「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号
ライフステージごとの課題 幼児期
重症心身障害児の在宅生活における課題
永瀬哲也
6歳になる娘は13トリソミーであり、また生後2か月での在宅移行準備中の自宅での誤嚥から低酸素脳症となって常時人工換気が必要となり、その状態での在宅生活は5年になる。
前述の例を挙げるまでもなく、まず重要なのは子どもの安全の確保である。特に、病院から自宅への移行プロセスにおいては、「起こり得る危機」を列記し、それをもとに病院の医療者、親・保護者、在宅医療・看護を行う医療者間で確認をしておき、何か起きた時に、どのような順番で何をすべきかを「書いておく」ことが大切である。安全とともに日々の安心にもつながる。
親が安心できる状態となるためには、医療者からのアドバイスとともに、すでに同じような経験をした親の情報も大変に有用である。我々も患者・家族の会によってもたらされる情報がずいぶんと役に立った。また、ピア・サポート的な要素もあり、医療者からも積極的にそのような会の存在を家族に知らせてほしい。
わが家の場合は生まれてからずっとお世話になっている病院と、現在の主治医である往診クリニックの医師との連携が極めて良いものであると感謝しているが、このような連携がうまく成り立たないケースも散見される。もう在宅へ移行できる状態であったのに、往診クリニックが長い間見つからず、お子さんを自宅に迎えることができないうちに見送るというケースもあった。また逆に、病院側の「早く出したい」という気持ちが明らかに感じられるケースなどにおいては、往診医が見つかったのはいいが、いざという時にもとの病院がしっかり見てくれるのか心配になったという話もよく聞く。限られたリソースという所与の条件はあるものの、その中で、子どもの安全、家族の安心を第一に考えた支援システムの構築と医療関係者の行動が求められる。
在宅生活は時にとても長い間、家族に負担が及ぶものである。我々はまだ5年だが、10年、15年と子どもと共に生活されてきた先輩諸氏には本当に頭が下がる。
以下、私が見聞きした13トリソミーの子ども(多くの場合は重症心身障害児であり、また、そのうちの一部は人工呼吸器をつけている)を持つ親が感じる幼児期における悩みや要望を挙げてみたい。
- 安心して預けられる療育センターや病院のショートステイ先がもっと近くにあればいい(特に、呼吸器の子どもも大丈夫となるとベッド数はさらに限られる)。しかし、あったとしても数か月も前からの予約であり、せっかくあるのに使いにくい。
- 短時間のデイケアはその前後の準備をするだけで疲れてしまい、結局、自宅にいたほうが楽と思ってしまう。長時間預けられるよう選択肢がほしい。
- 頻回な医療ケアが必要な子どもが、さまざまな施設へ行くのに手段や補助が少なく、自分で運転し、車を停めて、また医療ケアをしてという危険な状況になっている姿を想像していただきたい。
- 小児にもケアマネさんがほしい。
- 子どもが楽しく遊べて、刺激を受けられる通園施設がもっと通いやすい範囲にあるといい。
- いざという時には頼れる病院と連携した往診、訪問リハビリなどの充実を望む。
- 「重症児在宅フェスタ」といった企画で、行政、医療、看護、通園・通学施設、医療機器メーカー、親子が集まって、相談・意見交換の場所があると楽しいし、ためになるのでは…。
- 何年も看護していると、その方法が当たり前になってしまう。自分たちもより良い看護をしたいので、日々新しくなる在宅看護方法(吸引・消毒など)を教えてほしい。
- 大規模災害時などの備えが心配。どこまで行政の支援があり、どの部分を自助していかなければならないかを理解しておきたい。
ここに挙がった要望は、決してすべてを網羅してはいないが、病名に関係なく、重度の心身障害児およびその家族に共通のものであると思う。そしてそこにあるのは、子どもが安全に快適に、親や家族も楽しく穏やかに生活をしたいという、人としての至極自然な思いに凝縮されている。
たとえば施設への交通手段確保の問題は、健常な方から見れば「そんなことが問題なの」と思われるかもしれない。現代の社会活動においては「スムーズな移動」は至極基本的なことであるが、重度の心身障害児およびその家族には、それがとても困難なこともある。そのために、結果的には「特別な配慮を求めてしまう」ことに見えるのだが、本質は「基本的な社会生活をすることを求めている」だけである点をぜひご理解いただきたい。
4月に広島で開催された日本小児科学会学術集会においても「在宅生活の支援」に関し、熱心な議論がなされていた。その支援に日頃から携わっている方々にはここで挙げた課題もご理解いただいていると感じる一方で、「治す医療」だけでなく、「支える医療」の理解など、医学生への教育なども含めて、まだ足りない部分も多いと感じた。我々のような親も実際の生活を説明する等、何らかの形でご協力できることがあるのではないだろうか。
過去からの積み重ねや努力で、さまざまな施策が行われ、多くの施設が動き始め、心ある方々に支えられながらの重症心身障害児の在宅医療は、今、もうちょっとした工夫や決断によって、子どもとその親の双方にとって快適な「基本的生活」が確保されていくと期待している。
(ながせてつや 人工呼吸器をつけた子の親の会会員)