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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

政策委員会に期待すること

実態を変えていく力をもった政策委員会に

斎藤なを子

改正された障害者基本法(以下「基本法」)に基づく障害者政策委員会(以下「政策委員会」)による取り組みに大きな関心と期待を寄せている。

「推進会議」の継承と当事者の参画

関心と期待の一つ目は、この間の障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」)が切り拓き積み上げてきたさまざまな成果と課題がどのように引き継がれ、課題解決の具体化が図られていくのかという点である。

2010年1月12日の第1回推進会議以降、推進会議や総合福祉部会、差別禁止部会を、障害のある人やその家族などと共に度々傍聴してきた。そこで強く実感したことは、審議のあり方のもつ重要性である。

当事者の過半数以上の参加、情報コミュニケーションや休憩時間、参加の手だて(イエローカードなど)の保障などとともに、構成メンバーが実質的に議論し方向性をまとめあげていくという点において、従前の行政ベースによる障害関係審議体から様変わりの感があった。

会議資料と手話・字幕付きの動画による全国同時の情報発信や、わかりやすい版の作成、節々での地域フォーラムの開催などは、多くの人たちがその内容を共有し、幅広く議論に参加していく仕組みでもあり、開かれた審議体としての具体的なモデルの一つを示したのではないだろうか。

障害者権利条約(以下「権利条約」)第4条には、「締約国は、…法令及び政策の作成及び実施に当たり、並びにその他の障害者に関する問題についての意思決定過程において、…障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる」とある。この内実を、法定審議体である政策委員会であるからこそ、その審議形態面からもさらに発展させていくことが必要である。

何のための「監視・勧告・調査等」の役割か

形態面のみならず、推進会議で議論されてきた内容面の具体的な継承が重大なポイントであることは言うまでもない。

推進会議から政策委員会に至る間に、権利条約と障害者自立支援法違憲訴訟「基本合意文書」を指針として、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」(2010年6月)、「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(2010年12月)、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(2011年8月)、「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」(2012年9月)がとりまとめられた。

「新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会意見」(2012年12月)においては、前述の意見書・提言書を踏まえて権利条約の批准に向けた法整備と批准後の条約の実施を想定した、新「障害者基本計画」(以下「基本計画」)のスタンスをとるように求めていることは極めて当然と思う。

今後、基本計画は政府によって決定され実施に移される。そこで、政策委員会に対する関心と期待の二つ目は、政策委員会が単なる「協議」の場ではなく「監視・勧告・調査等」の役割をもった点にある。これがどのような形で展開されていくことになるのか、それ自体が政策委員会の喫緊の重要なテーマでもあり注視してゆきたい。

この間、推進会議や部会でとりまとめられた意見書や提言書に対する政府の対応や立法府の姿勢について理解しがたい思いを抱かされることにしばしば遭遇してきた。しかし、障害分野の積年の基幹的課題は厳然と残されたままであるとともに、権利条約が要請するこれから目指してゆく方向性は明確となっている。

政策委員会の「監視・勧告・調査等」の役割は、何よりも、障害のある人たちの生活実態を変えるものとしてその効力を発揮してほしい。願いをあきらめていることすら忘れてしまっている状況に、安心と安定の具体的な見通しをもたらすことができるように機能してほしい。権利条約にある「モニタリング」とは、そのような迫力とリアリティーを保つことではないだろうか。

地方自治体との有機的相乗作用を

関心と期待の三つ目は、地方との関係である。さいたま市障害者施策推進協議会は、改正基本法を基に2012年4月からさいたま市障害者政策委員会へと早々に切り替わった。さいたま市では、国の制度改革と時期が重なりあいながら「さいたま市誰もが共に暮らすための障害者の権利の擁護等に関する条例」いわゆる「ノーマライゼーション条例」作りを進めてきた経過があり、国での議論の状況がさまざまに意識されてきたことも大きい。

条例作りのための100人委員会を引き継いで設置された市民会議は、障害者に関する施策課題を市民が相互に意見交換する場であり、出された実態や意見は必ずさいたま市政策委員会に報告され、市の基本計画の策定やその進行管理に反映されていく仕組みとなっている。さいたま市の場合、この市民会議があることで、政策委員会の「監視」機能をより多くの市民参加で果たすことにもつながっていると思う。

このような取り組みが多くの地方自治体に広がっていくことは国の政策委員会の後押しになるであろうし、政策委員会の「監視・勧告・調査等」の実質的な役割が高まることは地方へ良い影響を及ぼすことにもなる。地方との有機的な相乗作用が働くような手だてを講じていくこと、その一つとして、地方自治体の障害者計画や障害福祉計画の策定指針のあり方について、国の政策委員会におけるチェックを求めておきたい。

(さいとうなをこ 社会福祉法人鴻沼福祉会常務理事)