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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

難病
難病・障害の区別なく平等に支援される社会の実現を

小田隆

2012年6月、身体障害、知的障害および精神障害に加えて、政令で定める難病等により障害がある方々を加えるとした「障害者総合支援法」が参議院で採決され成立した。国の難病対策が始まってから40年を経て、ようやく難病患者に対し福祉の扉が開かれた。

これを転機とし、障害福祉施策と難病対策の相互連携が深まることでさまざまな困難に直面している難病患者に対し、福祉が届く制度の充実を多くの難病患者は期待しているが、その実現に向けての課題も少なくない。

国の難病対策は、最新の資料によると特定疾患治療研究事業における対象者は約67万人で、そのうち身体障害者手帳を取得されている方は約14万人と約2割に止(とど)まっている状況に置かれている。また、身体障害者手帳の等級に偏りが見られ、身体障害と比べて1級の方の割合が多く、重度になってから認定されるという傾向も患者会の実態調査などで見られる。難病対策と身体障害者福祉法で対象範囲の捉え方の違いに要因があるといわれているが、難病患者の立場から考えると納得できるものではない。

難病の中で、全身性エリテマトーデスという病気がある。一般的には膠原病といわれている病気の一つであるが、体の中で敵から自分を守ってくれている物質が、何らかの原因によって、自分の体のある部分を敵だと間違えて、攻撃するようになったために起きる病気の一種で、皮膚・血管・関節などに激しい炎症を起こし進行する病気だ。関節や筋肉の痛みとこわばりの症状が出てくる。発熱、全身の倦怠感などにより日常生活や就労が困難になることも稀(まれ)ではないが、身体障害者手帳の取得率は約1割と低く抑えられており、多くの難病患者が福祉サービスなどから見放されているという現状だ。私たちは福祉の谷間を解消するよう訴えてきた。

難病は、医学・医療の発展によって、命はとりとめたものの完全に治す治療法はなく、長期間の療養を強いられている。難病でおこる症状はさまざまですべての患者に同じ症状がでるわけではない。炎症が活発におこり激しい症状がでたり、症状が回復して安定したりを繰り返す。再発の程度や頻度には個人差があり、どのような経過をたどるのかを予測することは大変難しいといわれている。そのため、難病を身体障害者福祉法上の身体障害に含めることについては、身体機能に一定以上の障害が存在していることや、障害が固定または永続していることなどで、一律に身体障害に加えることは難しいとされてきた。

2008年12月の社会保障審議会障害者部会での障害者自立支援法の見直しの議論では、自立支援法の対象者を、個別法の引用ではなく、支援の必要性によって判断することについて検討すべきであるといった意見や、難病について医師の診断書に基づき判断すべきといった意見が出された。検討課題としては、身体障害者手帳を所持しなくても、身体障害者福祉法別表に該当することが確認できれば、自立支援法のサービスの対象とすべきとの考え方がある一方で、これを行う場合、市町村窓口において判断業務が困難になることや、自立支援法以外の各種公共サービスの割引などに広く活用されていることを踏まえると、さまざまな混乱が懸念されるとし、問題は先送りされた。

難病対策における難病の範囲の捉え方は、1.原因不明、治療方法未確立で、後遺症を残すおそれが少なくない疾病、2.経過が慢性にわたり、経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く、また精神的に負担の大きい疾病とされ、医学的な側面と社会的な側面の両面から捉えられている。

一方、身体障害者福祉法においては、視覚、聴覚、音声言語、肢体、内部(心臓、腎臓、肝臓など)機能などの障害で、その障害が永続する方が対象とされており、医学的な観点を制度の基本とし仕組みがつくられている。その制度の中に、社会的な側面を考慮し難病患者を取り込むことに無理があることは誰もが理解するのではないかと思う。また、制度の不備から特定疾患治療研究事業対象者の身体障害者手帳の取得率が約2割に抑えられ、難病患者に対し不利益を与えており、公共の福祉という観点から見過ごすことができない問題ではないかと考えている。

2011年に改正された障害者基本法において、障害者の社会参加の制限や制約の原因が障害者個人にあるのではなく、機能障害と社会的障壁との相互作用によって生じるものであるという障害者権利条約の考え方を取り入れ、継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある方々も含むとし、この定義に該当する「難病者」の方々も含むとされた。これを受けて、2012年6月に成立した「障害者総合支援法」において、政令で定める難病等により障害がある方々を追加することは、医学的な側面から障害を捉えるという考え方に加え、社会的な観点が追加されたことで難病患者に福祉の光があたる時代を迎えた。これを転換点として、難病や障害を区別することなく平等に支援が受けられる社会の実現を目指し、患者会活動を展開していきたい。

新たな障害者基本計画の策定に向けて、北海道においても施策推進審議会の会合が開かれたが、制度改正などを踏まえた方向性は示されてはいない。中央と地方での議論が平行していることが関係していると思われるが、改正された障害施策の理念を踏まえ計画に盛り込む内容を示し、施策が確実に進むよう国の障害者政策委員会がリーダーシップを発揮することを期待する。

(おだたかし 財団法人北海道難病連専務理事)