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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年4月号

知り隊おしえ隊

“足を使わないサッカー”
電動車椅子サッカーの魅力

高橋弘

1 競技の概要

サッカーは足を使ってプレーするが、この電動車椅子サッカー(パワーチェアーフットボール・世界的呼称)は、“足”を使わずに電動車椅子でプレーするサッカーである。

一つのチームは、ゴールキーパー(GK)一人を含む4人の電動車椅子に乗った選手で構成され、体育館のバスケットボールコートを使用して前後半20分・合計40分で得点を競い合う。ゴールエリアとペナルティーエリアは同じラインとなっている。

電動車椅子の前部には金属等の硬質な材質のフットガードを取り付け、通常のサッカーボールの約1.5倍の大きさである直径32.5センチメートルのボールを蹴り、パスやドリブル、もちろんシュートもする。

競技に使用する電動車椅子のスピードは、国際ルールでは時速10km以下であるが、日本国内では時速6km以下のローカルルールを適用している。速度の測定は、試合開始前に選手全員が審判員によるスピードチェックを受ける。

審判員は、主審1人、両サイドに副審を各1人配置する。基本的なルールは通常のサッカーとあまり変わりはないが、フットサルと同様に自由に選手交代ができる。

また、「2on1(ツーオンワン)」という独自のルールがあり、ボールの半径3メートル以内には、各チームの選手1人しかプレーに関与することができない。

2 競技者の特徴

車椅子バスケットボールや車椅子マラソンなど手動の車椅子でできるスポーツは数多くあるが、手で車椅子を漕ぐことができず、ボールやラケットなど保持できない比較的に重度の障害をもつ方にとって、スポーツを楽しむ機会はほとんどなかった。

しかし、このサッカーは、「指・手・足・顎」等の数少なく残された機能を使ってジョイスティックを巧みに操作し、プレーすることができる画期的なスポーツである。脳性麻痺、筋ジストロフィー、ALSや脊髄損傷等の自立歩行が難しく、手にも障害がある選手が多く、なかには、人工呼吸器をつけた選手も活躍する。競技規則では5歳以上から競技可能となっており、性別は問わず男女混合で試合を行う。つまり、電動車椅子さえ操作できれば、障害をもつ誰もが楽しめるユニバーサルなスポーツなのである。

3 競技用具

競技には市販されている電動車椅子を使用する。日本製ではスズキや今仙技術研究所等があり、海外製ではインバーケアやクイッキー等のメーカーが主流となっている。金額は40万円程度から性能の違いにより100万円近く、もしくはそれ以上するものもある。特に海外製は高性能であり、競技志向の高い選手のほとんどは海外製を使用している。

フットガードは、金属等硬質な材質で作られたものを電動車椅子サッカー前部(フットレスト前)に取り付ける。ほとんどの場合、フットガードは付属品として販売されておらず、また市販もされていないため、電動車椅子販売店、カスタムショップ、鉄工所等でそれぞれの電動車椅子に合わせてオーダーメイドとなる。費用は5万円程度必要となる。競技を始めるにあたって、費用と製作に高い壁が存在する。

ボールは直径32.5センチメートルのボールを使用する。日本国内ではモルテンから唯一販売されており、価格は1万数千円程度となっている(型番VG777)。

4 競技の魅力

この競技の魅力は、なんといっても“足”を使わずに“電動車椅子”でプレーするサッカーであることである。電動車椅子の動きの一般的なイメージは、ゆっくりと動いていると想像する方が多いだろう。しかし、この電動車椅子サッカーの選手は、電動車椅子を自分の手足のように自由自在に操り、巧みなドリブルやトラップ、ショートパスやスルーパス、素早いセンターリングや豪快なスピンキック(180度から270度近く旋回させて蹴る旋回シュート・通常のサッカーに例えると難度はオーバーヘッドキック並み)等、とてもスピーディーで激しいスポーツである。

1度でも電動車椅子に乗ったことがある方ならお分かりになるだろうが、ジョイスティック操作は非常に難しい。初めての方はまっすぐに進むことはできるが、旋回やバックなどは困難な方がほとんどである。この電動車椅子サッカーは電動車椅子を操作するだけでなく、サッカーであるのでボールも動かさなければならない。いとも簡単に選手が電動車椅子やボールを扱えるのは、常日頃からの練習の賜(たまもの)である。

文章ではこの魅力をお伝えきれないので、実際に競技をご覧いただくか、後に挙げるウェブサイトをご覧いただきたい。

5 国内の沿革

日本国内の統括団体としては、日本電動車椅子サッカー協会(JPFA)が1995年に設立された。日本での活動としては、1982年に大阪市身体障害者スポーツセンターに勤務していた山下氏(現終身名誉顧問)によって、USA等で行われていた「パワーサッカー」をヒントに考案されたのが始まりとなった。

2012年度現在37チーム(会員389人)が登録。各地域ブロック予選を勝ち抜いた16チームよる「日本電動車椅子サッカー選手権大会」のほか、各地域ブロックから優秀な選手を選出した代表チームが日本一をかけて戦う「パワーチェアーフットボールブロック選抜大会」を主催する。その他に、各地域ブロックでも独自の地域大会が毎年定期的に行われている。

6 海外の沿革

国際統括団体としては、国際電動車椅子サッカー連盟(FIPFA)が2006年に設立された。事務局をフランス・パリに置き、2011年度には、日本、オーストラリア、シンガポール、USA、カナダ、ブラジル、フランス、イングランド、デンマーク、ベルギー、ポルトガル、スイス、アイルランド、スコットランド、ポーランドの15か国が加盟している。

世界的な大会としては、2007年世界で初めてのワールドカップ「FIPFA World Cup Japan October 2007」が東京で開催され、この競技に新たな時代が訪れた。日本、USA、フランス、イングランド、ポルトガル、ベルギー、デンマークの7か国が出場し、日本は4位となった。

2011年には第2回目となる「FIPFA WORLD CUP PARIS 2011」がフランス・パリで開催された。日本、USA、カナダ、フランス、イングランド、ポルトガル、ベルギー、スイス、アイルランド、オーストラリアの10か国が出場し、日本は5位となった。

7 第1回アジア太平洋オセアニア選手権(APOカップ)・結果報告

2013年1月19日から27日にオーストラリア・シドニーにて、日本から2チーム、オーストラリアから2チーム出場し、アジア太平洋オセアニアゾーンでの初の国際大会が開催された。本来はシンガポールやニュージーランドが出場予定だったが、諸事情により出場できなくなった。日本からは実力に勝るベストメンバーの日本代表「TEAM・JAPAN」と次世代を担う若手中心の日本代表「TEAM・NIPPON」が出場し、TEAM・JAPANは優勝、TEAM・NIPPONは3位となった。個人賞としては、TEAM・NIPPONの三上勇輝選手がMVPを受賞した。第2回大会は2014年に日本で開催予定である。

8 今後の目標

FIPFAを含め世界のパワーチェアーフットボール関係者の願いは、世界中でこのサッカーがプレーされることである。当然、日本国内でももっと多くの方にこのサッカーを知ってもらい、電動車椅子サッカーをしたいと思った時にいつでも誰でもできるように、各都道府県に電動車椅子サッカー協会を設置できるように努力したい。

また、障害者スポーツとして世界的にもっとも有名なパラリンピックでの正式種目になることを目指し、2020年大会の正式種目登録申請や世界でさまざまな普及活動を続けている。正式種目になるためには、世界の中で3ゾーン以上(アジア、ヨーロッパ等)とともに、18か国以上で競技されていることが最低条件になる。FIPFAでもいろいろな国へアプローチしているが、日本は所属するアジア太平洋オセアニアゾーンの国々へ普及させる責任を担っている。

(たかはしひろし 日本電動車椅子サッカー協会会長)


●ウェブサイトのご紹介

・日本電動車椅子サッカー協会:http://www.web-jpfa.jp/

・YouTube(電動車椅子サッカー応援チャンネル):http://www.youtube.com/user/JPFA2011?feature=mhee

・Facebook(電動車椅子サッカー応援ページ):http://www.facebook.com/JPFA2011