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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年5月号

列島縦断ネットワーキング【広島】

高次脳機能障害に特化した就労支援と自立支援の取り組み

クラブハウス・シェイキングハンズ

クラブハウス・シェイキングハンズは、平成16年に、高次脳機能障害者やその家族の居場所として始まりました。当時は、有料老人ホームの一角を無料でお借りしていました。

平成22年には、広島市の中心からアストラムラインで20分の上安駅前に移転、平成23年より自立支援法に基づく福祉サービスへと移行しました。就労移行支援事業(愛称「チャレンジ」)および就労継続支援事業B型(愛称「ワークステージ」)の多機能事業所として、高次脳機能障害をもつ人たちに特化したプログラムを実施しています。

運営主体「NPO法人高次脳機能障害サポートネットひろしま」は、家族会「脳外傷友の会シェイキング・ハンズ」が土台となっています。このため法人は「クラブハウス・シェイキングハンズ」の運営以外の事業も行なっています。相談事業のひとつとして、広島県内4か所で家族相談会を実施し、家族の悩みを聞き、高次脳機能障害に対する理解の促進を図っています。ピア・カウンセラーとして、家族が中心となって当事者への支援について語り合いますが、単なる交流会ではなく、専門家を交えて必要なアドバイスも実施しています。また社会への啓発を目的に、講演会の実施、会報作成、ホームページでの情報発信等も行なっています。

では、「クラブハウス・シェイキングハンズ」をご紹介いたします。

ワークステージ【就労継続支援事業B型】

基本的な習慣や能力を養う訓練に特に力を入れています。生活リズム、マナーや対人技術の獲得、記憶や注意障害の克服に向けて取り組んでいます。

ほとんどの利用者が精神障害者保健福祉手帳を取得していますが、身体障害者手帳と両方を持つ人もいます。片マヒのある人も含まれますが、独歩可能で排泄や食事は自立しています。送迎は行わず、一人で通えるようになることも訓練の目標としています。一人での通所が難しい人は、まずは移動支援などを利用して通い始めます。

高次脳機能障害をもつ人の大半は、自分の障害への気付きがありません。身体が元気になると、本人も家族もすぐに就職できると思ってしまいます。ところが、朝は起きられない、身だしなみを整えることができない、人の話を聞けない、話を理解できない、ちょっとした我慢ができない、など日常生活の基本が整っていません。いかに作業能力が高くても、社会性が欠けていれば就労はうまくいきません。

ワークステージでは、高次脳機能障害の障害特性に鑑み、個々の問題をアセスメントし、時間をかけて自立へ繋(つな)ぐことを目指しています。

ワークステージで、2年3年と時間をかけて働くための基礎力をつけて、チャレンジへ移行した人が一般就労を果たしています。一歩一歩足元を固め、土台を安定させて社会へ戻ることの大切さを、高次脳機能障害者と関わる中で感じています。

利用者の年代は20代から70代と幅広く、就労を目標としない年代の方もおられます。介護保険サービスの対象となる年齢層であっても、「介護を受けるよりも、少しでも人の役に立ちたい」というご本人、ご家族の思いにも応えていきたいと思っています。

チャレンジ【就労移行支援事業】

働きたいという強い思いがあり、週5日毎日通うことができて、基本的な生活面での自立の整った方が対象です。ワークステージで基礎を整えた人が移行する場合もあります。

2年間という利用期限の中で、ある程度障害について認識でき、注意されたことを素直に受け入れられるようになることが、就労の目安になるように思います。

【プログラムについて】

施設内で行う下請け作業、現場での職場実習、就労準備支援などがあります。下請けの作業を通して職務上の課題を明らかにします。高次脳機能障害者の場合は、「訓練」として行うと、問題に直面しても「これは仕事ではないからいい」「仕事となればきちんとやる」など、自分の問題を理解できないことがしばしばあります。そこで、直接、お客様の手や目に触れるものを扱う実際の仕事であることが効果的です。不十分な仕事、不適切な態度では通用しないこと、間違った時はそれを認め、やり直すこと、自己判断で変更せず手順を守ること、などを学んでもらいます。

ある程度就労の見込みが立ってきた段階で、職場実習を勧めています。実習先は、障害者就業・生活支援センターに相談して紹介してもらっています。ねらいは、現場で業務がこなせるか、職場環境になじめるかどうかなど、施設内では見極めきれなかった点を明らかにすることにあります。利用者にとっては、実体験を積むことで、職務上の課題がより具体的に分かり、モチベーションや働く意欲をさらに高めることができます。

【職業評価について】

就労の見込みがある程度立った時点で、障害者職業センターで職業評価を受けることを勧めています。専門的な評価が受けられ、また、ハローワークと連携している機関であるため、評価を生かして就職活動ができる、といった利点があります。また、ジョブコーチ支援を活用することもできます。

【就職活動について】

履歴書とは別に「プロフィール」を作成しています。働き方、自分に合った職種について、利用者と随時話し合い、作成していきます。履歴書では伝えきれない、障害の具体的なこと、障害があってもできること、配慮してほしいことなどを伝えるものです。プロフィールがあることで、ハローワークの人や企業側に、その人に合う仕事をイメージしてもらいやすいようです。こういう障害があるけれども、こういう仕事だったら任せられそう、と具体的に考えてもらえます。

就職や復職の相談は、ハローワークや障害者職業センターといった専門的な機関を通して行なっています。公的な機関に入っていただく方が、企業の信頼を得やすく、働く環境を整えやすいと考えます。長く勤めるためにも、重要なことです。

【就職後の支援について】

当事者と企業の仲介役として、職場を定期的に訪問し両者をサポートしたり、相談を受けたりなどのフォローをしています。就労後も家族と連絡をとりながら、情報を共有して必要な支援ができるよう調整しています。

仕事に就いている当事者の集まりとして、JOBJOBミーティングを2か月に1回開催しています。仕事や生活についての体験や情報交換の共有を通して、働き続けるために支え合っています。

今後の課題

高次脳機能障害支援モデル事業から10年が経ち、多くの病院で高次脳機能障害の診断がなされ、リハビリ体制も整ってきました。このため、事故後半年ぐらいで当法人へ相談に来られる方が増えてきました。

早期リハビリテーションの効果が検証されていますが、脳のリハビリには時間がかかるというのが実感です。外見は問題がなくても、社会に出て初めて見えてくる問題がたくさんあります。当事者は障害の自覚がないまま、社会へ戻ろうとしますが、障害の気付きができるようになるには、多くの場合、年単位の時間が必要です。就労移行支援の2年間の利用期間では足りません。

また、一般就労を目指す前に、生活の自立のための訓練が必要であり、大切な支援であると痛感しています。常識的なことですが、たとえば、毎日活動するための体力を維持できる、約束を守れる、といったことをきちんと確かめる必要があります。現在、医療リハビリ後の、毎日の生活の基本を立て直す訓練に重点を置いて、就労継続支援事業B型を運営していますが、より基礎的な訓練、自立訓練(生活訓練)も必要だろうとスタッフで話し合っています。

昨今では、株式会社が運営する事業所も増えてきました。一般企業に障害者を繋ぐには、企業的なセンスも必要かと思います。しかし、私たちの支援する対象者は、高次脳機能障害をもつ人、周りにも本人にも、まだ見えていない障害をもった人たちです。そんな人たちが、障害をもって初めて出て行く社会がクラブハウス・シェイキングハンズです。一人ひとりに寄り添い、その人が生きがいを持てる場所へ繋ぐ支援が私たちの使命だと思っています。