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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

1000字提言

地域移行の副作用

竹村利道

集団生活や家族との同居が基本だった障害のある人々が、地域での自由な生活を選択できる時代になりつつある。当法人でも一般就労や就労継続A型で一定の収入を得られるようになった方々が、長年思い描いていた単身アパート生活を実現し始めている。障害のある人も地域で暮らすという「地域移行」の理念が実現されてきたことは大変喜ばしい。今後どの地域でもあたりまえとなることが必要だと考える一方、想定通り新たな課題に直面している。

「地域移行によりかえって地域で孤立するのではないか?」この想定は残念ながら想定外とはならなかった。孤立に留(とど)まらず、トラブルに巻き込まれたりトラブルの原因になったりということも発生している。以下はほんの一例である。

○働いている時間以外の夜間、休日は誰とも会話がなく、孤独感を覚える。
○ごみ収集のルールが分からず、マナーを守れない迷惑住民に。
○見知らぬ男性に声をかけられたことをきっかけに夜遊びを重ねる。生活リズムを崩し、就業が困難となる。
○最近、転居してきたおかしな感じの人が拾い煙草をして公園で吸っている。怖くて子どもを連れていくことができないとの通報。
○煙草の不始末で寝具を焦がし、近隣の事業所ゴミ捨て場に放置。放火を疑った事業主が警察に相談。

こうした状況を早めに改善しなければ孤立化は深まり、地域生活を継続することが困難となる。また、地域で存在が把握されていない状態は、災害時等において命に関わる事態となる。さらに、トラブル要因となる事案が重なると「こんな者が地域に暮らすと迷惑だ。施設でまとまって世話を受けながら暮らすべきだ」という住民感情を生むことにもつながりかねない。

「地域移行」という理念はとても大切なことである一方、こうした支援も怠らず適切な対応を図らなければ、一瞬にして失うかもしれない非常に危ういものであることを日中の支援を通じて実感している。

コミュニティとは co(共に)munis(奉仕する)という語源を持つ。単に住民の集まりではなく、ともに知り合い奉仕し合うコミュニティづくりを、障害のある人の存在を知り、ともに支援を考えあうということを通じて実現することを目指さなければならない。

地域移行の“副作用”ともいうべきこの新たな課題に、障害のある人に関わるすべての地域のさまざまな人々が実践を重ね、効果的な取り組みを共有し合うことが何より必要だと考えている。

(たけむらとしみち 特定非営利活動法人ワークスみらい高知代表)