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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

ほんの森

世界の盲偉人
―その知られざる生涯と業績―

指田忠司 著

評者 長岡英司

桜雲会点字出版部
〒169-0075
新宿区高田馬場4-11-14-102
定価2,940円(税込)
TEL 03-5337-7866
FAX 03-6908-9526

「多くの分野で視覚障害者が活躍してきたこと」、「福祉や教育の発展に視覚障害当事者が大きく寄与してきたこと」を、この1冊で改めて知った。(社福)桜雲会から出版された『世界の盲偉人―その知られざる生涯と業績―』(指田忠司著)には74のヒューマンストーリーが綴られている。

2部構成の第1部「さまざまな仕事で活躍した先人たち」には、学究、文芸、音楽、政治などの分野で業績を残した30人の視覚障害者が登場する。第2部の「視覚障害者の教育・福祉・文化の向上に尽くした先人たち」は、晴眼者を含む44人を紹介している。

本書に登場する人々の活躍の場は、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、スペイン、インド、タイなどの多くの国々であり、時代も17世紀から今日までと幅が広い。だが、本書では、ルイ・ブライユやヘレン・ケラーといった極めて著名な人物を主役としては取り上げていない。世界的に知られている塙保己一も登場しない。著者の意図は、これまであまり知られていなかった人物や事実に焦点を当て、注目すべき人生や意義深い業績を広く伝えることにある。

先人たちの生き方は後の人間に大いに参考になる。特に、意義ある結果を残した生き方は、それを知る者に知恵と勇気をもたらす。著者は、その伝え手の役割をこの執筆で担っているのである。本書からはその熱意を随所で感じ取ることができる。

たとえば、記述の確かさである。著者は、全盲の研究員として、障害者職業総合センターに長年勤務してきた。その間に培った情報収集力を今回の執筆に存分に活かし、正確な記述に努めている。

また、掲載されている写真にも注目したい。海外から取り寄せた貴重なものもあり、記述の確かさと相まって、本書の資料性を高める役割を果たしている。そして、国際的な活動を通じて得られた豊富な経験や人脈が執筆の重要な基盤になっていることを見落とせない。

WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)の会長を務めたことのある著者は、世界の視覚障害者事情に精通している。海外の知人も多く、本書の登場人物の何人かとは面識がある。そうした著者の国際性が、本書の記述を説得力あるものにしているといえる。

この1冊、視覚障害者にとっては生き方を考える上での良い参考書になる。もちろん、教育・福祉関係者や視覚障害児の保護者の皆様にもさまざまに役立つことは間違いない。

(ながおかひでじ 筑波技術大学教授)