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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

障害者の意思決定支援と成年後見制度利用に関する課題と期待

橋詰正

障害保健福祉施策の推進に係る骨格提言の相談支援と権利擁護項目には、障害者の抱える問題全体に対する包括的支援を継続的にコーディネートする複合的な相談支援体制の整備と、支援を希望または利用する障害者の相談、利用、不服申立のすべてに対応すること、オンブズパーソンの制度の創設、虐待防止と早期発見が盛り込まれています。相談支援という立場からすれば、画期的な支援体制整備と、より専門的なスキルの習得および強固な専門機関との連携への新たな取り組みが必要です。

また、相談支援事業所には、障害者の意思決定の支援に対する配慮と、常に障害者の立場に立った支援を行うことが責務とされ、意思決定支援の在り方と成年後見制度利用の促進の在り方の検討が予定されました。このことは、制度に位置付けられた本格的な権利擁護支援のスタートが切られたと言えます。

現在の状況を考察すれば、権利擁護の視点は地域や組織の実情、置かれている立場等により左右されがちで、支援者や支援機関の力量や裁量の範囲で行われていたと思います。まして、本人の意思決定支援は、個々の支援者に任せて判断を共有していた部分が大きかったはずです。そうなると、意思決定支援に関する標準的な支援方法を確立しない限り、相談支援は包括的な総合相談体制整備には至れず、意思決定に対する支援をどう展開していくのかのお手本を求められてくることになるでしょう。

この点について、イギリスの成年後見制度と意思決定能力法に着目し、今後の展開への一考を投じてみたいと思います。この意思決定能力法には、意思決定権限者に対する行動規範としてベスト・インタレスト(本人にとっての最善の利益)の概念が盛り込まれ、支援者に対する意思決定の判断の在り方を方向付けています。

その考え方は、社会全体がベスト・インタレストの概念を意識化できるよう法律に位置付けたことで、専門的判断の根拠が明確となり、支援する側の覚悟が感じられます。何が本人の最善の利益なのかについて判断できるのは、本人に他ならないという理念の下で、支援関係者の意思決定の在り方に係る指標が打ち出されたと言えます。

そこには、現実に起きている事象や願い・希望等、ご自身で意思決定できないような本人の意思決定能力の問題に直面した場合、その判断の妥当性を保護裁判所という機関に相談する仕組みがあることです。

相談支援事業所に義務付けられた意思決定への配慮義務を果たす場合に、相談支援専門員はこの判断をケアマネジメントの流れの中で、本人を含めた支援関係者と一緒に考える支援会議という方法で解決しようとしているのですが、前述のように、それぞれの立場で左右されがちであり、当然のように、法定代理人の成年後見人等が当たり前に参加しているわけでもありません。これには、障害者をめぐる成年後見制度の現状と課題にも共通する部分が大きく、各地の成年後見制度の普及と受任者の受け皿に関する解決を図る必要性があり、各地では、成年後見センターや市民後見人の養成が開始された背景とも言えます。

一方、成年後見人としての立場からすれば、身上配慮義務として、本人の意思を代弁・代理することを求められていますが、やはり、障害者の最善の利益を判断することは容易ではなく、市民後見人がそれを補っていく方向だとすれば、より判断に対する相談や応援の仕組みが必要となると感じています。

その現実に向けては、本人の年齢・外見・状態・ふるまいで判断を左右されてはならないこと。当該問題に関係すると合理的に考えられる事情については、すべて考慮して判断すること。意思決定能力の回復の可能性を考慮すること。本人の過去、現在の意向、心情、信念や価値観を考慮すること。本人が相談者として指名した者・家族・友人・後見人等の見解を考慮すること等、最善の利益を見つけるチェックリスト1)を制度の中に取り入れ、行動規範として標準化することが必要だと感じています。

当然、この考え方は障害者の後見事務を担う成年後見人等はもとより、すべての障害者に携わる支援者への人材育成のカリキュラムにも組み込まれていくものであってほしいと願います。また、それを具体的に実現できるような意思決定支援への相談や、応援ができる施策を講ずる必要があると思います。

具体的には、各地で展開されている成年後見センターや相談支援の仕組みの中での基幹相談センター等の地域の中核となる機関への機能強化を図ることも想定されると思いますが、あくまで、権利擁護視点の専門性と障害者支援の専門性の両面を発揮できる機能が必要であり、イメージとすれば、意思決定支援の行動規範を備えた公的な障害者の権利擁護センター的なものであると考えます。これによって初めて、各地で、包括的支援を継続的に実施できる複合的な相談支援体制の展開をみることになると感じています。

(はしづめただし 長野県上小圏域障害者総合支援センター所長)


【参考文献】

1)菅富美枝著「イギリス成年後見制度にみる自律支援の法理」ミネルヴァ書房、2010年