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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

CMに字幕のついていることが、あたりまえになる日をめざして。

花王株式会社作成センター 字幕CM研究チーム

「字幕CM」プロジェクトが発足

テレビの「字幕放送」をご覧になったことはありますか。新聞の番組表などに「字」と記されている番組では、テレビリモコンの「字幕」ボタンを押すと、セリフやナレーションなどの音声情報が文字情報として画面に「字幕」で表示されます。

2011年の地上デジタル放送への移行に伴って、テレビ番組の字幕放送は普及してきました。ところが、民間放送で約2割を占めているCM(コマーシャル)の字幕については、まだ試験段階です。CMは製品を広告・宣伝する強力なメディアでありながら、字幕を必要とする方々にはCMの情報がきちんと伝わっていない。このことは、花王がユニバーサルデザイン視点で事業活動を取り組んでいくうえでも、見逃すことのできない課題でした。

2011年2月、広告の制作を担当している作成センター内に字幕CM研究プロジェクトが誕生しました。聴覚に障がいのある方、加齢に伴い耳が聞こえにくくなった方へ情報伝達する最適な方法を研究し、字幕つきCMの本格放送化をめざす活動がスタートしたのです。

プロジェクトチームのメンバーがまず取り組んだのは、テレビの「字幕」そのものを知ること。字幕放送の基本システムである「クローズド・キャプション」(*リモコンの「字幕」ボタンを押さないと文字が表示されないことから、こう呼ばれています)には、さまざまなルールや多くの技術的な制約があることがわかりました。そこで、字幕つきCMのテスト版を制作し、社内アンケートで健聴者・聴覚障がい者から意見を集めるとともに、社外でも、聴覚に障がいのある主婦や学生の方々にご協力いただき、ヒアリングを実施。健聴者のプロジェクトメンバーだけでは想定できなかった内容も含め、実にいろいろなご意見やご感想をいただき、字幕つきCMの制作に向けて貴重なヒントを得ることができました。

トライアル放送の実施と反響

字幕つきCMは、すでに数社の企業がトライアル放送を行なっていましたが、残念ながら、いずれも継続的な放送には至っていませんでした。このプロジェクトが発足してから半年経過した2011年8月、花王の一社提供番組「ドラマチックサンデー」(フジテレビ系列全国26局ネット/毎週日曜日21時)で、第1次トライアル放送がついに実現。放送局や広告代理店のご協力のもと、9月18日までの5週間に、合計53本のCMに字幕をつけて放送しました。

トライアル放送した字幕つきCMの評価を把握して今後の制作に活かしていけるように、聴覚障がいの関係団体のご協力のもとでアンケート調査を実施。約200人の方々からご回答をいただき、字幕内容のわかりやすさについては、9割以上の方からご支持をいただくことができました。

ご意見やご要望も、多数いただきました。「CMを目で聞いて、コピーに感動した!」「CMの話題で家族と会話できてうれしかった!」「CMがわかると、商品がほしくなった!」など、そのほとんどが、CMに字幕をつけて放送したことへの感謝、温かい激励のお言葉、そして放送を継続してほしいという字幕つきCMへの今後への期待だったのです。

放送本格化の実現を見据えて

暮らしに身近な製品をお届けするメーカーとして、テレビに数多くのCMを投入している企業として、花王は字幕つきCMの本格的な放送の1日も早い実現を強く望んでいます。その思いを少しでも前へ進めていくため、第2次トライアル放送をもうひとつの一社提供番組「A-Studio」(TBSテレビ系列全国28局ネット/毎週金曜日23時)で、2012年1月12日から開始。16週間の長期間にわたって、89本の字幕つきCMを放映しました。そのなかには、昨年8月に、フジテレビ系列での第1次トライアル放送と同じCMも含まれています。

実は字幕放送での「字幕」の表記方法は、放送局ごとに決めたルールで、統一されたルールではありません。同じCMを二つの異なる系列の放送局で放送することができたことは、字幕の標準化への一歩として、確かな手ごたえを感じました。

また、花王のCMは、Web動画サイト「花王CMチャンネル」でも公開しています。2012年1月以降、このサイトで公開しているCM動画すべてを字幕つきでもご覧いただけるように配信しています。いつでもどこでも、パソコンやスマートフォンなどで、より多くの方々に字幕つきCMを楽しんでいただけるようになりました。

制作の現場では 放送した字幕つきCMは、わかりやすかったか。気になる表現はなかったか。その検証も、継続的に行なっています。聴覚に障がいのある方はもちろん、60・70代のシニア層の方々を対象としたヒアリングも実施しました。字幕放送を利用されている方は少なかったものの、年齢とともに音が聞こえにくくなる“耳の遠い”方にとっても、音声情報を字幕で表示することは、有効な手段であることを確かめることができたのです。高齢化が進む世の中で、字幕つきCMの必要性をあらためて感じました。

視聴者の方から得たご意見などをその後のCMに活かすために、字幕の制作現場では、スタッフとのきめ細かい打ち合わせは欠かせません。音声情報をただ文字にするのではなく、15秒や30秒という短い時間で表現されるCMの世界観を少しでもお伝えできるよう、企画や演出の意図を考慮して字幕を作成。メッセージがきちんと伝わるように、記号やカタカナを効果的に使うなどの工夫をしています。字幕の表示タイミングや画面での見え方なども、CM1本1本をメンバーとスタッフ全員で協議しながら確認。最後に、音量を消して、繰り返しチェックします。

1日でも早い本格放送へ

2012年10月からは、第3次トライアル放送を開始。以前の2回で実績のある「ドラマチックサンデー」(フジテレビ系列)と「A-Studio」(TBSテレビ系列)とともに、一社提供の情報ミニ番組「ぴかぴかマンボー」(テレビ東京/毎週土曜日21時54分)を加えた三つの放送局同時の放送を実現しました。現在も、フジテレビとTBSテレビでは、トライアル放送を継続しています。

これまでに480本のCMに「字幕」をつけ、約200本をテレビでトライアル放送しました。この制作を通して得ることができた知見や成果などについては、官公庁や他企業、関係団体の方たちと共有できるように、積極的に情報を公開しています。すでに何社かの企業でも、字幕つきCMへの取り組みが始まっています。

今後さらに進む超高齢化社会に向けても、聴覚に関係なく、どなたにも同じようにCMの情報をお伝えできるよう、多くの方々の関心を高めながら、社会と一緒になって、これからも積極的にこの活動に努めていきたいと考えています。字幕つきCMの放送が、1日でも早くあたりまえになることを願って―。

☆「字幕つきCM」に関するご意見・ご感想をお寄せください。 http://www.kao.co.jp/corp/ad-cm/index.html