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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

ワールドナウ

防災グローバル・プラットフォーム会合参加報告

石井靖乃

防災グローバル・プラットフォーム会合について

2013年5月21~23日の3日間、スイス・ジュネーブにおいて防災グローバル・プラットフォーム会合(GP2013)が開催された。この会議は2年ごとに開催されており、4回目となる今回は、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)と1,400を超える世界中の自治体からなる防災キャンペーンの共催により開かれた。

この会合は防災に関するものでは世界最大級であり、参加者は172か国からさまざまな立場(政府代表、国際機関、赤十字・赤新月社、国際NGO、市長、議員、地域コミュニティー、原住民族、障害者、若者、経済界、学者など)を代表する3,500人以上が集まり、全体会、各国首脳・大臣級によるハイレベル・ダイアログ、特定テーマイベント、サイドイベント、「イグナイトステージ」と呼ばれる個人・団体による発表など、合わせて170以上のイベントが行われるという規模であった。

障害と防災・減災に関して

今回、特定テーマイベントが設定されていたのは、島嶼(とうしょ)国、防災対策資金、ビジネス、干ばつ、女性、世界的遺産、子ども、健康、リスク評価、復興、都市計画である。障害が特定テーマに含まれていないことが示すように、防災・減災の取り組みにおいて十分な関心が払われてきたとは言い難い。2005年の第2回国連防災世界会議(神戸で開催)で採択された兵庫行動枠組においても「障害者」という言葉はかろうじて1か所記載があるものの、具体的な取り組みへの言及はなく、防災に関する国際会議で目立った議論は行われてこなかった。

しかし、昨年10月にまとめられた国連アジア太平洋経済社会委員会の「障害者の権利を実現するインチョン戦略」において、目標の一つに「障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること」が掲げられ、同じく10月に開催された災害リスク軽減に関するASEAN大臣級会合においても「障害インクルーシブな災害リスク軽減」に関する世界的に最も先進的な宣言が出されるなど、近年アジアを中心として、国際的な場で障害と防災・減災に関する議論が活発になりつつある。

「障害と防災・減災」に関する数々のイベント

防災・減災への取り組みにおいて「障害」がテーマとして認識されてこなかった現状に鑑み、日本財団、ドイツ国際協力公社、国際障害同盟(IDA)、障害インクルーシブな防災・減災ネットワーク(DiDRRN)の4団体は「障害インクルージョン:ポスト2015防災・減災行動枠組への障害者の参加拡大」と題したサイドイベントを共同開催した。過去に国連の防災関連会議において「障害」をテーマとしたイベントが開かれたことはなく、このサイドイベントは初めての取り組みであり、開催された意義は大きい。

東日本大震災の経験を基に「防災・復興のあらゆる過程に障害当事者の参加を実現すること」を訴え、基調発表を行なった宮城教育大学の松崎丈准教授のほか、タイのモンティアン・ブンタン上院議員、フィジー障害者協会とIDAの代表として参加したエレノア・カイサウ氏、米国連邦緊急事態管理庁障害者統合調整ディレクターのマーシー・ロス氏がパネリストを務めた。

議論の結果として「障害者の効果的な完全参加」「アクセシビリティ」「障害者のインクルージョンが横断的課題であることの認識」の3点が、2015年以後の新しい防災・減災の行動枠組に重要であるとの提言がまとめられ、議長に提出された。80人を超える聴衆が集まり、UNISDR職員によれば「たいへん人気のあるサイドイベント」とのことで、災害時における障害者の問題は多くの参加者にとって新鮮であり関心の高いものであったようだ。

一方、15分の持ち時間を使って次々と発表が行われるイグナイトステージにおいても、障害をテーマに日本やアジアの参加者から発表があった。日本障害フォーラム(JDF)と日本財団は、東日本大震災における沿岸被災都市の障害者死亡率が全住民の2倍以上であったことを重く受け止め、記録ビデオ「生命のことづけ~死亡率2倍 障害のある人たちの3.11~」を制作、この問題を海外にも広く伝えるため、JDF事務局の原田潔氏が発表するとともにブースも開設しビデオを販売した。

また、宮城教育大学の松崎准教授は聴覚障害者の「聞こえ」を疑似体験できる音声を英語とドイツ語で流したり、警報ブザーの代わりとなるフラッシュライトを点滅したり、趣向をこらした発表で聴衆の注意を引く発表を行なった。

さらに、ドイツを中心としたヨーロッパ系のNGOでアジアにおいて活発に活動している団体からなるDiDRRN(このネットワークの中心人物も可児さえ氏というドイツNGOで働く日本人)が招いたジョグジャカルタのろう青年たちによる発表は、ビデオを用いた防災教育に関するもので、ビジュアル的に素晴らしいものだった。

さらに、子どもと減災に関する特定テーマイベントにおいても、ベトナムの脳性マヒの少年Danh君が洪水の中、かろうじて生き延びた経験から防災対策の大切さを語り、多くの参加者の心を打った。これら発表の様子は、文末のURLアドレスを参照し、ぜひご覧いただきたい。

また、日本財団は1987年より国連笹川災害防止賞を設けているが、300人以上が参加した授賞式の挨拶で、会長の笹川陽平より「障害者など要援護者への対策を地域が一つになって取り組むべきである」という旨の発言もあり、障害者のインクルージョンに関する日本からの発信は全体として際立っていた。

2015年以後の世界的行動枠組に向けて

現在、世界的な防災・減災への取り組みは、兵庫行動枠組2005―2015に基づいて各国が努力を重ねているが、2015年3月には第3回国連防災世界会議(WCDRR)が仙台で開催され、「ポスト兵庫行動枠組(HFA2)」が採択される。

GP2013は、2015年のWCDRRまでに開かれる最後の大規模国際会議であり、その議長報告は今後のHFA2の議論にとって重要なものである。先に記したさまざまな働きかけの結果、議長報告の中で「災害は地域レベルで発生し、解決策も地域に存在するとの認識のもと、自治体が都市開発を行う場合、障害者のニーズに十分な注意を払うこと」、また「インクルーシブなコミュニティーを形成するためのエンパワワメントを基礎とした参加型の取り組みが、持続性のある防災に強い地域づくりの手段であることが示され、女性がそのような地域づくりの牽引役であること、さらに先住民、難民・国内避難民、子どもと青少年、高齢者、障害者や多くの民間支援団体が災害リスク軽減の取り組みを実施していること」が記された。

さらに、ハイレベル・ダイアログの公式声明においても、子ども、女性と並んで障害者の災害対応力強化のための支援の重要性が強調されたことは、世界的防災・減災に関する議論の中で「障害」が適切に位置づけられる確実な一歩となった。

(いしいやすのぶ 日本財団国際協力グループ長)


【関連ウェブサイト(すべて英語)】

・議長報告
http://www.preventionweb.net/files/33306_finalchairssummaryoffourthsessionof.pdf

・ハイレベル・ダイアログ公式声明
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/news/view/33281

・サイドイベント「障害者インクルージョン」
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/sideevent/view/502

・イグナイトステージ松崎丈氏
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/402

・イグナイトステージ原田潔氏
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/399

・イグナイトステージDiDRRN インドネシアのろう青年たち
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/ignitestage/view/435

・テーマ別セッション「子供と減災」(Danh君の出番は50分頃から)
http://www.preventionweb.net/globalplatform/2013/programme/featuredevents/view/486