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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

発達障害
新しい障害者基本計画(第4次計画)に期待すること
~発達障害児者支援の立場から~

安達潤

第3次障害者基本計画の10年間は発達障害が公的に認められるまでの10年間であった。第3次計画における発達障害の記述は、平成14年創設の自閉症・発達障害支援センターのみである。しかし平成17年4月1日施行の発達障害者支援法で公的支援の必要性が確認され、平成19年4月1日には特別支援教育が始まった。そして平成22年12月には障害者自立支援法の対象となり、平成23年1月13日には精神障害者保健福祉手帳の診断書様式が改訂された。平成23年8月5日の改正障害者基本法では精神障害の括弧付きではあるが、発達障害が障害の定義に明記された。

この間、発達障害支援施策の積み重ねもあり、早期発見とその後の地域支援体制の充実、発達障害支援の専門家養成と普及啓発、就職支援や職業訓練の取り組みがなされてきている。

発達障害支援の立場から第4次障害者基本計画に期待することは、これまでの発達障害者支援の方向性の根拠づけである。特に発達障害者支援法で「心理機能の適正な発達を支援し、及び円滑な社会生活を促進するために行う発達障害の特性に対応した医療的、福祉的、教育的援助」と定義されている「発達支援」の考え方の導入である。

この点、第4次基本計画策定のベースとなる改正障害者基本法には、第17条(療育)が新設され「可能な限りその身近な場所において療育その他これに関する支援を受けられるよう」との文言が示された。また第17条と関連して第23条(相談等)には「障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務」という文言が加えられた。

さらに改正基本法の後、障害児支援は改正児童福祉法(平成24年4月1日施行)に一本化され、障害児の定義に「精神に障害のある児童(発達障害を含む)」が明記された。また児童デイサービスの児童発達支援への制度変更、保育所等訪問支援の新設によって、家族支援も含めた早期からの支援が可能となる体制整備が進められている。

発達障害の場合、障害の把握や受容までに比較的時間を要する状況があり、その間の子育て支援が極めて重要である。先の障害児支援の施策動向は「子育て支援からの障害児支援」を見据えたものと考えるが、第4次基本計画においても療育や家族支援を括(くく)り出し、子育て支援から障害児支援への円滑な移行を支える必要がある。その理由は、改正基本法の第16条(教育)と現在の特別支援教育の動向にある。

改正基本法の第16条に付加されたのはインクルーシブ教育への意思表明と本人・保護者の意向の尊重である。特別支援教育においても平成24年7月23日の「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」(中教審報告)で、就学先の決定に本人・保護者の意向を最大限尊重する総合的判断を導入するとしており、そのために早期からの教育相談や就学相談が必要だとしている。つまり、就学までに保護者が子どもにとって最適な教育を理解・把握するための家族支援と療育が求められるのである。その意味で第4次基本計画は、家族支援、療育(医療・福祉)、教育が一体となって障害のある子どもを子育て支援から支えていく仕組みが見えるようなものであってほしい。

以上に加えて、これからの発達障害支援において重要であるのは、発達障害特有の困難さに対する社会のバリアフリー化である。その具体的内容は、特別支援教育の在り方に関する特別委員会の合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループが、平成24年2月13日に提示している報告に掲げられた合理的配慮の例から読み取ることができるが、教育に限らず、職場環境を含むすべての社会生活の場において、これらの合理的配慮が充実される方向性が示されることを第4次基本計画に求めたい。実際、平成24年8月3日の「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」報告では、すべての事業主に対して合理的配慮を義務化する方向が提示されている。

そしてさらに重要なのは、改正基本法の第22条(情報の利用におけるバリアフリー化)に付加された「他人との意思疎通を図ることができる」ためのバリアフリー化である。平成24年7月30日の「アスペルガー症候群の被告に対する大阪地裁判決」は、発達障害者支援に大きな課題を提示したが、正当な意味でコミュニケーションが成立しているか否かが確認されずに発達障害者の人権が守られないような事態は絶対に起こってはならない。改正基本法に第29条(司法手続における配慮等)が新設されたことからも、第4次基本計画には発達障害者のコミュニケーションを仲立ちする専門職の養成と活用が明記される必要がある。

最後に、改正基本法に新設された第26条(防災及び防犯)に触れておきたい。筆者は東日本大震災に際してJDDネット被災地派遣チームの第2陣に参加したが、発達障害者には支援の手がなかなか届きづらい状況があった1)。災害時に発達障害者を支える施策は避難所や仮設住宅などのハードウエアだけでなく、発達障害児者支援のネットワークが平時から地域に存在し維持されていることが重要である。第4次基本計画ではそのようなネットワーク構築の姿が描かれる必要がある。その点、項目列挙ではなく、各項目が有機的に関連するものとして第4次基本計画が提示されることを求めたい。

(あだちじゅん JDDネットワーク理事、北海道教育大学旭川校教授)


【文献】

1)「発達障害支援」から見た被災地の現状と今後の課題および提案、JDDネットワーク被災地派遣専門家チーム第2陣、2011
http://jddnet.jp/index.files/archives2011/pdf/20110525_kadai.pdf