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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

ホーキング青山、20年目の笑い

ホーキング青山

私がデビューしたのが1994年。来年で20年になる。

20年前と今とでは障がい者を取り巻く環境はまったく異なっていて、当時は「バリアフリー」という言葉も「ノーマライゼーション」という概念も一般的ではなく、世間の障がい者への関心もかなり低い時代だった。

そんな時代に私は、一番多感な18~19歳で、当時ライブのお笑いにはまりまくっていた。

その私を「芸人になってみな」と誘ってくださったのが大川興業の大川豊総裁で、芸人なんて誰でもなれるものでもなく、ちょっと“選ばれし者”のような気分でデビューしてしまったのが、そもそもの間違いの始まりだった。

幸か不幸か、私は芸人になりたかったわけでもないのに芸人になってしまったのだ。若い人たちが芸能プロダクションが主宰するお笑い芸人の養成所に高い授業料を支払ってまで芸人になろうとする昨今、なんとも贅沢(ぜいたく)な話だがすべて本当の話である。

で、とにかく芸人になろうと思ってなかった私は、芸人になったら「あんなことしたい」「こんなことしたい」なんて思いはほぼ皆無に等しかったため、デビューに向けてなにをしようかを一から考えることになったが、そんなものは素人の急ごしらえで今思い出しても恥ずかしい代物だが、他になにもない私はこの急ごしらえのネタで初舞台に立った。

この初舞台に向け、大川総裁は「ホーキング青山」という芸名を用意してくれ、実際にこの名前で紹介されたが、当然お客さんはまったく分からず、しかも紹介を受け舞台に出てきたのが車いすに乗った私で、お客さんからすれば車いすに乗った人間が芸人として舞台に上がるというイメージがわかなかったようで、実際に私が舞台に出ると拍手すら起きなかった。

どんなに無名の芸人でも登場時に拍手ぐらいはわく。私にはそれがなかったのだ。まあこれは世間の障がい者への関心もかなり低い時代ではある意味仕方がないことだったと思うし、私自身もネタを考えてるときからなんとなく感じていたことで、私は舞台に上がるや用意していたネタではなく「見世物小屋にようこそ」と言ってみた。これは車いすに乗ってる私の話を笑っていいよ、というメッセージだった。

障がい者と健常者の垣根というのは、当時も今も程度の差こそあれ存在するが、この垣根ゆえに見てくれや障がいゆえのどうしようもない理由を笑ってはいけないというのが本来の意味のはずだった。「障がい者を笑ってはいけない」という教えが障がい者そのものをタブー視し、その言動がたとえジョークやユーモアでも笑ってはいけないというおかしな解釈になっていることは日々の生活の中ですごく実感していたから、それを「笑っていいよ」と伝えたのだ。

お笑いライブに来ているお客さんなんだから当然笑いに来ているわけで、そこに笑っていいのか戸惑っているのだから「笑っていいよ」というメッセージを伝えることが一番の早道だった、ということを普段の日常生活の中でも健常者に対してそうやって人間関係を作ってきた経験から、直感的に分かったのだ。そして、これを応用し、さらに世間の人たちの障がい者へのイメージを逆手に取ったネタを量産していった。

障がい者へのイメージを自分のことに置き換えると、自分の生い立ちが一般の人たちとどれくらいずれているかよく分かった。

小さいころ、友だちに車いすを押してもらいながら鬼ごっこやかくれんぼで遊んだこと、養護学校での生活は授業も運動会や文化祭、遠足や修学旅行、さらには恋愛等も、当時のことを振り返りながらどんどんネタができていった。

同時に、障がい者の中でもタブー視されていた障がい者の性のネタも作っていったが、障がい者の中でタブー視していることがすごくイヤで「もっと健常者のようにオープンに話すことで、いろいろ問題はあるにせよ打開するきっかけが生まれるかもしれない」という思いから、絶対に深刻にせず、できるだけただの下ネタになるように作っていった。

その後、乙武洋匡さんの『五体不満足』が大ベストセラーになったが、この乙武さんのこともネタにしていた。乙武さんへのやっかみも含めた世間の賞賛の反対側にあるものを代弁するのは、たとえそれが分かっていても同じ障がい者である私にしかできないものだったのかもしれない。

そんなふうに障がい者のネタを作りほぼ専売特許のようにやってきたが、これにはもともと限界を感じていた。

というのも、障がい者のネタはほぼ私の専売特許で、これは数多くいる芸人の中で差別化を図り個性を確立する上では大変強力な武器にはなったのだが、世間の障がい者への関心が低いことや、私しかやり手がいないことが逆に“マニアック”になってしまい、他の人が言えないことをいっているため笑いは強くなるが、反面、福祉や障がい者というものに関心の低い人には受けにくく、これは芸人としては幅が広がらないのである。

しかし、こればかりを長い間やってきてしまい、笑いの取り方も分かってきてしまうと変えよう、違うことをやってみようという思いはあっても、なかなかやろうとしてみてもできなく悩んだこともあったが、2006年から『メジャー化計画』と銘打ち“普遍的なしゃべりの確立”を目指し、障がい者のネタ以外のネタを中心に作るようになった。

昨今、NHK等で障がい当事者の人たちが障がい者のネタを披露するようになり、そのことについて意見を求められることも多いのだが、障がい当事者の人たちが「障がい者を笑ってはいけない」というモラルが「障がい当事者の人たち自らが表現するジョークやユーモアも含めてすべて笑ってはいけない」となってしまっている風潮に風穴を開ける意味では良いことだと思うが、しかしそれは、あくまで障がい当事者の人たちが笑いを好み、他の人たちを笑わせようとしたいと思っているという意思を広くアピールすることだけであり、少なくとも「障がい者のバラエティー番組」ではあっても「従来のバラエティー番組」とはまったく異なるものだ、ということを作り手も観る側も間違えないことだと思う。


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『ホーキング青山のお勉強会2013』

日時:3/16(土)、5/11(土)、7/20(土)、9/14(土)、11/23(土)
※時間はすべてPM6:00開場/6:30開演

前売:¥1,000-/当日:¥1,200- 全席自由 2013年2月1日(金)予約受付開始

会場:らくごカフェ(東京メトロ・都営地下鉄神保町駅A6出口徒歩1分)
※会場のらくごカフェは車いすの方でもお気軽にお入りいただけます(エレベーターあり)。また、もしなにかございましたら、お気軽に声をお掛けください。
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-3 神田古書センター5階

チケット予約:らくごカフェ rakugocafe@hotmail.co.jp 電話03-6268-9818(平日12時~18時受付)

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