音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

難治性疾患を持つ当事者の願い

篠原三恵子

障害者総合支援法が4月から施行され、これまで身体障害、知的障害、精神障害に限られていた支援の対象に、初めて一部の難病が加えられた。当面の措置として、政令によって130疾患が新たな対象となり、今後の見直しにおいて対象疾患は増えるとされている。しかし、そもそも難治性疾患は5000~7000もあるとされており、今後も病名によって対象を区切れば、「制度の谷間」はなくならない。

2011年8月5日に改正障害者基本法が公布され、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下『障害』と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」と規定された。

2011年8月30日に、障がい者の新たな福祉法を検討するために設けられた「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」によって骨格提言がまとめられ、障害者基本法の定義を採用して、「難病や慢性疾患の患者等においても、『その他の心身の機能の障害がある者』とし、障害者手帳がなくとも、医師の診断書、意見書、その他障害特性に関して専門的な知識を有する専門職の意見書で補うことができる」として、難治性疾患患者も福祉サービスの対象とするよう提言した。つまり、病名にかかわらず支援を必要としているすべての障害者をもれなく支援の対象にし、「谷間」を生まない包括的な支援が行われるように提言した。

骨格提言を受けて、2012年6月に成立した障害者総合支援法における難病等の範囲は、疾病対策課および難病対策委員会で検討されてきた。2013年1月25日の難病対策委員会において、「難病対策の改革についての提言」がまとめられ、「障害者総合支援法における難病等の範囲は、当面の措置として、『難病患者等居宅生活支援事業』の対象疾病と同じ範囲として平成25年4月から制度を施行した上で、新たな難病対策における医療費助成の対象疾患の範囲等に係る検討を踏まえ、見直しを行うものとする。」とした。

医療費助成の対象疾患には、1.希少性(約12万人以下)、2.原因不明、3.効果的な治療法の未確立、4.生活面への長期の支障という要件が求められる。しかし、日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある者が、必要な福祉サービスを受けるために、医療費助成の対象疾患と同じ要件を満たす必要があるだろうか。

私は筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)を罹患しているが、この疾患の患者数は30万人と推定されている。4分の1の患者は寝たきり、もしくはそれに近い重症患者であると推定されているにもかかわらず、希少性がないとして難病の医療費助成の対象となっておらず、障害者福祉の難病等の対象からも除外されるリスクにさらされている。

筋痛性脳脊髄炎は多系統に及ぶ複雑な疾患であり、何年も寝たきりで経管栄養に頼らざるを得ない患者がいるほど重篤な疾患であるが、客観的な指標を含む診断基準が確立されていない。今後の対象の見直しにおいては、診断基準が確立していないという理由では、いかなる疾患も除外されることがないようにしていただきたい。診断基準が確立していないのは、患者の責任ではないはずである。また、難病・難治性疾患は、診断がつくまでに何年もかかる場合も多い。その間も福祉サービスが必要となる場合も多くあり、ニーズに応じて柔軟に対応していただきたい。今後、さらに見直しが行われる「障害の範囲」については、当事者の意見を踏まえた上で、オープンな場で論議されることを望む。

本年に入って、「難病患者等に対する障害程度区分認定マニュアル」が配布された。認定調査の留意点として、難病患者等は障害が変化したり、進行する等の特徴があることを認め、認定調査の際には、「症状が変化する場合は、『症状がより重度の状態=障害程度区分の認定が必要な状態』と考え、『症状がより重度の状態』を詳細に聞き取ることが重要」としている点は、非常に評価できる。病的な疲労や耐え難い痛みのために日常生活に大きく支障を来していても、疲労や痛みは測定が困難だとして、身体障害者手帳取得の際にはほとんど勘案されず、難病の症状は周期的、断続的に表れる難病の症状は、「症状が固定していない」と見なされ、手帳を取得するのが困難であったからだ。

支給決定の仕組みの改革を議論する際には、認定調査事項が難病・難治性疾患の特性が十分に反映されるよう、当事者を議論の場に参画できるようにしていただきたい。また、支給決定プロセスにおいては、当事者の意向やその人が望む暮らし方が最大限尊重され、一定の共通事項がルール化され、公平性や透明性が担保された上で、協議調整により決定されることを望む。

今まで福祉サービスが利用できなかった難病患者に、この新しい制度を周知させることも忘れてはならない。認定作業を通して、難病患者が必要なサービスを受けられるようになるのか、今後どういう過程を経て「障害の範囲」が決定されるのか、真に公平性が保たれた上で改革が行われるのかを見守っていくとともに、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する」とする、障害者総合支援法の基本理念が実現されることを願ってやまない。

(しのはらみえこ NPO法人「筋痛性脳脊髄炎の会」理事長)