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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

ほんの森

地域リハビリテーション白書3
―地域包括ケア時代を見据えて―

澤村誠志監修 日本リハビリテーション病院・施設協会編集

評者 栗原正紀

三輪書店
〒113-0033
文京区本郷6-17-9
定価(本体7,000円+税)
TEL 03-3816-7796
FAX 03-3816-7756

日本リハビリテーション(以下、リハ)病院・施設協会では2001年、地域リハを「障害のある人々や高齢者およびその家族が住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に、いきいきとした生活が送れるよう、医療や保健、福祉および生活にかかわるあらゆる人々や機関・組織がリハの立場から協力しあって行う活動のすべてをいう」と定義した。この考え方に出合った時、筆者は脳神経外科医として地域の救急医療に従事し、救命・救急、そしてその後の障害と闘いながら大きな無力感を味わっていた頃で、光明を見た思いであった。以来、地域医療の目標は地域リハ理念の実現にあると信じている。そして今、国は団塊の世代が75歳以上になる2025年に備えて、日常生活圏域(30分以内)で安心して住み続けられるように、医療・介護・予防・住まい・生活支援などが包括的に整備・提供されるという、自助・互助・共助を基本とした“地域包括ケアシステム”の構築を提案した。

さて、本書はこのような時期に満を持し(初版の「地域リハ白書’93」から20年)、時を得て出版された教本である。総論編(第1部)では、浜村明徳氏が地域リハの現状と展望そして地域包括ケアとの整合性について総括。そして、本書監修者である澤村誠志氏が“これから目指すべきインクルージョン社会”への指針を提示。さらに大田仁史氏が地域リハ活動の歴史を、そして米満弘之氏が地域リハ支援体制整備事業の経過・課題について整理されている。これらはまさに“高貴”高齢者故に可能な歴史整理・課題抽出、そして今後への具体的道標の提示といえる。その他、地域リハのさらなる概念整理、海外での取り組みや障害者権利条約批准、また医療・介護政策の変遷、地域変革組織化活動などに続き、いよいよ地域包括ケア実現に向けた医療・介護・福祉・住宅政策の立場からの課題・展望そして先駆的道筋が紹介され、流れるような構成で、非常に理解しやすくなっている。

第2部は、実践報告編である。地域リハ活動の重要な要素である組織化と教育・啓発活動に関する事例、そして直接援助活動の紹介として回復期リハや老健からの地域展開、訪問リハや通所リハ、かかりつけ医や訪問看護の活動事例、そして障害者支援・療育、介護予防、家族会・患者会などの具体的事例が挙げられている。今後の各地での展開に有用な事例集となっている。

保健・医療・介護・福祉・行政・まちづくりに携わる方々、そしてまた地域包括ケア対象当事者(高齢障害者のみならず、そして現在・将来にかかわらず)の方々、多くの皆さんに必読の書としてお勧めしたい。

(くりはらまさき 日本リハビリテーション病院・施設協会会長、長崎リハビリテーション病院院長)