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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

政策委員会に期待すること

必要な人に、必要な支援を

青木志帆

1 はじめに

現在、障害者政策委員会により、障害者基本計画の策定作業が進められている。この委員会は、「Nothing about us, without us.(私たちぬきに私たちのことを決めないで)」のスローガンのもとに、当事者やその関係者など、幅広い背景を持つ委員が選任され、障害者施策を監視・監督することを役目とする、障害者基本法32条に基づく機関である。

総合福祉部会による骨格提言は、残念ながら障害者総合支援法に十分に反映されたとは言い難い結果となった。ただ、小宮山洋子厚生労働大臣によれば、骨格提言を段階的、計画的に実現する方向とのことである。どのような政権になったとしてもこの方向性が守られるよう、障害者政策委員会による実効性のある政策の監視・監督を期待する。

2 谷間のない障害福祉施策

これまで、難病をはじめとする慢性疾患は、福祉サービスの「制度の谷間」とされてきた。障害者基本法では、「その他心身の機能障害がある者」という文言により、ほとんどすべての慢性疾患患者が、同法が定める権利の主体として位置づけられた。これを受け、障害者総合支援法では、「治療方法が確立していない疾病その他特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者」も、「障害者」の範囲に含められることとなったのである。

本稿執筆時においては、ひとまず難病患者等居宅生活支援事業の対象とされている疾患が指定される方針が、厚生労働省内の難病対策委員会で確認されている。ただし、現在は同委員会で、難病対策の対象となる「難病」の範囲について議論していることから、今後はこの議論に合わせて、総合支援法が対象とする疾病の範囲も検討する、としている1)

さて、同委員会でのこれまでの議論の中では、研究、医療費助成等の総合的な難病対策の対象となる「難病」とは何か、という点が議論されている。現在のところ、1.希少性(症例が比較的少ない)、2.原因不明、3.効果的な治療法未確立、4.生活面への長期にわたる支障、という4つの条件を満たす疾病の中から選定する方向で検討されており、総合支援法の対象疾病も、この点は同様である2)。ところが、福祉サービスを提供する必要のある疾病は、前記4つの条件を満たす疾病に限られない。特に問題となるのが1希少性である。症例数が少ないことと、その病気による、生活における福祉サービスの必要性との間には因果関係がない。

というのも、この1の条件のために、介護の必要性が非常に大きいにもかかわらず、「障害者」の範囲に入らず、福祉サービスを受けることができない疾病が発生するのである。疾病という性質上、症状が変動することから「身体障害」の認定を受けることが難しく、新たに加わる疾病にも指定されないとなれば、体調によってほぼ寝たきりの日もある中、自力で生きるしかない。

障害者基本法3条に定められた「地域社会で共生する権利」など、他の障害者と等しく「権利の主体」となるべき慢性疾患患者。しかし、政令で指定する疾病を検討するにあたり、「希少性」の条件を維持し、さらには指定以外の疾病による福祉サービスの利用を一切許さないのであれば、必ず深刻な谷間が発生する。ところが、難病対策委員会は、「比較的まれな疾病」という条件は維持したままのようである。

今後、政令指定疾病を選定する際には、その疾病の病態と福祉サービスの必要性の観点から検討すべきである。そうして選定された疾病の他にも、名称が異なるだけで類似の症状を示す疾病などについては、医師の診断書やケアプランなど、その人にとっての福祉サービスの必要性を個別に検討して認定できる道を残すべきである。

3 必要な人に、必要な支援を~慢性疾患患者の支給量問題

今回、政令で指定された疾病においても、なお安心できないことがある。それが、障害程度区分(平成26年4月からは障害支援区分)認定である。ひとまず、障害支援区分制度が始まるまでは、現行の区分認定調査票による調査が行われ、疾病に特徴的な「強いだるさ」「激痛」「しびれ」などの諸症状は、マニュアルを配布することで対応するとのことである。当面はやむをえないとしても、支援区分への変更の際には、これらの特徴を拾い上げる調査事項とならなければ、「障害者」の範囲に含まれたことがほとんど意味をなさなくなってしまいかねない。これは、慢性疾患患者だけではなく、視覚・聴覚障害や、精神・発達障害において従来から指摘されてきたことである。この点については、どのような症状、障害に基づき、どのようなサービスを必要とするのか、当事者委員こそが知り得ることであり、ぜひ活発な議論を行なっていただき、必要な人に、必要な支援が行き届くような障害支援区分認定制度、あるいは支給決定制度となることを期待する。

4 おわりに

福祉サービスを必要とするすべての人に、必要な支援を、という骨格提言の趣旨を少しでも実現できるよう、今後の政令の制定、改正については、特に注視していただきたい。そして、障害者基本法の理念と外れるところがあれば、厳しく追求し、正していただきたいと思う。

(あおきしほ 弁護士)


1)平成24年12月6日付第27回難病対策委員会資料2より

2)平成24年8月16日付「今後の難病対策の在り方(中間報告)」より