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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年2月号

ワールドナウ

海外の希少疾患患者会の現状について
―第7回国際希少・難治性疾患創薬会議(ICORD)の報告―

西村由希子

現在、希少疾患の種類は、いわゆるサブタイプ(細部分類)を含めると約7,000種類あると言われている。日本の「難病」の対象領域である希少・難治性疾患は、各疾患の患者が非常に少ないことから、研究や創薬、社会などから取り残される傾向があった。しかし、これらの希少・難治性疾患すべての患者数の総和を考えると人口の数%にもなり、決して無視できない存在であると近年では考えられはじめている。

また、疾患基礎研究の進展から、これら希少・難治性疾患が、患者数の多いいわゆる“コモンディジーズ(一般的な病気)”と病態生理を共有していることや、コモンディジーズそのものが、病因に基づく新たな疾患概念の提唱により、より患者の少ないセグメント化された疾患へと細分化されていくなどの現象も現れ始めており、これまで以上に、世界の共通した医療関連の問題としてとらえる必要性が生じている。このような環境変化の中で、世界各国の状況や研究、そして政策などの情報共有や協働が今まで以上に望まれる状況となっている。

このような問題意識により、2004年から国際希少・難治性疾患創薬会議(International Conference on Rare Diseases and Orphan Drugs(ICORD))が欧米を中心に毎年開催されてきた。ICORDの大きな特徴は、対象疾患を限定しないこと、ならびに希少・難治性疾患に関連するすべての立場の関係者(基礎系研究者・臨床系研究者・医者・治験・開発関係者・患者・患者関係者・法制度・官公庁関係者等)が開催地だけでなく世界各国から参加すること、の2点である。このような総合的視点から、ICORDでは、本領域における総合的かつ国際的な情報共有と議論を同時に実施することが可能である。

2012年に、ICORDは初のアジア開催を日本にて実施した。本報告は、ICORD2012事務局長を務めた筆者から、本会議、特に患者セッションについて紹介し、今後の検討課題を挙げる。

2012年2月3日―6日(3日はプレミーティング)に東京大学において開催されたICORD2012は、過去最大人数となる268人が21か国から参加した。参加者の半数が海外からとなり、国際会議にふさわしい陣容となった。また、参加者の所属内訳をみても、企業(製薬)、大学関係、研究機関、患者会関係、政府関係、病院、財団、NPO、企業(その他)と、「希少・難治性疾患に関連するすべての立場の関係者」を網羅することができた。

メインセッションは、「希少・難治性疾患に関わるすべてのトピックを対象とする」ため、基礎研究に関する発表から規制といった国策に関する発表、創薬支援といった幅広い議題について発表が行われた。また、ワーキンググループでの検討やポスターセッション、規制当局ならびに患者会代表を対象にそれぞれ実施されたプレミーティングやアジアンミーティングなども開催され、幅広くかつ積極的な議論が展開された。

会議終了後には「東日本大震災から学ぶ、自然災害時におけるよりよい患者支援について」と題したタウンミーティングも開催し、特に海外参加者を多く集めて活発な議論が行われた。

なかでも会議2日目に実施された患者会セッションは、世界各国から10人の希少・難治性疾患分野の患者会(主に個別患者会を束ねた協議会レベルの患者組織)代表者が集い、自身の経験や会の歩みを伝えた。特に日本にとっては、自国にいながら海外のさまざまな関係者と議論ができる非常に貴重な機会となった。

John Forman(New Zealand Organization for Rare Disorders, ニュージーランド)事務局長は、患者とその家族を取り巻く環境から生じるさまざまな問題を解決するには、まず患者およびその家族を中心に考慮することが大切であることを事例を挙げて説明し、患者団体と患者を取り巻く環境との良好な関係の構築の重要性を訴えた。

Tim Cote(National Organization for Rare Disorders, 米国)最高医療責任者は、希少疾患薬開発促進のために、患者会が規制当局・研究分野・患者レジストリ問題に対して積極的に働きかけていることを紹介した。また、患者団体と各組織同士との関係作りが最も重要であると主張した。

伊藤たてお(Japan Patients Association, 日本)代表理事は、日本の患者会の活動を患者としてICORDで初めて紹介し、従来型の提言や陳情といった活動だけでなく、希少疾患分野の研究開発を促進するために、医療者、研究者とともに国主導の研究プロジェクトにも積極的に関与していく必要があると述べた。

Yann Le Camm(EURORDIS, フランス)代表は、EURORDISにおけるさまざまな活動により患者の声が前面に押し出された結果、EUの希少疾患対策は最優先検討事項の1つとなり、希少・難治性疾患に関する2つの重要な政策が策定されたことを紹介した。また、今後は国際的な問題としての認知度を高め、公衆衛生の最優先事項にすることを目指していると述べた。

Svetlana Karimova(National Association of Organization of Patients with Rare Diseases Genetics, ロシア)は、ロシアにおける協議会の活動について、さまざまな希少・遺伝性疾患の啓蒙活動を国内外で行なっていることを報告した。

Sharon Terry(Genetic Alliance, 米国)代表は、患者組織の連合体の組織化の先にある問題点を指摘し、その解決策を提言した。また、患者組織として政府や疾病研究情報へのアクセスについてもその重要性を訴えた。

その他、台湾、韓国、ブラジル、ブルガリア、ロシアの患者会からの実例報告があり、患者団結の重要性を訴えた。

前述の患者会セッションでは、各国の患者団体設立の経緯の多くは、患者の家族が援助の必要性を訴えるために設立したものであることも紹介され、その立ち上げからの経験談は参加者にとって有益な情報となった。また、世界規模での疾病情報や支援情報の交換が、さらなる希少難病患者支援の加速につながることを確認した。

一方で、患者、行政、研究者や製薬企業の間で適切な情報交換・整理が行われない限り、患者支援における情報格差および情報取得における格差が生まれる危険性も指摘された。それぞれの立場から、点から線へ、線から網へと展開するネットワークを構築するために、各患者団体が世界規模で連携し、積極的に行政、研究機関、企業、地域社会と良好な関係を築いていくことが重要であり、結果的に患者支援や創薬開発へとつながる、と結ばれた。

ICORD2012のサブテーマは、「C(C cube):Connection+Collaboration=Creation」であった。日本語に訳すと、「つながり、連携することで(何かが)創られる」となるが、言い換えれば「つながらなければ、連携しなければ(何も)創られない」とも訳すことができる。ICORD2012で世界各国の関係者がバランスよく集い、質の高い発表を行い、また多くの直接的な出会いや意見交換、そして協調のための議論が起こった。これは、前述の“Connection”にあたり、これこそが本会議の最大の成果である。今後、“Collaboration”、そして“Creation”の段階に到達するためには、本会議の継続的開催・参加に加え、各人(組織)の連携、そしてそれらを支えるサポート体制が重要である。特に、患者の不公平感をなくすためにも、国レベルでの協調関係の進展を望む。

本会議をきっかけとして、希少・難治性疾患分野関連研究開発がますます活性化するとともに、国内外における関係者間の理解促進および協調が進むことを願ってやまない。

(にしむらゆきこ 東京大学、NPO法人PRIP Tokyo、日本難病・疾病団体協議会)


(本稿は、西村ならびにICORD2012スタッフ(患者会セッション担当であった小野あすかおよび田中敦)が担当したが、一切の文責は西村にあることを申し添える。)