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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

ワールドナウ

北京フォーラム「バリア除去・インテグレーション促進」参加報告

寺島彰

2012年6月6日から8日に北京で開催されたフォーラムに招待され参加したので、その概要を報告する。

同フォーラムのテーマは、「バリア除去・インテグレーション促進(Removing Barriers, Promoting Integration)」で、「障害者が直面しているバリアの除去とすべての人の平等とインクルージョンに焦点をあてながら障害者権利条約(CRPD)の実施とミレニアム開発目標[MDGs]の進展について検討する」ことが目的であった。

主催は、中国障害者連合会(China Disabled Persons' Federation)で、中国障害者スポーツセンター(China Administration of Sports for Persons with Disabilities)を会場として開催された。

中国障害者スポーツセンターは、北京の中心街から車で1時間ほどの距離にあり、238、235平方メートルの広大な敷地に陸上競技場、サッカー場(3面)、アーチェリー場(2か所)、体育館、プール、ゴールボール場、トレーニングジム、室内テニス場、屋外テニス場(9面)、宿泊施設、研究施設などがある。2007年に中国政府が建設した。フォーラムの国外からの参加者は、ホテルのような宿泊施設を利用していたが、同時期にロンドンパラリンピックに向けた障害者アスリートたちの合宿も行われていた。

フォーラムの参加者は、参加者名簿によれば、回良玉(カイ・リョーギョク)副首相、中国人民政治協商会議(Chinese People's Political Consultative Conference)副議長であり、中国障害者連合会名誉議長の鄧樸方(デン・プーファン)氏の2人を筆頭に、中国政府から18人、中国障害者連合会(中央)から52人、中国障害者連合会(地方)から39人、中国障害者連合会以外の中国の障害者団体から4人、国際機関・国際団体・国外団体から93人の計206人の参加があった。国際的障害者団体には、国際障害同盟(International Disability Alliance)、DPI(Disabled People's International)、WBU(World Blind Union)、II(Inclusion International)、RI(Rehabilitation International)など、多くの有力な団体が含まれていた。また、国際機関としては、ESCAPを中心に、ILOなどからの参加があった。

プログラムは、表1のとおりである。1日目は、開会式、全体会での基調講演、分科会に分かれての発表などがあった。開会式では、潘基文(パン・ギムン)国連総長からのメッセージが代読され、ESCAPのナンダ・クライリクシュ社会開発部長やダイアン・リチラー障害同盟会長の祝辞があった。全体会では、ジャビッド・アビディDPI議長、クラウス・ラクヴィッツII会長、ジャン・A・モスバッケンRI次期会長などの基調講演があった。

表1 北京フォーラムプログラム

6月6日(水)
9:30-9:50 パフォーマンス
10:00-11:00 開会式
11:00-11:20 休憩・パフォーマンス
11:20-11:26 パフォーマンス
11:26-13:00 全体会議 基調講演
13:00-14:30 昼食
14:30-18:00 分科会
1 基本的な生活を守るためのよりよい社会保障制度
2 平等な社会参加のためのよりよい物理的環境
3 障害開発のためのよりよいCBR
4 貧困撲滅のためのよりよい教育とエンパワメント
19:00-20:30 歓迎会
6月7日(木)
9:00-9:40 全体会 分科会からの報告
9:40-10:20 休憩・パフォーマンス
10:30-11:45 北京宣言についての各分科会での検討
11:45-12:20 昼食
13:00-17:00 見学(中国障害者リハビリテーションセンター、北京点字図書館)
20:00-22:00 野外カクテルパーティー
6月8日(金)
9:00-10:00 閉会式 北京宣言の採択
12:00-18:00 市内観光・買い物

分科会のテーマは、1基本的な生活を守るためのよりよい社会保障制度、2平等な社会参加のためのよりよい物理的環境、3障害開発のためのよりよいCBR、4貧困撲滅のためのよりよい教育とエンパワメント、の4つであり、中国の行政機関、研究機関および外国からの参加者の発表があった。筆者もテーマ3で発表した。

2日目は、全体会における分科会の報告に続いて、再び分科会に分かれて、北京宣言の事務局案の検討が行われた。具体的には、事務局案に対して分科会の参加者が意見を述べ、それらを集約して事務局が北京宣言案を作成した。3日目には、全体会でその北京宣言の採択が採択された。

北京宣言の概要は、表2のとおりである。障害者権利条約の内容を踏襲しており、さらに、合理的配慮の規定の強化など、障害者団体としての視点を加えたものになっている。また、ミレニアム開発目標とアジア太平洋障害者の十年にも言及している。なお、日本語全訳は、日本障害者リハビリテーション協会の障害保健福祉研究情報システム(DINF)に掲載されているので参照されたい。

表2 北京宣言の概要

1.各国政府に対し、以下を強く要請する。
(a)CRPDの批准と実施の促進及び必要な法的枠組みと機関の設立
(b)差別への対策、特に合理的配慮の規定の強化と、CRPDの実施を実現するための環境づくり
(c)2015年以降、さまざまな部門における国連開発課題に、障害の側面を明確に盛り込むこと
(d)障害を含めた開発のための適切な資金配分を、年間予算に明確に記載すること
(e)「アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)」などの、地域における「障害者の十年」の促進
(f)あらゆるレベルにおける意思決定への障害のある人々の平等な参加を促進するための、障害のある人々とその団体に対する、能力構築を含む支援の強化
(g)障害のある人々に対する、あらゆるレベルにおける開発プロセスで指導的な役割を担う機会の提供
(h)障害を含めた政策及び計画の促進と、政府の業績評価にかかわるエビデンスを提供するため、国際比較が可能な非集計型の障害統計を改善する取り組みと、調査研究及び分析を強化すること
(i)子供、若者、女性、高齢者、スラムや農村部及び僻地、島嶼部で暮らす、さまざまな障害のある人々に特に注目すること
(j)以下の分野に優先的に注目すること
アクセシビリティ、教育、生計、CBR(Community Based Rehabilitation)、社会的保護
2.国連システム、開発協力機関、国際及び地域市民社会団体、ならびにすべての開発パートナーに対し、各国政府による地域内及び地域間の協力を通じた上記の行動の遂行を支援するよう要求する。
3.あらゆるレベルにおける障害のある人々の団体及び障害のある人々のための団体、ならびにその他の市民社会団体に対し、以下を奨励する。
(a)政府による上記の行動の遂行を支援すること
(b)アジア太平洋障害者の十年(2013-2022)などの、地域における十年計画の実施と進捗状況の追跡に積極的に貢献すること
(c)2015年以降、さまざまな部門における開発課題に障害の側面を盛り込むよう主張するため、一致団結して取り組むこと

また、会議全体をとおして多くのパフォーマンスが行われた。特に、千手観音で有名な中国障害者芸術団には開会式、歓迎会、および閉会式で華やかなパフォーマンスを披露していただいた。

ミレニアム開発目標は、貧困の削減や環境の保全、貧困を撲滅するための2015年までの目標であり、国連や各国政府などの諸機関が共通の目標として掲げたものである。現在、ミレニアム開発目標の達成と2015年以降の取り組みについての議論が活発に行われている。特に、現在のミレニアム開発目標は、障害者について言及していないことから、2015年以降に目標が設定される場合には、そのなかに障害者問題について取り上げることが求められている。

また、アジア太平洋障害者の十年は、第2次障害者の十年の最終年を迎え、今年、10月29日から韓国のインチョンで、ESCAPの政府間会合が開催される。同会合では、第2次障害者の十年の成果のまとめと、新アジア太平洋障害者の十年の実施について議論されることになっている。

このような時期に、開催された北京フォーラムは、まさに、時宜を得たプログラムであり、中国障害者連合会の存在感を示すことになったと思われる。

(てらしまあきら 浦和大学教授)