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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

就労支援のあり方、検討の方向性への期待

栗原久

一般就労支援策の見直しについて

大阪府内・各市町村の就労移行支援定員と就労者数の散布図(大阪市、堺市を除く)(単位:人)
図 大阪府内・各市町村の就労移行支援定員と就労者数の散布図拡大図・テキスト

私が所属する大阪府障がい者自立支援協議会・就労支援部会で、興味あるデータが配布された。平成23年度(2011年度)現在の各市町村における就労移行支援事業所数と定員、および就労人数の一覧である。これを、当事業団スタッフと共に分析・加工したのが上図である(自治体名は伏せている)。年間就労者数が10人未満かそれ以上か、また定員が40人未満かそれ以上かによって、大きく4つのグループに分けられる。問題は、CおよびDグループであり、同じように公的資金が投入されていながら、その実績には大きな違いがある。また、年間就労者数が0ないしは1人という事業所が半数を占めていることも部会で報告された。

こうした状況は、他の都道府県でも同様ではないか。この実情を踏まえ、まず、一般就労支援策の中でも、就労移行支援事業の見直しにおいては、3点提案をしたい。一つは、就労移行支援事業所ごとの実績数の公表である。生活介護等では第三者評価の結果が任意で公表されているが、これを就労分野にも広げ、かつ少なくとも実績数については義務化すべきだろう。サービスの質が不明な事業所と契約するほど、おかしな話はないのではないだろうか。

二つ目としては、実績の上がらない事業所に対しては期間限定で、アウトリーチをかけ、その原因を探り、改善に向けた支援を行うこともセットで考えたらどうだろうか。それでも実績数が上がらなければ、指定取り消しも含め、検討してもよいのではないか。

また、私は、平成9年度(1997年度)から旧労働省の「地域障害者雇用支援ネットワーク研究会」で議論をしてきたが、そのとき、あっせん型雇用支援センター(就業・生活支援センターの前身)のあり方についても検討した。要は、どこでも指定するのではなく、3年間の就職や実習の実績をベースに考えるというものだった。しかし、就労移行支援事業においては、そうした条件がない。三つ目の提案は、指定段階における条件付けである。

その就業・生活支援センターであるが、どこも、毎年増加する定着支援の数に本当に苦労している。そこで、ぜひとも見直しをお願いしたいのは、登録者数はもとより、対象地域の面積(家庭訪問で1日かかることもある)、定着支援の実績に応じて運営費が増え、マンパワーを確保できる仕組みの創設である。その際、1事業所に10人の対象者がいる場合と、10事業所に10人の対象者がいる場合では支援にかかるコストも全く違うので、算定根拠には事業所数も加味していただきたい。

中間的就労の場の検討を

一方、就労継続支援事業についてだが、この点は、障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会の骨格提言で提案された試行事業(パイロット・スタディ)との関係で述べたい。セルプ協のHPには「減額特例を受けている障害者従業員は、福祉工場、就労継続支援A型事業所の平均で、全体のおよそ2割となっている」「厚生労働省の調査によると、全国での減額率の状況については、最賃の半分を超える減額も全体の許可件数の1割強あり、80~90%の減額も数件許可されている」旨、書かれている(http://www.selp.or.jp/info/temp/120906_02.pdf)。後者の調査はA型と企業両方を含むものと考えられるが、いずれにせよ最賃の1割での雇用契約が行われているのは、放置できない問題ではないだろうか。

逆に、雇用関係の無い就労継続支援B型でも、最賃の半分程度を出す事業所があることが、厚労省のHPから読み取れる。A型、B型の、この交錯状況をもって「よし」とする人は、果たしているのだろうか(http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/service/dl/shurou_h23.pdf)。

骨格提言ではこうした実態も踏まえ、また滋賀県や箕面市などの制度も参考にしながら、一般就労と福祉的就労の間に、中間的な場である「障害者就労センター(賃金補填を含む)」を設けること、福祉的就労についてはデイアクティビティーセンター(作業活動支援部門およびそれ以外の部門からなる)として再整備することを提案している。そして、その実現のために、3年間の見直し期間中に、試行事業を実施すべく具体の項目も挙げているが、1日も早いスタートを切望している。

最後に、厚労省主管課長会議資料(平成25年2月25日)の次の記述に言及したい。「加えて、就労継続支援A型事業の短時間利用の実態として、利用者も従業者も短時間の利用とし、短時間で浮いた自立支援給付費を実質的に利用者である障害者の賃金に充当している事例も懸念されているところである。本来の就労継続支援A型事業の目的に反するのみでなく、自立支援給付費を給付する趣旨からも不適切である(P.62)。」

利用者の意に反して、短時間しか働けない実態があるとすれば問題であるし、現行制度では自立支援給付費を障害者の賃金に充当できない。そして、だからこその新たな仕組みの提案である。経営努力という視点から、公費を、バランスよく、運営費、賃金(支援する職員および障害者)に充当していくことは、それほど悪いことだろうか。現行制度の枠で頑なに考えず、一体、どの政策が障害者の自立支援につながるのか、大局的な検討を期待しているし、私たちもそのための情報提供や作業を惜しむものではない。

(くりはらひさし 一般財団法人箕面市障害者事業団常務理事兼事務局長/箕面市役所市長政策室参与)