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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

重症心身障害
重症心身障害児者のニーズを反映した新計画を望む

水津正紀

はじめに

来年4月に策定される「障害者基本計画」(以下、新計画)の検討が障害者政策委員会において進められているが、新計画は、全国で推定38千人と言われている重症心身障害児者(以下、重症児者)の実態が正しく理解され、重症児者のニーズが十分に把握され、計画に反映されることを望むものである。

平成22年に設置された障がい者制度改革推進会議内での議論の過程で、「重度の障害者が施設で暮らすことは人権侵害である」「権利条約では入所施設は否定されており、解体すべきである」との私どもにとっては耳を疑うような意見が出た。これは、多くの委員が重症児者の実態を理解していなかったことに加え、推進会議の委員の中に重症心身障害関係者が一人も入っていなかったことによるものと考えている。障害者権利条約の批准も考慮に入れて策定されると思われる新計画の検討段階で、同様の事が起きうるのではないかという強い懸念を抱いており、私どもにとっては悪夢ともいえることを再び起こさないために、新計画が作成されるに当たり、次のことを期待したい。

“まず知ることから始めましょう”

一般的にどんな計画でも、現場の実態を正しく理解した上で作成されなければならない。新計画についても例外ではない。しかし、多くの障害者政策委員会の委員の方や、サービスの実施主体となる市町村が、重症心身障害児・者という言葉はご存知であっても、その実態や特性まではご存知ないと思われ、新計画が重症児者の持つニーズからかけ離れたものになりかねない。その意味から、重症児者の特性や実態を知っていただくことが重要である。

重症児者は、意思の伝達や、自力での移動が困難な上に、医療的ケアを必要とし、摂食、排泄、入浴などの身の回りのことに全面的介助が必要な状態にある人たちである。関係者には、医療と介護の支援を合わせた特異のニーズを持つ重症児者の状態像をご理解いただき、その上で実態の把握と計画の策定に当たられることを期待したい。

当会が平成23年度に実施した在宅重症児者の地域生活実態調査では、在宅支援充実の必要性が浮き彫りにされ、一方、重症心身障害児施設の入所待機児者調査では、今すぐの入所を希望しているのは38.6%で、将来の介護不安に備えるためが28.1%であることが分かった。この結果は、在宅支援基盤の拡充と入所支援機能がバランスよく構築される必要があることを示唆するものである。まさに、鳥取県の障害者支援活動のキャッチフレーズである「まず、知ることから始めましょう」という心構えが必要であると考える。

重症児者の特性に配慮した施策が望まれる

◆児者一貫した処遇体制の維持を~児者一貫体制は、重症児者の命綱~

ほとんどの重症児者は、周産期、乳幼児期に受けた中枢神経障害からくるマヒ、変形、緊張、てんかん等の障害をもっている。これらの障害の基本的な支援の在り方は、年齢に関係なく生涯を通して一貫して行われる必要がある。これを一定の年齢、たとえば、18歳を境にして処遇環境を変えた場合には、環境の変化に敏感で影響を受けやすい重症児者は長年にわたって継続してきた療育方法、生活リズムが崩れ、心身に与える影響が大きく、生命リスク度が高まる可能性がある。

児者一貫の支援体制は、成人に達した者の人権侵害であるという意見もあるが、一貫とはライフステージを通して継続した処遇体制を確保することであり、成人には、人権・尊厳に配慮し、また、加齢化に伴う成人病等の疾患に対応する措置は当然、講じられるべきであることを付記しておきたい。

◆入所施設は必須

入所待機児者の入所申し込み理由は、医療的ケア重症化のほかに、親の高齢化、健康状態の悪化、家族構成の変化等、介助能力への不安であり、40.7%が家庭介護の限界を感じている。

医療が必要な重症児者のいのちを守るためには、入所施設は不可欠であり、また、在宅生活を守るためにも、短期入所、通園事業、外来診療、療育機能を兼ね備えた入所施設は必須である。前述のような入所施設否定の考えが新計画に盛り込まれないことを望む。

◆地域移行は強制にならないように

重症児者は、重度重複の心身障害があるため、本人の意思の確認が困難であるが、療育効果によって障害の程度が軽減し、本人の意思の確認ができる者については、家族等の関係者と協議し、理解を得た上で、セーフティネット機能の確保にも十分配慮して実施することは必要である。

◆在宅支援の充実を

重症児者には、医療的ケアを必要とする者が多いが、親は、どんなに障害が重くても、可能な限り地域で共に暮らしたいと頑張っており、在宅支援体制が不十分な中で、親や家族の献身的な介護努力によって支えている。

地域で安心、安全に暮らすためには、医療的ケアが可能な短期入所施設の整備、通園事業の充実、重度訪問介護や訪問看護の充実、緊急時医療の確保等の在宅支援諸施策が連携した基盤強化が望まれる。

最後に

今年末に障害者政策委員会が新計画の在り方の審議を終える予定と聞く。議論の時間は実質上4か月で十分とは言えないが、全国で懸命に生きている重症児者の特性と実態をご理解いただき、彼らの笑顔が失われることのないような新計画が策定されることを望むものである。

(すいづまさのり 社会福祉法人全国重症心身障害児(者)を守る会理事)