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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年1月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

“ほんまもんの就職活動”
~10年後の彼を見つめた就労支援~

野々村光子

生活苦しい≠(からではなく)働きたい

東近江圏域働き・暮らし応援センター(以下、当センター)には、いろんな「働きたい」思いを持っている人たちがドアをノックされる。障がいのある方はもちろんであるが、現在の福祉サービスの対象とならない長く在宅のみでの生活を送られてきたひきこもりの方や、障害をオープンにした経験のない方も多くおられる。これは、地域性にも大きく関係があると考えられる。当センターが活動する地域(2市2町)は田園広がる緑豊かな土地であるとともに、昔からのいろんな住民同士の付き合いも大事にされてきた地域でもある。その分、家庭の悩み事を地域にオープンにしづらい一面も現状として残っていると感じている。

「生活に困ってんねん」はカッコ悪い。「働きたいねん」はカッコイイ…。

このようなことから就労相談がスタートするのだが、実際にはまず生活支援を必要とする方々が多く、このような関わりを「生活支援から始まる就労支援」として“働くこと”に主眼を置きながら、本人の思う暮らしや本当に困っていることは何かを知っていくプロセスを大切にしたいと考えている。

いろんな“働きたい”への応援

「社長、障害者をいきなり雇用しないでください」と企業を回り続けて約7年。

いろんなカタチの“働きたい”を実現させていく際に、福祉や制度といったカテゴリーがいかに狭すぎるかに気付かされる。当センターにおいては、地域性から働きたいと思う彼らの経験のなさがある一方で、障がいのある人が働きたいという思いを持っていることを知らない企業の存在が、さらに働くことを当たり前にできない状況にしていた。

そこで当センターでは、彼らと企業の現状をどちらかに合わせるという観点ではなく、彼らにとっても企業にとってもプラスになるシステムの構築は何であるかを考えた結果、社会の中での役割にたどり着いた。

障がいのある方と企業との新しい関係性を生み出すこと。それは障害者雇用という狭い枠組みではなく、見学や体験、実習、グループ就労などといったさまざまなカタチで企業の門を開くだけで実現することだ。この第一歩が、働く経験の乏しい障がいのある方や就労に失敗したことから自信を持てないでいる方にとって、再度企業に足を向けるきっかけとなり、大きな意味を持つ。また、企業にとっても障がいのある方を雇うことは、地域の企業にしかできない究極の応援である。そして、地域の企業にしっかりと働く障がいのある方が増えていくことが、地域経済への参加という大きな意味を共有することから広がりを見せてきている。

“働くということ”

私たちは毎日たくさんの
「働きたい」と出会う。
その「働きたい」思いには
色んな意味がぎっしり。
家族への愛や自分のヘタクソや
自慢したい気持ち。
稼いだお金で居酒屋へ…
彼らの「働きたい」と出会う度、
「働くこと」が持つ力の
大きさに驚き、学ぶ。
また「働くこと」は
単なる作業ではなく、
生きる力を育むステージ…
そんなステージに立つ姿は
誰もが真剣、誰もがカッコイイ、
誰もがほんまもん。
輝く場所がここにある。

その人の“得意”を発見できる環境づくり~地域がアイテムに~

当センターの業務の柱は、一般企業への就労支援とされている。多くの方の“働くこと”に関わる中で、就労条件を明確にすることの大切さを実感している。その「就労条件」とは、職種などの作業内容ではなく、その方に対する配慮や得意なこと、苦手なことへの工夫を周りの人々が発見し本人と共有するということである。このような就労条件を発見できる環境を常に意識して、作り続けていくことが大切であり、そのプロセスが大きな意味をもっている。

本人にとって、就労することがゴールではない。人生をイメージする力の構築ができて、応援する周囲の人々はあらためて本人の力に驚き、アプローチについて真剣に向き合う。企業就労を正解とするのではなく、“その人の働き方”に寄り添うことが本当の就労支援であると考える。

地域の誰もが利用する図書館。地元の図書館は緑豊かに設計されていて、市民の憩いの場として多くの方に利用されている。そんな図書館の顔であるグリーン(緑化)を年間を通してきれいに管理したいと行政から依頼をいただいた。グリーンの管理は手作業となる草むしりから大きな木の剪定までいろんな仕事の宝箱であると考え、福祉サービスの対象とならない引きこもりの若者を中心に取り組みを開始した。

自宅では経験したことのある草むしりであるが、地域の方から仕事として依頼を受け、役割を決めてみんなでやり遂げることは、「作業」が「仕事」へ変わることを体感する。家族も知っている図書館での仕事は、少しずつ本人の自信となっていく。本人にとって自信のステージとなり、地域の方にとっては気持ちよく憩える場所となる。誰にとってもプラスとなるこの取り組みは、数か所の図書館へと広がりを見せている。

また、地元(東近江)で、山を整備するためナラ枯れの木を薪ストーブのエネルギーとして循環する、地域の10年後を見据えた取り組みがスタートした(薪プロジェクト事業)。行政や地元企業、民間団体が一体となって展開していくこの事業の中で、少し地味だけどとても大切な工程である『薪割り』の仕事を当センターの利用者が行うことになった。

現場は企業。空の下、力が必要とされる仕事だ。しかし、『薪割り』は少し大きさがデコボコでも失敗にならない仕事。“働くこと”に対して躊躇(ちゅうちょ)したり不安があったり、いろんな一歩を踏み出すことが重く大きい方にとって自然の中のこの仕事は、「できた」が多く生まれるステージとなった。

薪割りの仕事は、作業内容だけではなく、そのステージが地域の中にあることで自分の役割を実感できる場所となっていると考える。いろんな人が薪割りの作業を通して「働く力」ではなく、「生きる力」を自分の中に育て、その人にとってちょうどいい働き方・ちょうどいい暮らし方をつかみ地域に卒業していく。

あらためて、仕事の持つ力の大きさを実感するとともに、そのステージが特別に準備されたものではなく地域の中で必要とされること、地域の流れの中にあることが大事であると感じている。

大切にしていること

『働きたいの奥にあるものを見つめた就労支援』

“働きたいねん”と、自信なさ気に相談される46歳男性。どんな職種が彼に合うのかを探すのではなく、まず、彼の心配がどこにあるのかを一緒に考えられる応援がしたいと思う。単に働きたいという希望のみを実現させるのではなく、その人の人生が太っていく就労支援が“働きたいねん”に寄り添い向き合うことであると考えている。

『障がいのある人が企業に当たり前に出入りする地域づくり』

企業と障がいのある方との新しい関係性として取り組んでいる「見学・体験・実習」システムの大きな意味がもうひとつある。障がいのある方の生活は特別ではなく、地域で暮らし地域で働くことは当たり前である。しかし、そんな当たり前がまだ知られていないのが現状である。

このシステムが行政の福祉課や作業所だけでなく、コンビニや企業など障がいのある方が生きている地域で必要な場所の利用が当たり前になる暮らしが特別ではない、という地域づくりに繋がると信じている。

10年プロジェクトの始動

現在「応援団」は、障がいのある人と関わっている機関や人で構成されている。しかし、彼らの暮らしは地域社会の中にある。その観点から、2年前から応援ステッカーの発行を開始している。青年団事務所の玄関や社有車に貼っていただくことからはじまり、地域のいろんな場所で同じマークがちらほら増えて、地域のいろんな場所や人が応援団になる。そして10年後、地域が大きな応援団になるというプロジェクトだ。

知らない人同士、競争企業同士が「応援団」という新しい同じステージに立つ。新しい繋がりが生まれる。

“10年プロジェクト”

働きたいの思いを聞いてくれる家族。
実習先の会社の社長。
仕事帰りに寄り道をする
コンビニのお兄さん。
みんなみんな応援団です。
直接支える応援ではなく、
障がいのある方の
「働きたい」がいつもそこにある事を
知っているという応援。
あなたの心のどこかにある
そんな気持ちを表すマークです。

大切な愛車や職場のデスクに
応援ステッカーを…

一人一人の応援が10年後、
地域が大きな応援団となる事を
目指して…

東近江圏域働き・暮らし応援センター“Tekito-”

(ののむらみつこ 東近江圏域働き・暮らし応援センターTekito-支援ワーカー)