音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年10月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

地域の支援ネットワーク構築を目指して
―NPO法人地域自立支援推進協議会JOTOの取り組み―

荒川輝男

「城東区地域自立支援協議会」(以下、協議会)ではなく「NPO法人地域自立支援推進協議会JOTO」(以下、NPO JOTO)という似たような名称に疑問を持たれる方が多いと思います。

地域自立支援協議会を中心としたネットワークは、障害者自立支援法のスタート時に、今後の障害者福祉の流れの中で大きな役割を担っていくものと期待されましたが、現状では形骸化しています。また、委託相談支援事業者が中心になっているだけで、地域全体での取り組みにはなっていないというのが実態ではないでしょうか。

城東区においては、協議会でのさまざまな取り組みを通して区独自の障害者支援システムを構築し、活動を活発化させ、その発展的形態としてNPO法人を設立しました。簡単に言うと、協議会は行政を中心とした緩やかな協議体で理念的な部分を担う。NPO JOTOは参画する団体や事業所が受け身でなく積極的な活動への方向性を示し、実践的な部分を担っていくものと位置付けています。これが達成できた最大の要因は、区内事業所のすべてが協議会に参画していることです。

近年、社会福祉に求められてきていることは、公私の協働により地域社会に「福祉コミュニティ」を創造することで、行政・民間を問わず関係者にとって今日的な課題となっています。地域社会に生じるさまざまな公共的問題・課題に対して、住民や企業、NPO等の活動主体が、対等なパートナーとして行政と協働してその解決に取り組むという、いわゆる「新たな公共」の考え方に基づく改革や実践をさまざまな政策領域において進めていくことです。

1 協議会の歴史

(1)行政主導の創設期(平成15~16年度)

平成15年度から、基礎構造改革によりサービス提供の仕組みが大きく変更され支援費制度が導入されました。この「措置から契約へ」の変更にあたり、「障害者ケアマネジメント」が導入され、大阪市では圏域等ごとに「障害者ケアマネジメント連絡調整会議」が設置されました。城東区においては、連絡調整会議はほとんど開催されず、当初は他区と同様に活動内容は低調で、参画機関にとっては非主体的なネットワークとしてスタートしました。

連絡調整会議とは別に「ピアフェスタin城東」という障害者のイベントを開催しました。第1回目は、区民生委員協議会の全面的な協力を受けて、区内の障害者福祉関係の機関・団体が一堂に会し交流が行われました。区内においてお互いの顔が見える関係性が「ピアフェスタ」を通して初めて生まれ、以後の活動に大きな一歩を踏み出すきっかけとなりました。今では、区のイベントとしてすっかり定着しています。

(2)主体性の萌芽期(平成17~20年度)

1.「障害児・者総合相談会」の開催

平成17年12月から開催しました。城東区、障害者福祉事業所、弁護士や医師、教員等の専門職にも参加してもらい、主訴に応じてその分野を専門とする担当者が応対し、ケースによってはアフターフォローも継続的に関わってきました。この経験が、皆で協働して区内の相談支援体制を充実させていくという協議会の理念の具体的なイメージ作りにつながっていきました。以後、毎年の開催を継続し定着しています。

2.「城東区地域自立支援協議会」の設置

平成20年度より城東区においても正式に協議会が設置されました。15年度からの取り組みを踏まえ城東区やメンバー全体の意向もあり、参画機関の範囲はサービス事業者や団体・家族会等にも参加を募り「相談支援部会」と「地域活動部会」との2部会体制としました。

(3)行政からの自立期(平成21年~)

1.参画機関による事務局体制への変更

協議会活動の盛り上がりを受け、平成21年度に行政主導の協議会を民間主導へと転換し、区は調整等の裏方の役割に徹し、すべての区内事業所の加入を目指しつつ自分たち参画機関が協議会の事務局を担う形態になりました。各事業所の規模の違いはありましたが、皆で役割を分担し負担を分け合うことにより、協議会を運営してきました。

2.協議会活動の拡大

事務局体制が変わり、協議会は活動内容をさらに拡大しました。「当事者部会」が新たに設けられ3部会体制となり、相談支援部会は、区役所の一部を借りて毎月1回「障害児・者いろいろ相談会WAKUWAKU」をスタートさせました。地域活動部会は「福祉避難所計画策定のための調査事業」や防災訓練・グループワークを実施しました。これらは、自らが「相談支援体制の確立と地域を作っていく」という目的への自覚と意欲が着実に醸成されてきた結果でした。

3.NPO JOTOの誕生

年度途中に発展的形態として、法人化を目指すことが提案されました。その主な理由は、参画している事業者の主体性が強くなること、協議会の緩やかなつながりではメンバーの意識を一定に保つことが難しいこと、法人化で事業を展開しやすくなること等でした。

議論を重ねた結果、最終的には「とにかく、やってみよう」と全体の意見がまとまり、法人化を進めることに決定し、平成23年4月6日付で「NPO JOTO」が認可され誕生しました。理事会は、障害当事者から健常者、社会福祉法人から有限会社、相談支援事業者から作業所、介護事業者とさまざまな立場の者で構成しました。

2 新たな展開へ―福祉コミュニティの創造と機能に向けて

(1)区独自の障害者支援システム作り

1.城東区障害者相談支援センター(WAKUWAKU)を中心とした相談支援体制の確立

今年度から、NPO JOTOで大阪市の区障害者相談支援センターを受託し、新たな相談支援体制の確立のためにスタートしました。WAKUWAKUは、民間相談支援事業所の集合体であるため、特定の事業所の観点からではなく、中立・公正な立場で相談支援を実施することができます。

2.地域住民との連携による身近な地域の支え合い体制の構築

地域ネットワーク委員や民生委員、NPO JOTOとの連携体制の構築です。協議会では、21年度に協議会の旗を作り、区内の事業所や公共施設等に掲示して「WAKUWAKU」の周知を図り、さらに民生委員等へ依頼し約300本を設置してもらっています。

3.災害時要援護者に対する避難支援の取り組みの充実

地域の人たちと共に障害者が指定避難所に避難する場合を想定しての学校施設の点検や、避難時の対応についてのグループワークを行なってきました。23年度には福祉避難所(小学校)に宿泊しての防災避難訓練を実施しました。24年3月には、城東区とNPO JOTO間で福祉避難所の協定書を締結しました。

4.特別支援学校との進路相談の仕組み作り

障害児童・生徒が進路選択で等しく情報を共有できるために、特別支援学校やPTAとの窓口となって調整を行い、協議会メンバーが具体的に事業所説明会や作業所等の見学会を開催し、希望者と作業所等とのマッチングの調整を実施します。

5.独自の障害者施策の実施

平成23年度は法人化したことにより独立行政法人福祉医療機構の助成金を受け、NPO法人として地域に根ざした事業を実施、展開することができました。従来の企画以外に、発達障害者のピアカン講座やピアカン派遣事業、全国的にも珍しい障害のある人の宿泊防災避難訓練、居宅介護事業者研修などを実施しました。

3 今後の課題

協議会からNPO JOTOへの流れを振り返ってみると、時代の要求する障害者福祉への新しい公共を目指した法人化の道は正しい方向へ向かってきたという自負心はありますが、必ずしも順風満帆ではなく、2年目を迎え直面している課題は山積しています。

一つは財政の問題、二つ目は法人運営に対する責任体制の問題、三つ目は新規参入事業者への対応等です。これ以外にもありますが、今後もみんなで作ったNPO JOTOが安定的に継続し「新しい公共」として行政とのパイプ役を果たし、障害分野だけでなく地域福祉の核となって機能していけるよう、さまざまな課題をみんなで解決しながら進んでいきます。

(あらかわてるお 社会福祉法人そうそうの杜理事長)