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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年7月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

アール・ブリュットネットワークが発足しました!

笹山衣理

アール・ブリュットとは

アール・ブリュットとは、「加工されていない生(き)のままの芸術」という意味のフランス語です。フランスの芸術家、ジャン・デュビュッフェが提唱した言葉で、正規の美術教育の流れからはみ出した全く個人的かつ独創的な方法でつくられた絵画や造形のことをいいます。

日本でアール・ブリュットとして紹介される作品の多くが、障害者が制作したものであるため、障害者アートと捉えられることが多いのですが、同じ意味ではありません。他に左右されない揺るぎのない強さで見る者の目を引きつける、そのような作品をアール・ブリュットと読んでいます。

2010年から2011年にかけて、パリ市アル・サン・ピエール美術館で開催された「アール・ブリュット・ジャポネ」展で日本の作品が紹介され、現地でたいへんな反響を呼びました。その反響が日本にも伝わり、近年国内で多くの展覧会が開催されるようになるなど、注目度が急激に高まっています【写真1】。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真1はウェブには掲載しておりません。

2011年には、埼玉県立近代美術館、新潟市美術館で、2012年には、高浜市やきものの里かわら美術館、岩手県立美術館や芦屋市立美術博物館、浜松市美術館、兵庫県立美術館で、2013年には、高知県立美術館で、そして今後、福岡市美術館、熊本市現代美術館で展覧会が予定されるなど、公立美術館でアール・ブリュットをテーマとする展覧会が数多く開催されています。

ヨーロッパでも日本の作品に対する関心は高く、2012年からヨーロッパ各国の美術館が主催する巡回展が始まりました。昨年はオランダ・ハールレムのドルハウス美術館で、2013年はイギリス・ロンドンのウェルカムコレクションで日本のアール・ブリュットを紹介する展覧会が開催されています。

また、世界的な現代美術の祭典「第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」がこの6月から始まりましたが、企画展に招待された日本のアーティスト3人のうちの一人が、前述のジャポネ展で注目された、滋賀県草津市在住の澤田真一さんでした。このように、日本のアール・ブリュットは、世界のアートシーンで評価されるようになっています。

滋賀とアール・ブリュット

アール・ブリュットに関しては、「滋賀が熱心」「滋賀の作品が多い」と話題に取り上げられることがよくありますが、なぜ、滋賀なのかというと、その理由は大きく三つあると思います。

一つは、滋賀の障害者福祉の歴史です。

滋賀では、戦後間もない時期から、福祉施設などで障害のある人の造形活動に熱心に取り組んできました。「日本の障害者福祉の父」と呼ばれる糸賀一雄氏をはじめとする先人たちの努力により、児童福祉施設の近江学園で粘土を利用した造形活動が始まり、この活動が、県内の他の福祉施設に広く受け継がれた結果、独創性の高い作品が数多く生み出されてきました。

二つめは、ボーダレス・アートミュージアムNO-MAの存在です。

養護老人ホームや障害者支援施設などを運営する社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団が、2004年、近江八幡市に障害のある人と一般のアーティストの作品を分け隔てなく展示する美術館「ボーダレス・アートギャラリーNO-MA」を開設しました(2007年に現在の名前に改称)。以降、さまざまに工夫を凝らした企画展を開催してきましたが、活動は自主企画の展覧会開催にとどまらず、全国の作品調査や、スイス・ローザンヌのアール・ブリュットコレクションとの連携事業など国内外に向けて積極的な活動を展開し、2010年には前述の「アール・ブリュット・ジャポネ」展に至りました。この展覧会の主催は、パリの美術館ですが、滋賀県社会福祉事業団のこれまでの取り組みが結実して開催に至ったものであると言えます【写真2】。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真2はウェブには掲載しておりません。

そして、三つ目が、行政の関わりです。

2004年のNO-MA開設以降、障害者の社会参加促進を目的として、滋賀県でも社会福祉事業団とともにアール・ブリュットの振興を進めてきましたが、ジャポネ展の成功を受けて、仏教美術、近現代美術とともにアール・ブリュットを滋賀の誇る美の魅力の一つとして広く発信していこうと、2011年4月には、総合政策部内に「美の滋賀」発信推進室を設置し、魅力発信に向けての取り組みを始めることとなりました。

障害者の芸術活動の支援に取り組まれる自治体はたくさんありますが、アール・ブリュットの芸術性を滋賀の宝として、その魅力を全国に向けて発信しようとする取り組みは、滋賀ならではと考えています。

ネットワークの発足

2011年、NO-MAの呼びかけにより、全国の美術、福祉、医療の各分野の関係者が一堂に会する「アール・ブリュット作品調査ネットワーク会議」が設置されました。この会議の活動期間は1年限りのものでしたが、参加者が議論する中で、継続的な全国ネットワーク設立の機運が高まっていきました。

誰かに見せる目的でつくったわけではなく、静かに存在する作品たちが世に出て行くためには、多くの関わりを必要とします。制作活動を支える人、作品を見出す人、展覧会などで魅力を伝える人…。美術、福祉、医療、研究機関、行政など、異なる分野や立場の人たちがつながれば、これまで気づかれず処分されてきた作品を発掘し、守ることができるかもしれない。こうした思いから、昨年夏に滋賀からネットワーク発足の呼びかけを行い、賛同者とともにネットワーク設立に向けての準備を進めました。

今年の2月10日、全国規模の組織となる「アール・ブリュットネットワーク」が発足しました。会長には国立西洋美術館長の青柳正規さんが、副会長には日本精神科看護技術協会会長の末安民生さんが就任し、滋賀県「美の滋賀」発信推進室と滋賀県社会福祉事業団が共同で事務局を担当することになりました。

発足に先だつ昨年12月から会員募集を始めていましたが、予想以上の反響をいただいています。2013年6月14日の時点で、全国46都道府県から団体・個人合わせて550件の入会があります。このうち426件が滋賀県外からの入会です。

設立当日は、大津市で設立記念フォーラムを開催し、全国から320人もの参加をいただきました。参加した皆さんの声を聞きますと、全国の情報が知りたい、このような集まりを待っていたと、ネットワークにたいへん期待していただいていると感じます【写真3】。
※掲載者注:写真の著作権等の関係で写真3はウェブには掲載しておりません。

ネットワークの今後の活動

ネットワークは、全国各地で活動する仲間がつながれる場所であるよう、当面、次の活動を予定しています。

1.会員名簿の作成

2.フォーラムや会員交流会の開催

3.メールマガジンの発行

会費は徴収せず(催しにより、参加費が必要な場合があります)、年1回のフォーラムのほか、年に2~3回程度、会員同士の情報交換の催しを開催することを予定しています。また、この6月にはメールマガジンを創刊しました。全国の展覧会、フォーラムなどのイベント情報をはじめとして、会員からの耳寄り情報など、「アール・ブリュットの今」を発信していきます。団体・個人を問わず、趣旨に賛同される方はどなたでも入会できます。交流会など会員向けの催しに参加したい人は「会員」としてご登録ください。メールマガジンの情報だけ受け取りたいという人は「情報会員」として、専用のホームページからアドレスを登録するだけで入会できます。

本格的な活動はこれからですが、アール・ブリュットについての理解や議論を深めて、国内外に魅力を伝えていけるよう、多くの方にぜひご参加いただきたいと考えています。
http://www.pref.shiga.lg.jp/a/kikaku/art-brut/network.html

(ささやまえり 滋賀県総合政策部「美の滋賀」発信推進室)