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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

使用体験

アザラシ型ロボット・パロの効果
~介護老人保健施設編(導入初期)~

岩間洋一

導入時の施設背景

アザラシ型ロボット・パロが介護施設に導入され一定の効果を上げていることはこれまでの研修等で承知していたが、導入参考になる事例発表は少なく、介護老人保健施設(以下、老健)での確立した手段が見つからず対応に戸惑っていた。そこで当施設の全体運用前に、導入初期段階として試行的対応した結果を事例紹介したい。

施設概要:岩手県宮古市に位置し、東日本大震災の津波で併設のグループホーム一つを全壊で失う。幸い利用者、職員全員無事に避難し、当老健でグループホーム再開を待ち生活中である。平成12年開設。入所者100人。併設事業に居宅介護支援/通所リハビリ/訪問看護/訪問介護/在宅介護支援センター/グループホームがある。

事例紹介

事例1長期入所一般棟、MT、女性85歳、要介護4、 アルツハイマー型認知症、MMSE8点、認知症老人自立度3a、「居室を間違え、他の高齢者より怒鳴られ落ち込んでいる」

事例2長期入所一般棟、KK、女性77歳、要介護3、老人性認知症、MMSE26点、認知症老人自立度2a、「お世話をすることに飢えている」

事例3長期入所認知症専門棟、SS、女性84歳、要介護4、アルツハイマー型認知症、MMSE15点、認知症老人自立度3a、「イライラし怒る、帰宅願望、徘徊」

事例4長期入所認知症専門棟、IM、女性71歳、要介護2、老人性認知症、MMSE23点、認知症老人自立度2a、「価値があることに飢えている」

パロ活用による期待効果

パロに対する期待効果は以下の3つが挙げられている。

1.心理的効果(癒し)
2.生理的効果(ストレス)
3.社会的効果(コミュニケーション)

事例1の期待効果:1.心理的効果をねらい試行

昼夜問わず居室を間違え、他の高齢者より怒鳴られ落ち込んでいたことで、パロをMTさんの胸に抱かせる対応を位置付け開始する。結果、子どもをあやすように接し、怒鳴られ嫌な気持ちを軽減させながら生活を継続できている。また、ある夜、途中覚醒してきたMTさんにあえてパロの電源をOFFの状態でいつものように胸に抱かせたところ「なぜ目を開けないのか」「たぶん夜だから寝ているのでしょう」とスタッフとのコミュニケーションにより夜間であることを認識し、すぐに再眠することが記録として残っている。

事例2の期待効果:3.社会的効果をねらい試行

在宅生活を送っていた頃のKKさんは、近所のコミュニティーや親戚関係などを取りまとめているような方であった。とても世話好きである反面、認知症重度者の行動は受け入れず強く拒絶していた一人だった。ところが、パロを抱いているMTさんをみかけると自ら近づき「この人も寂しいのだろう。私も犬が好きで面倒みてきた。怒らずいろいろ教えてあげよう」と共に過ごす時間が増え、他の高齢者にも認知症重度者の理解を求めるように接し方が変化してきた。

事例3の期待効果:1.心理的効果2.生理的効果3.社会的効果をねらい試行

東日本大震災直後、大規模避難所で人の話を聞き入れることができず、瓦礫の町を歩き回り、周囲からわがままで危険な高齢者として認識され、当施設の長期入所に至った。帰宅願望、腕力が強く、対応するスタッフは殴られることが毎日見られた。「早く家に帰せ。一人で生活するから大丈夫だ」を繰り返し他は何も話してくれず、いつも一人で廊下を歩いて過ごしていた。

ある日、一人でいたSSさんにパロを紹介すると、自分の胸に強く押し当て目をつむり数分過ごすことがあった。これを機に、幼少時に猫を飼っていたことや弟たちの面倒をみてきたこと、パロの白い毛が気持ち良いと話してくれるようになった。パロ活用前は終始スタッフの後を追いかけ、外に出ようと暴れる姿が毎日見られていたが、活用後は月数回に減少してきている。

事例4の期待効果:1.心理的効果をねらい試行

施設内は概ね自立できており、活動の機会を求め、毎日の軽作業と週2回のビーズギャラリーを実施しているが、本人の満足には及んでいなかった。変化が少ない施設生活で決まった場所で待機しているパロが声を出し、体を動かし、瞬きして反応する姿はIMさんに大きな安らぎと安心感を与えてくれるようになった。一人で作業する際、パロが追加されることで満足感が高まり、無言で作業していた時間もパロに話しかけながら活動を楽しんでいる。

ふりかえり~思うこと~

私たちは施設全体の運用前に、前記の事例をあげ、老健の特徴に見合ったパロ活用の手段を発見しようと試行開始した。ところが、ねらいとは別の利用者の変化をうかがい知ることができた。それは、物言わぬ認知症高齢者の心理で絶対大切な「安心感」をパロが与えることができ、さらに事例以外の認知症高齢者にも「安心感」を与え、自然なかたちで高齢者同士の輪を結びつなげてくれたことである。

とかく現状のみに捉われることが多い私たちに、老健内の認知症高齢者が本当に求めるものは何かを考えさせてくれる機会が得られた。今後、介護用ロボットの分野が発展していく中で『パロ』こそが認知症高齢者と老健内にも広く周知され活躍し、誰もが経験したことのない超高齢社会に活躍することを期待せずにはいられない。

(いわまよういち 介護老人保健施設ほほえみの里主任介護支援専門員)