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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

今後の検討に期待すること

第三者が関与する意思決定支援の仕組みづくり

大塚晃

はじめに

「障害者自立支援法」に代わり制定された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」が、平成25年4月から施行されている。法律に基づく施策の動向を踏まえ、今後の方向性を探ってみたい。

1 障害者総合支援法の特徴

障害者総合支援法の基本理念(第一条の二)を見るに、本法律が「基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」ことや「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保される」など、障害者の個人としての尊厳を尊重し、どこで誰と生活するかという自己決定を尊重していくことなどが法律に規定されている。これは、障害者本人の主体(自律・自己決定)を強調するもので、知的障害児(者)や発達障害児(者)においても、どのような生活を送るかは本人自身が決めることという「自律」という重要な理念が盛り込まれていると考える。

2 障害者の地域生活について

障害者の地域における生活については、障害者自立支援法の施行により、ノーマライゼーションの原理に則り、施設から地域への移行が本格的に取り組まれている。

法律は、都道府県障害福祉計画や市町村障害福祉計画の作成を義務付けている。これにより、厚生労働省の調査によれば、障害者自立支援法施行後は、毎年5,000人前後の障害者が地域生活に移行している実態が報告されている。しかし、国が指針で求めた1割(約10,000人)とすれば、その目標は未達成であり、地域生活移行に関する都道府県および市町村の地域格差は大きなものがある。

一方、入所施設の利用者数は毎年14万人前後と減少していない。施設の定員数を削減していないので、地域移行した数だけ新たな入所者が利用している実態が見えてくる。

3 施設入所と意思決定の支援

国の障害福祉計画に掲げられた地域移行や施設入所定員削減の目標を掲げ、それを実現していくためには、知的障害児(者)の意思決定について、もう一度根本から考える必要があるだろう。

障害者総合支援法の制定により、また知的障害者福祉法等の改正により、「市町村は、知的障害者の意思決定の支援に配慮しつつ、知的障害者の支援体制の整備に努めなければならないものとする」、「指定障害者支援施設等の設置者等は、障害者の意思決定の支援に配慮するとともに、常にその立場に立って支援を行うように努めなければならないものとする」とされている。

知的障害者が、従来、自分自身では何も決められず、自立(自律)した生活が困難であると長い間考えられ、多くの知的障害者の人権が侵されてきたことを考えれば、知的障害者の「自己決定支援」がクローズアップされたことは好ましいことである。知的障害者の意志に基づいて、施設入所がどれだけ行われてきたかは疑問であるから、意思決定の支援を掲げるのは、おくればせながら前進である。

4 意思決定支援の仕組み

すべての知的障害児(者)や発達障害児(者)ではないが、その多くは意思決定に困難を抱えている。それ故に意思決定の支援が必要であり、何よりもその仕組みが重要になる。

それでは、どのような意思決定の支援の仕組みが必要であろうか。意思決定の支援を必要としている知的障害者・発達障害者のためには、施設職員や家族でない第三者が支援する仕組みがぜひとも必要となるだろう。意思決定の支援の必要な知的障害者等の日常生活レベルの自己決定を支援するのは、その人をよく知る人たちが望ましいが、しかし、その関係はあまりにも親密圏にあるが故に重大な権利侵害が起こる可能性がある。

すでに見てきたように、これだけノーライゼーションが何十年にもわたって叫ばれながら、入所施設から地域への移行などの進んでいない状況を考えると、知的障害者等の意思決定の支援に、自立支援協議会等の第三者の関与による意思決定の支援の仕組みが必要と考える。

おわりに

意思決定の支援という言説は、どのようにも捉えられるものである。「本人が施設にいたいと意思決定しているから」と、利用者を変わらず施設に囲い込むこととなりはしないかという危惧がある。一方、「本人が家族との生活を望んでいるから」と、いつまでも家庭に止めおくことになる危険もある。

このような状況を打破していくためには、本人を中心として、そこにかかわる人たちすべてが、本人にとってより適切な生活の場はどこか、あるいは、どのような支援があればそこでの生活が可能となるかを、慎重に考えていくしか道はない。その時、キーワードになる言葉が「本人の最善の利益」であり、これについてのすり合わせを丁寧に行なっていくことが重要である。

「本人の最善の利益」の観点に基づいて第三者的立場から構築され、本人を中心に、そこにかかわる者の対話的な場としての本人の意思決定の支援のための仕組みが構築されれば、意思決定に困難を抱え、支援の必要な障害者の地域での生活がもっともっと進むのではないかと考えている。

(おおつかあきら 上智大学教授)