委員長)