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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2013年8月号

自閉症スペクトラム障害(ASD)当事者の傍らにいる人へのメッセージ

片岡聡

1 自己紹介

私は高機能自閉症の当事者で、2010年から東京都自閉症協会の当事者スタッフとして活動しています。すでに、発達障害の当事者活動は大都市を中心にさまざまな団体が存在します。しかし、ASDの困難が大きい私が無理なく持続可能に参加できる当事者活動には出合うことができませんでした。ようやく居場所を見つけたのが知的障害の方、高機能の方まぜこぜの東京都自閉症協会での当事者運営スタッフとしての活動でした。また、この4月に自分でNPO法人リトルプロフェッサーズを設立して、ASD的なマイペースで自閉症者として事業を立ち上げようとしています。

2 発語困難で受動的なASD者に安全の保証を

今では発達障害当事者の方が自らの体験を語ることは珍しくなく、さまざまな当事者会が存在します。しかし、ASDの困難が強い人にとって安心して存在できる当事者会というのはとても少ないのが実情です。ある意味当然なことですが、団体を立ち上げようという人は発達障害の中でも発語が多く、対人指向性の強い方であることがほとんどです。その当然の帰結として、発語が少なくコミュニケーションが少ない状態で安定するタイプのASDの方がとても存在しづらくなります。

また最近、アスペルガー症候群などの高機能のASDの診断がとても荒くなり、性格や親子関係の問題で生きづらい方々がASD圏の診断で当事者活動などにアクセスすることがとても多くなりました。このような人たちとインクルーシブに活動できれば問題ないのですが、残念ながらそのような方々が受動的なASDの方々を傷つけてしまい、ASD者が当事者活動で新しいトラウマを付加される問題はもはや看過できない状況になっています。

3 ASD者から見たインクルーシブに活動できる人たちの条件

非ASDの方々でも、私たちASD者にとってインクルーシブに活動できる方々は障害者であれ、健常者であれ、ともに地域で活動していきたいと思います。実際に私も、内科的な難病を抱える方々や私たちASD者を傷つけない健常者の人たちには助けられてきました。

私たちの多くは「人の悪意」というものを見抜くことが困難な上、困難な状況に陥ったときに困難だと認識し助けを求めることができないことがよくあります。従って、私たちASD者の意思を尊重しつつも、悪意のある人に利用されそうになったとき等に状況を整理して問題点に気づかせてくれる支援や、当事者同士の相互チェックは必要だと思います。

またほとんどの人が視覚、聴覚、触覚などの感覚過敏・鈍麻や協調運動障害に伴う著しい不器用さを抱えており、このような診断基準にはない困難を障害の一部と認め、配慮してくれる人がインクルーシブに活動できる人たちの条件だと思います。まとめると、ASD者は他の発達障害の方や健常者と一緒に活動するときに最も弱者になりやすく、弱者を踏み台にしないインクルージョンをできる人たちと活動したいのです。

4 これからのASD者活動

これまでのASD当事者活動は「発達障害者の当事者活動」に包摂され結果として、「最も深刻な発達障害」(米国精神医学会)であるASD者の啓発や権利擁護は、発達障害全体のそれに比べて著しく立ち後れてしまっている状態と認識しています。自閉症臨床の経験の乏しい医師により誤ってASDと診断された方々が、「免罪符」としてASDを使うのをASD者としてやりきれない思いでみてきました。このような状態はASD者にとっても、ASDではない向き合うべき問題が別にある非ASDの方にとっても決してよいことではありません。まずは、正確なASD診断・判定・評価ができる医療機関が多くできることを望みます。

その上で、今後のASD者活動はどうあるべきか? 私は全国的な大きな団体が一つ存在するよりも多様なかたちの小規模な団体がたくさんあり、ASD者全体の利益に関わる政策上の問題が発生したときには協調するという「ゆるくつながる」形が理想的だと考えています。

5 終わりに

私たちASD者が他の障害と違うところは、「認知」に関する障害という側面が強く、状況認知が困難な状況で「自己決定しそれについては責任を持つ」というモデルをそのままあてはめると、たとえ高IQの人でも過酷な場合があるという点です。自閉症的に楽しい人生を送るためには、「本人によりそった見守り」というかたちでの支援が必要です。いわゆる意思決定支援について、ASD者に不利にならないかたちでの議論の深化を望みます。


プロフィール(かたおかさとし)

1966年新潟県生まれ。東京大学薬学部卒。博士(臨床薬学)。製薬会社研究開発、大学助教などを経て現在、自閉症スペクトラム障害(ASD)児の身体的困難の研究、ASD児の学習支援と教材開発の研究、ASD児の余暇支援を行うNPO法人リトルプロフェッサーズ代表。NPO法人東京都自閉症協会当事者スタッフ。4年前にASDの確定診断を受ける。