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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

知り隊おしえ隊

視覚障害者と健常者が共に楽しむ山の会「六つ星山の会」

葛貫重治

いつ頃から、だれが始めたの?

私たちの「六つ星山の会」は、1982年に創立され、昨年(2012年)に30周年を迎えました。「山に登りたい」「自然に親しみたい」という視覚障害者の願いが、日本点字図書館に寄せられたのを契機に、日本点字図書館の関係者の努力のなかで誕生し、視覚障害者と健常者(視覚に障害のない人々のことを晴眼者ということもある)が、協力しあって登山や街歩きを楽しんでいます。いまでは同様な会が全国に十数団体ありますが、その中でも、「六つ星山の会」はこれらの会に先駆けて発足しています。

読者の皆さんもご存じのように、わが国では1960年代の初めから大きな登山ブームが訪れました。私も同じ頃に高校時代を過ごし、山への憧れを強くしていきました。私が学んでいた、東京教育大学(現筑波大学)付属盲学校には、すでに1950年代後半には山好きの先生の援助を受けて、ワンダーフォーゲル部が活動していて、奥多摩や丹沢山塊をはじめ八ヶ岳や富士山にも登っていましたから、視覚障害者の登山という点では、「六つ星山の会」が、最も先駆的ということでもないでしょうが、いま旺盛に活動しているという点では、「六つ星山の会」は、全国屈指の団体ということができるでしょう。

どんなふうにして山に登っているの?

読者の皆さんは、視覚障害者がどうやって山に登るのか?ということが一番の関心事でしょうから、この点について、少しご紹介しましょう。

視覚障害者といっても、「全く目が見えない」全盲と言われる人もいれば、視力が0.2または0.3程度ある弱視までさまざまです。また、山歩きには視力とともに視野や両眼視機能なども大きく影響します。網膜色素変性症などの眼疾患では、中心視力は十分にあるが視野が極端に狭くなるため、歩くのには大変不自由な状況になります。光線の強さやその陰影も重要な要素で、樹林帯のなかでは、弱視は大変苦労することがあります。

創立当初は、健常者(私たちはサポーターと呼んでいます)の背負うザックに視覚障害者が片手でつかまって、一対一で歩いていましたが、その後、経験と検討を重ねるなかで、いまではサポーターのザックに縦にロープ(サポート紐とも言います)を付けて、このロープを視覚障害者が片手で握り、もう一方の手で登山用ストックを使って山道の状況を確認して歩きます。

30年余りの登山活動の間には、転んだり滑ったりした、小さな事故もありましたから、いまでは、視覚障害者の後ろにももう一人サポーターがついて、危険箇所などでは声をかけて安全度を高める工夫をしています。しかし基本的には、前を歩くサポーターが、段差や木の根、岩や溝、登山道両側の状況(切れ落ちていたり、壁になっている)などの様子を説明し、視覚障害者はこの情報を聞きながら歩くようにします。最初は視覚障害者もサポーターもかなり緊張していますが、お互いに経験を積むにつれて、細かい説明がなくても、サポーターの足の運びやザックの動きを感じて、ついていけるようになります。

こうなると、双方とも緊張がとれて、サポーターは周囲の景色の説明ができるようになりますし、天気や季節のこと、木や花や鳥のことなど山歩き本来の会話が楽しめるようになります。また時には立ち止まって、木の葉や草花を触って確認できる余裕も生まれて、真に健常者と視覚障害者が共に登山を楽しめる状況が生まれてきます。ここまでになるには、体力や経験など、それぞれの条件によって異なりますが、なんといっても山行回数を重ねることが最も大切なことでしょう。

どんな山に登っているの?

私たちの山行先は、創立当初の丹沢、奥多摩、奥武蔵方面の山々から始まり、いまでは八ヶ岳から北アルプスにまで広がっています。この30年の間には富士山にも数回挑戦し、多くの会員がその頂上に立つ感動を経験することができました。また、時には東北の山々から北海道まで足を伸ばして、大雪山や十勝岳にも登頂する機会を得ました。これらの成果を勝ち取ることができたのも、たくさんの健常者会員の皆さん方のサポートがあってこそのものと深く感謝しております。

「六つ星山の会」の山行は、年間を通して決まっている毎月1、2回の定例会山行と、会員が不定期(実際には毎月実施されていますが)に企画・実施している臨時山行があります。また、会員相互に個人の責任で行なっている個人山行も少なくありません。年間を通してみると数十回もの山行が実施されています。

幸いなことに、死亡事故につながるような遭難を起こすことなく続けてきた「六つ星山の会」の山行ですから、これからも安全で楽しい山行の実施を、会運営の中心的な課題にしていきたいと願っています。

「六つ星山の会」の会員は、いま、視覚障害者が80人前後、健常者が160人前後という大きな会に発展してきました。当然のことですが、会員の体力も違えば、行きたい山も異なります。そこで、1日の歩行時間と山の標高や高低差を基準に、会独自の基準によってG(グレード)1からG4までを区分しています。定例山行や臨時山行の参加に当たっては、このグレードを基準にして自らの責任で山行への参加を申し込むようにしています。しかし、時には山行リーダー側から、体力や技術を考慮して参加をお断りすることもあります。会員のなかには不満もあるかもしれませんが、登山がかなりの危険を伴う活動である以上やむを得ないことと考えています。

多くの会員が体力や技術を向上させて、より高いより厳しい峰々へ挑戦されることを期待する一方、里山散策や街歩きのなかにも自然の営みのすばらしさを感じることができると思います。高いだけの山、厳しいだけの山行が価値あるわけではありません。読者の皆さんにはこのことを十分理解していただきたいと思います。ですから、私たちの企画には、G1と言われる1日の歩程が数時間程度の里山散策や街歩きもたくさんあります。

会員になるには? 会の運営は?

「六つ星山の会」の会員になるには、登山経験や障害の有無や程度は問いません。「山に登りたい」「自然に親しみたい」、と思っている方ならどなたでも大歓迎です。会員の中には、ヒマラヤやアルプスの登山経験をもつ方から、街歩き大好きの方まで多種多様です。会が企画するさまざまな山行から自分に合った企画を選んで参加できます。

サポート経験のない健常者には、サポート講習会や普段の山行でベテランサポーターが指導を行いますので、入会に当たっては視覚障害者のサポート経験は不要です。また、登山の経験がなかったり、体力があまりない視覚障害者のためには、初心者講習会も開催し、登山の初歩から指導していますから、視覚障害者の初心者も安心してご参加ください。

しかし、登山は自然相手のスポーツですから、身を守るために、登山靴・ザック・雨具・登山用ストックなど、装備を整えるためにある程度の費用がかかることをご理解ください。

会員になるためには、年会費(3,600円)と保険料(1,850円、65歳以上は1,000円)の合計で年間5,450円(65歳以上は4,600円)と、各山行への参加費・交通費などが必要です。

会の運営を円滑に行うために、毎月第2火曜日に、東京の高田馬場にある日本点字図書館で、次回の山行案内や前回の山行の感想など、山の話題いっぱいの楽しい例会を開いています。その他に、月刊の「エコーライン」を点字版と活字版で送付およびメーリングリストで配信し、例会の内容や会員の様子をお伝えしています。また、半年間の山行報告や山の話題満載の冊子「六つ星だより」を1年に2回発行しています。

ホームページも開設し、会の活動状況や山行予定などもお知らせしています。また、ホームページ上から山行や例会への体験参加も受け付けていますので、たくさんの皆さんからのご連絡、ご入会をお待ちしています。

(つづらぬきしげじ 六つ星山の会会長)


○連絡先:〒169-0075 東京都新宿区高田馬場1-23-4 社会福祉法人 日本点字図書館気付 六つ星山の会
○ホームページURL:http://www.mutsuboshi.net/index.html