「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号
時代を読む45
カナタイプによる視覚障害者の職域開発
―「タイプライタ速記」をめざして―
はじめに
社会福祉法人日本盲人職能開発センターを開設した松井新二郎(1914―1995、戦傷失明者)は、英国の戦傷失明者援護施設「セント・ダンスタンス」の訓練科目「タイプライタ速記」を将来、わが国でも実現したいと考え、カナタイプの普及とカナタイプ速記者の養成計画を実践していく。
カナタイプの普及活動
1955年頃、国立東京光明寮(1964年、国立東京視力障害センターと名称変更)に勤務していた松井は、各方面に働きかけ、中古のタイプライタ15台を手に入れ、カナモジ会の協力を得て利用者の指導を開始した。次第に、盲大学生のための講習会や地方講習会にあわせて目の役割のボランティア講習会へと発展していった。
愛盲タイプ1000台整備運動
松井は、財団法人日本盲人カナタイプ協会を設立して、全国の視覚障害者を対象に「カナタイプの無料貸出事業」を計画し、1965年に「愛盲タイプ1000台整備運動」を開始した。
そのタイプライタは全国の盲学校・訓練施設・団体に貸与され、1980年3月には17,958台に達している。
録音カナタイプ速記者の養成
松井が主唱した新職業訓練課程「カナタイプ科」が、1968年に国立東京視力障害センターに設置された(1976年まで)。
修了者の就業状況
○自治体議会速記専門の「録音速記会社」
○メディカルトランスクライバー(放射線診断医師の読影テープを文字化する業務)
○東京地方裁判所民事部の調書作成に録音タイプ速記者が従事
○現職復帰して職場の会議録作成に従事
○東京録音タイプ社でテープ起こし作業に従事
障害者施策の動き
○厚生省=重度視覚障害者に対する日常生活用具の給付種目にカナタイプが加えられた。1976年
○文部省=盲学校のコミュニケーション教科でカナタイプを指導。1968年
○労働省=録音カナタイピスト等職能開発訓練施設認可。1982年
むすび
視覚障害者のパソコン環境は、一般の人と同様に社会生活や職業生活を可能にしている今日、カナタイプが視覚障害者の事務職として働く端緒となった歴史を振り返り覚えておきたい。
(光岡法之(みつおかのりゆき) 社会福祉法人日本盲人職能開発センター相談役)