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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

証言3.11その時から私は

再生に向けて
~盲ろう者支援に必要なこと

早坂洋子

1 はじめに

私は、仙台市に住む弱視難聴の盲ろう者で、新聞の見出しくらいの文字は見えるが、本文の文字は見えない。耳は、音は聞こえるが言葉を聞き分けることが難しい。

2011年3月11日、私はちょうど通訳・介助員のAさんと仙台駅構内を歩いていた。通訳・介助員とは、「盲ろう者」の移動とコミュニケーション、情報保障を支援する方々である。Aさんと自宅まで歩いて帰り、安全に避難ができた。しかし、通訳・介助員派遣制度にも多くの制限があり、支援者と常に一緒にいるわけではない。

宮城県では、一人の盲ろう者が津波の犠牲となった。彼に津波がくるという情報は届いていたのか? 避難する手だてはなかったのか? この命を救えなかったのかと思うと胸が痛む。今回、安否を把握できた盲ろう者はほんの一部にしかすぎず、他にも命を落とした方や、2年間大変な思いをしてきた方がたくさんいるのではないだろうか。まだまだ「盲ろう者」の認知度が低いなかでは、困難を抱えている方々を見つけることも難しい。また、盲ろう者自身が情報弱者であるため、障害があっても、支援を受ければ自由に移動したり、コミュニケーションをとれることも知らないまま、希望を持てずにいるかもしれない。そんななか、他の障害者団体の方から教えてもらった盲ろうのBさんの例を紹介したい。

2 ある盲ろう者の体験談

沿岸部に住む弱視難聴のBさんは、白杖を使って単独で移動することもあるが、暗いところや、慣れていないところは歩行訓練と手引きが必要となる。中程度の難聴で、大きな声で話せば聞こえるが、言葉の聞き分けが難しい時もある。

Bさんは、大地震の時、一人で自宅にいた。揺れが収まって自力で避難しようと部屋から脱出したところで、家族が職場から迎えにきて、車で高台へ避難した。情報がないまま避難が遅れた人もいたなか、彼は日頃の避難訓練や地域の教えから、津波がくることは間違いないと直感して避難した。まもなく15メートルとも言われる大津波が地域を襲い、自宅はすべて流された。彼自身も家族も無事だったことは何より幸いしたが、視覚に障害があっても、自力で移動できていた環境は失われた。

避難所では、広いフロアで共同生活のため、周りに誰がいるのか、周りの動きも分からず、トイレへの移動等、介助が必要な時に声をかけにくい状態だった。日中、家族が避難所を離れた時は、トイレにも自由に行けず、身動きがとれないまま一日中座っていることもあった。

約2か月半に及ぶ避難所生活を経て移り住んだ地域は、庭先から一人で出ることができないうえに、交通の便もあまり良くない環境で、ここでも家族がいないと外への移動が困難になった。そして馴れ親しんだ地域のコミュニティーからも離れ、交流も激減していった。

しかし、震災から1年経ったころ、仙台市にある、視覚障害者の支援団体の情報を得てから、生き方が大きく変わった。白杖を使っての歩行訓練を受けたり、点字やパソコン操作の訓練も受けることができた。現在では、自宅から3時間ほどかけて仙台へ出向き、障害のある方々との交流をはじめ、就職活動も含め、自立した生活を目指してさまざまな活動をされている。Bさんは今、希望の光を見つけ前に進んでいる。震災で、以前より暮らしにくくなった方々に、Bさんのように、再び希望の光が差し込むにはどうしていけばよいのだろうか。

3 今後の災害と再生に向けて必要なこと

1.盲ろう障害の周知と、盲ろう者向け制度の拡充および災害時における支援体制の確立

地震・津波等の災害等、盲ろう者の命を左右する緊急時における支援体制を確立する。通訳・介助員、警察、消防関係者が、いち早く駆けつけることができるようにする。また、盲ろう者が、近隣に居住する地域住民と共に避難できる体制づくりを整備する。さらに、被災地では盲ろう者だけでなく、通訳・介助員も被災することから、避難所での支援なども含め、中・長期的な支援を視野に入れつつ、派遣事務所の全国ネットワーク化を確立することにより、災害時等における被災地への緊急時遠隔通訳・介助員派遣システムの構築を図る。

2.地デジ、携帯情報端末等機器の整備

テレビ、ラジオ、防災無線が、見えない、聞こえない盲ろう者は、災害等の緊急情報を自力で得ることが難しい。また、携帯電話も使えず、家に一人でいる時や外出中等、他者と連絡をとることが難しい場合もある。そのため、緊急時において、盲ろう者が拡大文字や点字ディスプレイ等を使い、自力で緊急災害情報等を入手したり、助けを求めるための連絡手段が確保できるよう、盲ろう者でも使用可能な携帯情報端末等の機器を開発・整備する必要がある。近年開発された点字ディスプレイ付き携帯情報端末は、盲ろう者にとって有用であるにもかかわらず、日常生活用具として給付が認められている自治体が少ないため、各自治体で柔軟に対応していただきたい。

3.防災訓練、学習会への参加の周知徹底

大災害から身を守るため、盲ろう者自身が防災意識を高める必要がある。自力で安全な場所へ避難できるよう訓練を受けたり、自宅から避難所までのルートを確認したり、地域の防災訓練や学習会への参加を呼びかける。

4 おわりに

今後の大震災での被害を最小限に抑え、被災した方々に必要な支援とサービス、適切な情報が行き届き、被災障害者の希望の光となるように願わずにはいられない。

(はやさかようこ みやぎ盲ろう児・者友の会会長)