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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年6月号

列島縦断ネットワーキング【宮城】

震災を乗り越えて今ここに教育と福祉の統合
まなウェルみやぎオープン

樫本修

宮城県では子育てを取り巻く環境が複雑化するなか、とりわけ東日本大震災以降、親子の関わり方や学校での教育に関する保護者からの相談内容も多様化し、子どものメンタルヘルスの問題や、不登校の要因も個々の状況に応じたきめ細やかな対応や支援が必要になっています。

そうした背景のなか、平成25年4月1日、宮城県名取市美田園(みたぞの)に宮城県教育福祉複合施設「まなウェルみやぎ」がオープンしました。発達の遅れ、家庭のさまざまな問題、不登校、いじめ、引きこもり、子どもの教育、身体、知的障害者、児から者のリハビリテーションの関わりなど、県の教育支援機関と福祉関係機関を集約しています。そして、ここには児童精神科とリハビリテーション科の二つの医療機関が併設されており、教育・福祉だけでなく医療の面でも子どもから大人までを支援するユニークな複合施設です。

まなウェルみやぎのある名取市美田園の地は、東日本大震災の津波によって1メートル冠水し、当時、基礎工事まで終了していた大半をやり直し、当初の計画より丸1年遅れてようやくオープンにこぎ着けました。国道4号線、仙台東部道路インターチェンジから近く、仙台空港アクセス鉄道美田園駅の直近というアクセスも魅力です。仙台空港に近いことから、周辺は「りんくうタウンなとり」という閑静な住宅街です。東日本大震災のような災害は二度と起こらないことを願っていますが、まなウェルみやぎが周辺地域の避難所となるようなスペースの確保、さまざまな備品、非常食なども備蓄しています。

まなウェルみやぎの名称は県民から公募して決まりました。「まな」は、学びの場である「学(まなぶ)」と愛子(まなご)の「愛(まな)」、「ウェル」には、福祉を意味する英語のウェルフェア(welfare)と利用者を歓迎するウェルカム(welcome)の意味が込められています。

まなウェルみやぎ内の機関

まなウェルみやぎの中には、教育関係の機関として総合教育センター、美田園高等学校、福祉関係の機関として子ども総合センター、中央児童相談所、リハビリテーション支援センターの5つの機関があります。

(1)総合教育センター

これまであった教育研修センターと特別支援教育センターを統合して一つの組織になりました。子どもの教育、不登校、いじめ、発達の遅れ等の相談機関です。対象児、保護者だけでなく、それに関わる教職員も支援します。また、教職員の研究、研修を支援する役割も担っています。

(2)美田園高等学校

個々の事情に応じて学びたい気持ちを大切に、多様化する高校教育のニーズに対応した学習指導や生活指導を行うため、宮城県仙台第一高等学校通信制課程を独立させ、通信制課程のみを置く高等学校(独立校)として新しく開校した学校です。リハビリテーション支援センターでリハビリを受けながらこの学校で勉強している生徒もいます。

(3)子ども総合センター

子どもや家庭、関係機関などを総合的に支援します。付属診療所があり、児童精神科の専門医が子どものメンタルクリニック、療育デイケアを行なっています。子どもの健全育成、関係者の人材育成、「不登校・支援機関等研修会」など関係機関の総合的な支援を行う専門機関です。

(4)中央児童相談所

宮城県には北部、東部、気仙沼支所、中央の4つの児童相談所があります。子どもに関するさまざまな問題に対して、家庭などからの相談に応じ、必要な調査や心理学的判定などを実施し、子どもやその保護者に対して必要な助言等を行う専門機関です。また、知的障害者更生相談所でもあるリハビリテーション支援センターと連携をとりながら知的障害のある子どもに対して療育手帳の判定を行なっています。

(5)リハビリテーション支援センター

私の所属するリハビリテーション支援センターについては、少し詳しく解説します。

当支援センターは、「障害者更生相談所(身体・知的):昭和27年設立」と「拓杏園(肢体不自由者更生施設):昭和41年設立」を前身とし、平成18年4月に開設された、障害のある方を支援する専門・技術的機関です。地域リハビリテーション支援機能、障害者更生相談所機能、障害者専門クリニック機能を3本柱として備え、さらに、もう一つの顔として「宮城県高次脳機能障害者支援事業」の拠点機関としての役割も担っています。

宮城県の地域リハビリテーションシステムは、いわゆる地域リハビリテーション広域支援センター機能を七つの保健福祉事務所・地域事務所(保健所)が担う全国的にも珍しいユニークなシステムです。その歴史は平成9年から始まり、現在は各保健所に1~3人の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が常勤配置されています。保健所が地域で起こった生活障害、コミュニケーション、摂食・嚥下障害などさまざまな領域においてリハビリテーションの視点で関わり、当支援センターはその後方支援機関の役割を担っています。関係機関とのネットワーク整備、各種研修、研究・調査、各分野の地域リハビリテーション支援マニュアル作成などに力を入れ、当支援センターのホームページから支援マニュアルはダウンロードが可能です。

身体と知的の障害者更生相談所機能では、補装具判定、身体障害者手帳・療育手帳の判定、発行事務等を行なっています。補装具判定は対象者に直接会って診察、生活スタイルを把握する直接判定方式を主としています。利用者の利便性を考えて、年間72回もの巡回相談を実施しています。また42回の来所判定では、必要に応じてレントゲン撮影、体圧分散測定を行います。療育手帳の判定では、障害像を的確に捉え、今後の障害者ケアマネジメントにつながるように市町村にアドバイスしています。

障害者専門クリニックでは、一般の医療機関では対応が十分でない障害に関する専門的医療相談、高次脳機能障害者の診断・評価、義肢装着クリニック、シーティングクリニック、痙縮外来、各種診断書等の作成、若年障害者等必要性のある方に対して医療リハビリテーションなどを提供しています。高次脳機能障害者支援事業では各種研修会、電話・巡回相談等を行なっています。

ちなみに当支援センターでは、所長である私の聴覚障害をはじめ、常勤、非常勤を含めて職員全体の2割にあたる6人に何らかの障害があります。普段の業務の中でこの6人に心地良く接する態度が、地域の相談者への対応の基本姿勢となり、障害のある方に対して親身になって支援するというスタンスが職員全員に育まれます。

子どもから大人までワンストップでの対応と連携

各機関の代表が集まりお互いの情報交換、業務連携などを検討するシステムである「まなウェルみやぎ連絡調整委員会」が定期的に開催されます。5つの機関が業務連携して、生活面、心理面、身体面等に支援が必要な子どもから大人に対してワンストップでタイムリーに円滑に対応していくことが「まなウェルみやぎ」の使命です。

宮城県は被災者支援を中心に震災復興を重点課題としており、「宮城県震災復興計画」では平成25年度を、被災者の生活基盤や公共施設を復旧させる「復旧期」の最終年度と位置づけています。当支援センターの地域リハビリテーション事業も被災地も含めた全県域を対象とし、今年度から障害児・者を対象の重点に置いて進めていく計画です。まなウェルみやぎ内の他機関と連携しながら、震災復興ならびに障害児・者支援をこれまで以上に進めていきたいと思います。

(かしもとおさむ 宮城県リハビリテーション支援センター所長)