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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

ライフステージごとの課題 成人期

在宅生活での課題

齊藤祐二

「みなさん、ご卒業おめでとうございます。お父様お母様には子育ての卒業式です。明日から親と子のお互いの人生を尊重した大人どうしのお付き合いの始まりです。 『夢』を持ってください。夢とはやりたいことや、なりたい明日の自分の姿です。夢を叶えるには『自立』しなければなりません。自立とは自分だけの力で生きることではありません。力を貸してほしいことを伝えて協力してもらい、そのことに感謝できることです。いろいろな人と仲良くできることが自立の第一歩です」

この春の特別支援学校高等部の卒業式で来賓代表として祝辞を述べ、みなさんにエールを送りながら、受け入れる立場としての覚悟を新たにしました。

卒業後に地域で生活する重症心身障害(以下、重心と表す)者が最初に直面する諸問題は、成人移行期の課題そのものです。この時期、医療・福祉・行政機関・活動場面の変化とともに、「思春期から成人に」「親は高齢化に」と生活のすべてが変化します。

最近行われた、藤沢市自立支援協議会(訪問調査)・神奈川県重症心身障害児(者)を守る会(アンケート)・神奈川県中央児童相談所(電話アンケート)の実態調査によると、在宅生活の主介護者の92~96%は母親で、高齢化と長い介護時間という厳しい状況を報告しています。その中で「本人を一人にしておけない」「本人から目を離すことができない」「相談したくてもできずに抱え込むしかない」という実態も浮かび上がってきました。

これらの調査報告を踏まえて、移行期から成人期の在宅生活の課題を整理してみたいと思います。

1 根本的な課題

重心児者人口は約0.03%と言われ、このうち施設入所は約1.2万人で、在宅生活を送る重心児者は約2.7万人と推計されています。このため、地域では重心の人の存在はほとんど知られていません。三障害合計で約744万人(平成17年統計)や65歳以上の人口3000万人と比べると、事業として需要が十分に見込める規模とは言えません。しかも重心は基本的に発達段階の障害で、知的障害・肢体不自由・てんかん・筋緊張・呼吸障害・消化管障害・コミュニケーションなど複数の問題を有しています。生活を支えるために、医療・福祉・リハビリテーション・心理・教育その他の分野に、複合的かつ高度な専門性を求められるために在宅でのさまざまなサービス提供を困難にしています。

2 相談窓口の課題

平成24年4月に施行された障害者自立支援法の一部改正に伴い、児童福祉法も改正され児童福祉施設等の再編が行われました。改正前は重心の相談は児童相談所で成人も対応しましたが、改正後は児童の入所施設を残して、18歳以上と児童の通所サービスは市町村に移管されました。

行政の窓口としては、他の障害者と同じになり一般化したとも言えます。しかし、重心の場合は、専門性と広域性が必要なために都道府県が担ってきた経過があります。現在、福祉サービスが措置から契約になったことから、市町村のケースワークが十分に機能していない傾向が見られ、適切な対応が可能であるか危惧されます。また、相談支援事業所のスキルや体制も重心に対応するには不十分であり、結果として情報不足によるさまざまな弊害が生じていると言えます。

3 社会資源不足による選択肢の不足

福祉サービスは三障害が一元化されたとはいえ、過去に障害別に発展したため、単一のニーズに対応できても、複合的でさらに医療などの多面的なニーズに対応でき、利用しやすい在宅サービスは開発されてきませんでした。

在宅福祉のサービスは利用できますが、どれも重心者が使いやすいものにするには、本人・家族や事業者等もかなりの努力と工夫と負担が必要となります。

医療では、重心の特性と加齢による重度化・二次障害・医療依存度増加に対応できる往診・訪問看護などの地域の医療と、入院できる病院やハビリテーション・リハビリテーションの質と量の確保など多くの課題があります。

成年後見制度は福祉サービスの契約で必要となり、親が親族後見として登記されている方が多く見られます。しかし、いずれ第三者後見人に切り替える必要があります。そうなると、身上監護に関する配慮が困難になることに加えて毎月の費用が発生し、権利を守るために経済的な自立を阻害する要因となるという問題があります。多額の財産保全を目的としていない場合に、現在の成年後見制度は実態になじみにくいと言えます。

4 関係機関の連携不足

重心児者は、少数・専門的対応・複合的ニーズなどの要因で社会的孤立に陥りやすい状況があります。しかも多くの機関の連携が必要となるので、「つなぎ」の役割として、相談支援事業所を中心とした個別のネットワークを作ることが急務であり、課題解決への第一歩となることが期待されます。

5 心の壁

重心者が年齢に応じた人生の選択をするという本来の「自立」について、彼らに関わる多くの人が重心の多彩なニーズに目を奪われて、「普通に生きることはできない人」という思い込みを持ってはいないでしょうか。 彼らが自立するために、力を借りたい多くの人たちに理解を求め、協力を得るための代弁者となり彼らの声を社会に届けることが、身近にいる人間に課せられた課題であり使命ではないでしょうか。

(さいとうゆうじ 藤沢市・湘南マロニエ所長)