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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

政策委員会に期待すること

共生社会の実現をめざして

吉野幸代

はじめに

「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」をモットーにJDFや全日本ろうあ連盟等の障害関係団体があきらめない運動を行なった結果、改正障害者基本法に「言語(手話を含む)」と規定されたのは、画期的な事である。

障害者政策委員会では地域で暮らす障害者の権利の実現に向けて、より本格的な取り組みを始めている。

新たな障害者基本計画について

障害者の社会参加におけるアクセシビリティの問題、特に情報の受信および発信についても取り組むことが重要である。いつでも、どこでも、誰(だれ)からでも自由に情報を受信したり発信したり、そしてコミュニケーションの方法や手段を自らの意思で自由に選択できるようにすることが当然の権利として保障されること、また施設、司法、教育、医療等へのアクセスが重要である。さらに、コミュニケーション支援者の育成・養成が強く求められる。

さまざまな場所での合理的配慮

障害者が職場や町内会などあらゆる場所や研修などに参加する際、障害を理由に均等に参加する機会が奪われ、不利になることがある。たとえば、会社の会議に手話通訳を付けてほしいと要望しても「企業秘密で外部の人を入れることはできない」と言われることがあった。医療や就労、参政権、交通アクセスの場面等さまざまな事例がある。特に、障害を有する受刑者・出所者等に対する処遇および支援のあり方についても同様だ。

ろう者の場合はコミュニケーションの保障、手話通訳を依頼する権利、情報アクセスに関する権利が全く保障されておらず、手話による会話の機会が保障されないまま精神的に孤立した生活を強いられている状況にある。そのため、手話通訳者の配置とテレビの視聴を享受できるよう字幕機能が設定されたテレビの製造、音声放送については、字幕や手話放送等で情報にアクセスできるよう設備面での配慮が必要である。

選挙等における必要な配慮の提供、成年後見制度と選挙権について

国会中継や政策について意見を交わす公開討論番組等は、現在、字幕や手話通訳などの情報アクセスに関する保障がなされていない。国政選挙の一部や地方知事選挙における政見放送については、すでに一部の政党を除き手話通訳の配置が実施されているが、字幕付与は十分でなく、情報アクセスは不十分な状態である。

選挙(街頭演説や立会演説等)における手話通訳の配置も義務ではなく、政党の判断に委ねられており、あらゆる有権者が選挙時に容易に情報を得る状況には至っていない。このため、段階的であっても国政選挙において情報保障費の公費負担を基本計画に盛り込むべきである。

情報・コミュニケーション法(仮称)や手話言語法(仮称)の制定

手話通訳・要約筆記・盲ろう者向け通訳・介助を利用したいと派遣依頼をしても、自治体によって利用条件が異なるため利用できないことがある。いつでも全国どこでも、無料で利用するための制度の整備が必要である。そして、あらゆる障害者の情報アクセスやコミュニケーション手段の選択を保障するための法律の制定や、手話者の言語獲得権を保障するための法律の制定が合理的配慮のために必要である。

障害のある女性のエンパワメント

昨今、「男女の機会均等」が謳(うた)われ、女性の社会参加が加速した。障害者においても社会進出が進み、障害者特有のジェンダーに関わる課題が浮き彫りになってきた。

内閣府の調査によると、女性の3人に1人が何らかのDV被害を受けていることが報告されているが、これらは一般的な指数であり、ろう女性に限っては被害状況が表面化されていない。ろう女性はDV被害に遭っても、すぐに助けを呼んだり、相談したりすることが困難である。聞こえないことで制約を受けることが多く、相談に至るまで時間がかかってしまう。自治体が配布するチラシには電話番号しか記載されていないので相談したくてもできない状態にある。「FAX番号の記載を」と強く要望しているが、個人情報の問題があって載せられないと断られる。

アジア諸国では文化、宗教、習慣などの違いから、障害のある女性の中でも、特にろう女性に対する差別が著しい。情報アクセス、社会資源などの整備がまだ不十分で、人権が確立できていないのが現状である。日本も歴史的に「ろうで、なおかつ女性である」ことによって結婚や出産、育児や仕事とあらゆる場面において二重の差別を受けている。今後、障害のある女性、ろう女性が安心して暮らせるために女性のエンパワメントを引き出すことが必要である。そのためにも、一刻も早く障害女性に関する政策の策定が望まれる。

終わりに

2012年12月4日、米国上院議会で障害者権利条約の批准の採決に必要な定数の3分の2に届かず、否決されたと報道された。このような事態は日本でも、障害者差別禁止法の制定が危ぶまれるだけでなく権利条約の批准すら懸念される。権利条約批准への運動を地方から中央へ、そして権利条約の中身を暮らしの場に生かして実現していく闘いを地方で広げて、皆で結集した力を中央に注ぐことが大切である。

私たちは障害種別を問わず、一丸となって、私たちが望む社会になるよう粘り強く訴えていかなければならない。そして、私たちの声がきちんと反映される共生社会となることを期待したい。

(よしのさちよ 全日本ろうあ連盟国際委員会委員)