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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部 第三次報告会」の開催

小出真一郎

2011年3月11日に発生した東日本大震災で大きな被害を受けた被災障害者を支援するため、3月18日に「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部」が設置され、支援活動や復興支援への取り組みを始めました。

2年目を迎える2013年3月5日(火)12時から、参議院議員会館(東京都千代田区)において、「東日本大震災2年目の検証とインクルーシブな復興」として日本財団、日本障害フォーラム(JDF)主催による、「JDF東日本大震災被災障害者総合支援本部第三次報告会」が開催されました。

当日は、原田保夫内閣府政策統括官(防災担当)、梅田一郎ファイザー株式会社代表取締役社長、松岡由季国連国際防災戦略事務局員、また被災地である岩手県陸前高田市の戸羽太市長には現地からの中継で、ごあいさつをいただきました。会場には、衆参院議員列席のもと320人の来場者があり、会場に入りきれないほどでした。

被災障害者の支援活動や復興への取り組みは、現在も続けられています。「犠牲者のうち障害者の割合が住民全体の2倍以上である」とのデータは、今後の対策を講じるためにも、どうしてこのような事態になったのか、その検証が必要であることを私たちに突き付けています。このことを踏まえ、活動報告、特別報告、パネルディスカッションが行われました。

「検証をする」ことが、今回の報告会の大きな特色です。

ここに焦点を当て、私が関わった「ドキュメンタリー映画」製作を中心にご紹介させていただきます。

ドキュメンタリー映画製作・上映とその意味

当日のパネルディスカッションで、コーディネーターを務められた藤井克徳氏(JDF幹事会議長)から、障害者の死亡率(行方不明者含む)が住民全体の2倍に及んだことの検証が必要との意見があり、その検証の一つとして、ドキュメンタリー映画「生命のことづけ~死亡率2倍障害のある人たちの3・11~」が撮影され、この完成記念の上映が行われました。

まず、被災状況の事実を知ることです。

聴覚障害者の菅野悟さん(宮城県女川町)は「聞こえないため、防災無線や津波の音が入らない」ことから、多くの犠牲者が出てしまったことを語っています。難病(筋ジストロフィー)の佐藤真亮さん(福島県いわき市)が津波が迫りくるその状況を目前にして「もうあきらめましょう」と呟いたという事実。車いすでの避難所暮らしの実態、障害が理解されていないことから起きると思われる周囲からの冷たい視線。障害者の生死を分けたのは何だったのか、人としての尊厳とは何なのか、生きるとは…。当事者や家族をはじめとする関係者の声を聞き事実を知る、このことが今後の防災対策に活かされなければなりません。

そして、今回の映画は、障害によるバリアフリーを試みたことも特色です。

視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者を含むすべての人に映画の内容を分かってもらえるよう、「手話」「字幕」「音声解説」を駆使し、情報保障の画面部分を大きくするなど、常に見える、聴こえる、分かるという形で、すべての人に情報保障をした映画を製作しました。音声ガイダンス切り替え機能の有無、音声とナレーションがかぶって聞きにくい(難聴者)など、それぞれの障害の立場からの意見を受けての製作・編集の難しさは相当のものでしたが、これもまた、障害者を含む地域住民すべてに対応する防災対策につながるメッセージでもあります。何とか第三次報告会に上映することができ、成功裏に終えることができました。

この映画の予告編は、昨年10月に開催されたESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)ハイレベル政府間会合韓国仁川(インチョン)会議でも上映されました。展示ブースでの写真も反応が大きく、視覚障害者からDVD化の予定の確認もありました。

映画監督は、聴覚障害者の運動を背景にした映画「ゆずり葉」の監督でもある早瀨憲太郎氏にお願いしました。映画のタイトルをどうするか、そして30分間に編集することにずいぶんご苦労があったようです。

終了後のアンケートから

報告会終了後にまとめられたアンケートには、「幅広い話が聞けてよかった、実態が分かった、分析したことをどう生かすか、行政の対応、広く国民に周知していく必要がある」など貴重な意見がありました。一方、支援や対応の遅れへの驚き、避難所での暮らしへの不安の訴えもありました。子どもたちの心のケア、当事者の意見を受け止めることの必要性も目に留まりました。

映画に関する項目では、「知らなかったことが分かった、避難所、仮設住宅のバリアフリーを考えなければならない、視覚・聴覚・肢体・自閉などさまざまな障害者の困ったことが分かった、手話、字幕、副音声など情報ツールが駆使してありよかった」などの意見があり、情報のバリアフリーの一例を提起することができたのではないかと感じました。

また、30分間という上映時間に関しても、「内容把握には適切な時間ではないか。コンパクトにまとめられていてよい。全く知りえないことが分かったので、もう少し長くてもよかった」との意見がありました。

DVDの販売、配布を求める意見も多く、なかには、販売されれば仲間や自治会、民生委員や行政の担当者にも観てもらい、災害について一緒に考える資料にしたいとの意見が記されてあり感激しました。

まとめとして

犠牲者の声なき声に耳を傾け、現実を見つめ、この支援活動を継続していかなければなりません。多くの当事者からの声を集め、そこに学び検証をしていくことで、今後の対策が考えられることになると思います。

今回の報告会は、情報を含む障害者のバリアフリーの必要性を実感させられた映画上映(製作)を含め、大きな一歩でした。

アンケートにもあったように、私自身も、全国・地域の仲間、行政、学校、民生委員などの関係機関と話し合い、周知を図っていかなければならないと、強く感じました。地域に暮らす住民として関わりを持ち、さらに、世界に向けて、防災の運動を広めていきたいと思っています。

(こいでしんいちろう 全日本ろうあ連盟理事、JDF企画委員会委員長)


※JDF:JDFは、第2次「アジア太平洋障害者の十年」(2003―2012)および日本の障害者施策を推進するとともに、障害をもつ人の権利を推進することを目的に、2004年10月に設立された、障害者団体を中心としたネットワーク組織である。2013年3月現在、構成団体は10団体、オブザーバーは3団体である。